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カンボジアで出会った義足の女の子

「みなさんの力でミャンマー国民を助けてください!」

ミャンマー人の団体が声をそろえて訴えている。

その声を背にし、信号待ちをしていた。

募金箱を縦に振り、ジャラジャラとお金の音を
たたせている。

なんともいたたまれない気持ちになり、
少しだけ後ろをふりむく。

ただそれだけの行為をして信号が青になるのを
待っていた。

ざわざわとした気持ちになっている。

すぐに閉ざされた記憶がよみがえってきた。


友達と世界を旅した7年前のこと。

出発する前に旅のノウハウを各々で調べた。

特に発展途上国は物乞いの子供たちにあいやすいため、
その子らにお金を渡してはいけないとか、
リュックを置きっぱなしにしないとか、
ファスナーに南京錠をつけた方がいいとか、
本とネットの情報を頭に叩き込む。

3か国目のカンボジアでの出来事。

『天空の城ラピュタ』のモデルになった遺跡があると
きき、宿で出会った日本人と一緒に行くことになった。

遺跡に到着し、私は一人で遺跡内を歩くことにした。

すると現地の女の子が私のところへやってくる。

片足義足の女の子。

『案内するよ』

と言わんばかりの表情で有無を言わせず誘導してくれた。

私は何の疑いもなく女の子について行き、
遺跡内をめぐった。

彼女は『ここで写真を撮るといいよ』と
ジェスチャーで教えてくれて、
私の写真を撮ってくれたりもした。

遺跡内はでこぼことした岩がつらなっている。

暑さもあり、途中から疲労感も出てきていた。

ようやく終わりの場所までたどり着いた。

ジェスチャーで「ありがとう」と彼女に伝える。

彼女が案内してくれたおかげで遺跡内を
満喫することができた。

彼女には感謝しかなかった。

そう思っていると、彼女は手を出してきた。

「お金をください、チップをください」

という意味らしかった。

さっきまでの彼女への感謝の気持ちはどこへ行ったのか。

私は態度が豹変し「ノー」と答えていた。

物乞いにお金を渡してはいけないという認識が
強く働いていたのだろう。

その時も絶対にお金を渡さないという意識が
強く働いていた。

素直に「ありがとう」の気持ちでチップを渡せなかった
自分が心底情けなくなった。

自分が醜い。

ミャンマー人の団体を背にした私は、あの時の
自分の醜さを思い出さずにはいられなかった。

こうなったら、またカンボジアに行こう。

そして、またあの女の子に遺跡を案内してもらおう。

ちゃんとお礼を伝えよう。

7年経った今、そう思うことができている。




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