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愛犬の肉球をまぶたにあてていたあの頃

幼き頃、家族の一員だった愛犬の肉球を思い出す。

愛犬の名前はごん。

ごんの肉球が私は大好きだった。

匂いも感触もフォルムも、全てよし。

ごんの肉球は私の変態気質をくすぐらせる対象だった。

ごんが寝ているのを見計らって、
肉球の匂いを嗅いだり、形をじっくり観察したり。

『前足と後ろ足の肉球は大きさが違うんだなぁ』

『前足の肉球の方がどっしりと分厚く形が大きいなぁ』

肉球と肉球の間から飛び出た毛を
チョロチョロと触ったりもする。

私の癒しの時間。

一日中ずっと触っていたかったけれど、
ごんは私のことを下に見ていたので、
おとなしく肉球を触らせてはくれなかった。

触ることができるのは、
ごんが疲れきって寝ている間。

そのタイミングを見計らっては、
ごんの肉球を触ったり、匂いを嗅いだりしていた。

ただ、指先で触るだけではもったいない。

気がつくと、ごんの後ろ足をゆっくりと持ち上げ、
自分のまぶたに肉球をペタッとあてていた。

なぜ、まぶたなのか。

まぶたは皮膚で最も薄い場所だからだ。

対象を最も繊細に感じることができる場所。

それを誰かに教わらなくとも、私は分かっていた。

愛おしいごんの肉球を、めいいっぱいまぶたで感じる。

ざらざらとした表面、その奥にあるやさしい弾力。

指先で触るのと全く違う感触だった。

ふわっと土の香りもする。

ごんが草むらの中を駆け回ったあとの匂い。

ごんの肉球と私だけの世界。

まぶただけにとどまらず、顔全体ペタペタと
ハンコを押すように肉球をあててみたりもした。

あぁ、ごんの肉球が恋しい。

あの頃のように、まぶたに肉球をペタっとあてたい。

今そんな気分だ。


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