見出し画像

どうやって美術品を"ホンモノ"にするのか

===========
男は笑いを堪えるのに必死だった。

巨匠の絵をマネただけの男の絵に対して鑑定人は言った。

「私がそう思うのだから間違いない」

男が唾を飲み込むより早く、鑑定人はこれを巨匠の"ホンモノ"であると断定した。
男はこれを売って大金をせしめた。

今度はかつてこの巨匠から直接譲り受けた作品を鑑定人に持ち込んだ。

すると鑑定人はこの作品を一瞥するや"ニセモノ"と吐き捨てた。
そんなハズはないと激昂する男に鑑定人は言った。

「私がそう思うのだから間違いない」
==========

日本の美術館や博物館に金がないことは昨今も何かと話題になりますが
企画展など特定期間の来場者数は世界有数(というかダントツ)です。


ならなんで金ないねん?と思った方は
各企画展の協賛・企画欄にあるメディア会社に聞いてみよう。


何となく映えそうだし暇だから来たギャルから
召されたのかと周囲を不安にさせるほど宗教画の前から動かないおじいさんまで多くの人が展示品を眺めます。


それがホンモノだと信じて。


当然、美術館にある作品はホンモノです。
そんなところを疑って展示品を見るような性根の腐った輩はいません。私です。


ですが、どこぞの「なんでも鑑定」してくれる番組のおかげで美術品にニセモノがあることは知っているし
蚤の市とかで知ってる画家の絵を見たら「これホンモノ…?」と最初に思うのではないでしょうか?


因みに本来、鑑定=真贋判断のため上記の番組のように値段は出しません。
アレは”査定”です。


では、「ホンモノの美術品」とは何でしょうか?

何をしたらホンモノになるのでしょう?

ここでは主に物故作家の作品の話になります。


現存作家は生きてるんだから本人に聞いたらよろしいんですが
コレが不思議と忘れたり間違えたりするんですね。


冒頭にあったのは実際に私が見聞したことのオマージュですが
美術品をホンモノというのに実にやっかいなことが、直接作家からもらったものでもよっぽどの近親者でなければ

「何でそれがホンモノっていえるん?」

という第三者からの疑問を解消する必要が出てきます。

そのため、美術品をホンモノたらしめるには

1、来歴、文献資料
2、鑑定証(それに類する資料)

などが主に重要になってきます。

1については、要は「どこの誰が持っていた」とかが
作品の真贋や、価値に重要な要素になるということです。


例えば、同じ時計でも私がつければゴミですが
大谷翔平がつければお宝です。
私が大谷翔平が使用したバット売りに出したら「窃盗犯か?」と疑われますが
ご家族が出せば誰も疑いません。

そんなもんです。


世には鑑定機関のない作家・作品もあるため
そうした類は、この来歴資料などで諸々の判断をします。


この資料がニセモノ、または現在では信頼性が低いとされるケースもあります。
もう何を信じたらいいんでしょうね?


しかしながら、こうした来歴・資料があっても
鑑定機関があれば、その鑑定結果が作品がホンモノかどうかの最終判断となります。


つまり、鑑定はその美術品が世間的に無価値と言われてしまうかどうか命運を握るわけです。


では、常人ならざるそのジャッジメントは、どのように行われているのでしょうか?


それは、「勘」です。

ウソです。

各鑑定機関で手法は異なりますが、主な流れは下記のように。


1、作品をガン見する(たまにチラ見)。
2、文献資料などを調べる(たまにノリで端折られる)。
3、鑑定結果を出す。

「いや、コレ”勘”では…?」
と思った方はその無粋な心を改めてください。


鑑定人とは卓越した"目"を持ち
その作家作品への比類ない知識を体得していなければ成り立ちません。


さらに、その鑑定で一度ミスが起これば
業界での地位を失った挙句、その作家の価値までも貶めるリスクに耐え得る重厚な精神を有します。


「いや、もっと科学的な調査とかしないの?」

と思った方はその浅ましさを呪ってください。


鑑定人は専門家の(科学的調査で詳細を特定する)見地にほとんど頼りません。

==========
鑑定人とは
それがどんなモノかは分からないが
美しいかどうかは分かる

専門家とは
それがどんなモノかは分かるが
美しいかどうかは分からない
==========

などと言われるように、その判断に科学の力など借りません。


「じゃ資格とかがあるんでしょ?」

と思われた方はその猜疑心を抱いたことを懺悔してください。


美術品とは千差万別でありながら深淵なるもの。
それを資格という凡庸な一形式で括ることなど不可能に近いのです。


このように、常人では不可侵のジャッジにより
映えある"真作"の冠を与えられた作品は、ホンモノとして世に認知されます。


御託はさておき、大体の鑑定とは実際こんな感じです。


繰り返しながら、鑑定機関によりますが
パッと見で鑑定証が出るところもあります。


また、鑑定人はその結論を一度曲げれば二度と仕事にならないので
科学がどうの誰がどうの言ってもほぼ100%結果は変わりません。


たまにトチ狂ったのか、同じ作品をしれっと持ってくと結果が変わる不思議体験もあるとかないとか。


ここまで聞くと「俺も明日から鑑定人になるわw」と思う方もいるかもですが
普通になれます(現実的にどうなるかは置いといて)。


しかしながら、鑑定には「間違ってはいけない」プレッシャーとリスクがある中で
チョロっとメモに書いたものから作者がピッチピチに若い頃の誰も知らん作品なども来るので、その判断は困難を極めます。


モメれば裁判沙汰になることもしょっちゅうなため
なりたい職業ランキングに載ることはまぁありません。


それが、美術界の神の如き所業

鑑定です。

この記事が参加している募集

業界あるある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?