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足立光「CRMが嫌い」←わかる

山本一郎(やまもといちろう)

 言葉として、CRMが示す意味が広すぎて訳が分からんので、こういう議論になるのもまた当然なんですけどね。全力でうなずきながら、トイレで踏ん張っていました。

 ただ、対談しているのがCRMのお化けとも言えるゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の志賀智之さんだったので、いわゆるCRM的なるものを否定するつもりはないんです、でもいまのCRMの使われ方はおかしいと思います、という話になってしまうのもまた当然で。

 私はマーケティングの専門家ではないけど統計は仕事柄使うので、どうしても大手事業者のやる確率思考的なマーケティングの向こうで見え隠れするCRM的なるものの存在意義についての議論はちょっと遠く感じるんですよ。例えば、政治産業が行う世論調査や情勢調査から導き出される当落予想というのは圧倒的にスモールデータであり、それに基づいて、ある種の究極のCRMでone to oneマーケティングとも言える公職選挙でサイコロを振り、どういう行動(街頭演説や訴えかける政策の順番・時間の取り方、商店街巡り、戸別etc)がその投票所ごとの得票に結び付いたのかを調べていく作業を積み重ねていくわけです。

 これらはCRM的なるものからすれば王道ど真ん中なのだけれども、顧客に支払わせるコストは「平日に期日前投票所なり、日曜日に投票所に行って、自分の名前や所属政党を投票用紙に書いてもらうこと」であって、そこに主義主張をどれだけ織り込むのか、自分よりも政党名をドーンと出すべきかどうか、あるいはその時折々人気のある政治家とのツーショットをポスターに貼り込むことなど、様々なオプションを検討する必要がある。

 ところが、one to oneのような振る舞いを考えれば考えるほど、公示(告示日)からヨーイドンで行われる選挙日程で繰り広げられる選挙戦よりも、実は選挙戦ではない普通の日々において、地元の催し物になるだけ長い時間顔を出して最後にみんなでテントを畳んでから帰ったり、通勤通学にいく道すがら駅前や頻繁に車の通るロードサイドで雑踏の埃まみれ、排ガスまみれになりながらタスキをかけただ立って手を振ったりすることの重要さが強調されるようになります。足立光さんが語る内容というのは実はとても深くて、単に誕生日だからお前店に来いよとクーポン付きで自動送信されるメールによってロイヤリティを確保することはむつかしいでしょうという、本来の人間同士の付き合いとそこにまつわる、促される行為(それが購買なのか投票なのかは別として)にどのくらいの確率で帰結するのかという話になります。

 翻って、ファミリーマートやP&G社のような巨大企業のマーケティングがCRM的なるものへの理解が深まるにつれて、各事業単位の自律性や個別の関係性に回帰していってるのも興味深いところです。

 例えば、最近ではコンビニエンスストアも地域特性を考えて大規模イベント前には需要が急増するおにぎりなど軽食が分厚く売られたり、地元のスーパーが少し遠い立地にあるコンビニでは遠くまでコロコロ引っ張ってお買い物に行くのが億劫な高齢者の人たち向けに生鮮食料品まで店頭で売られており、アレな地域では広めのイートインスペースを使ってこども食堂が定期的に開催されたりするのは、やはりセル単位、店単位での特性をきちんと把握して、本部指示でなくても自律的に店舗営業が可能なように、日販の規模が面で多くとれるような施策を容認し、むしろ奨励するようになったからだろうと思います。

 だからこそ、コンビニがインフラになっていくのだという面もさることながら、売るものそのものがコミュニケーションであり、お客様とのコンタクトするプロセスそのものにしていくビジネスの輪郭・デザインにまで昇華してきたのだろうということです。本部がチェーン全体の仕入れでエンパワーする能力は必要なことだけど、地域でのブランド力を高め、少し車に乗ってそのコンビニを選ぶ、または横断歩道を渡る手間をかけてでもあっちのコンビニに行くという選択を得られる確率を上げることの重要さが、最近のCRM的なるものの変遷の大事なところだろうと。

 いままでは、結構雑に「顧客ニーズ」と扱われていたものの解像度がそれなりに上がっていって、お客様が求めるコンタクトの仕方や、この商品があるからこのコンビニに足を向けるんだという動機やシーンの作り方まで洗練の途上にあるのだとすれば、確率によって精度の高い需要予測をしフードロスを減らしたり、配送のローディングタイムを大きく取ったりすることもまた可能になっていくのでしょう。そして、究極には商圏人口がもっと小さくても店舗一個維持できる売り上げを確保できる仕組みを作り、CRM的なるものに支えられた経済がより合理的になって、便利になっていくプロセスを助けるものだとも思います。

 結局、ビッグデータだからこれができるだろうというのは幻想であって、ゴルフダイジェストにせよ野球成績予測にせよ、コミットしている社会やお客様の基盤に対してより忠実にデジタル技術をどう使うかというところに重点が置かれるべきなんだろうなあと改めて感じた次第です。

 そして、こういうちゃんとした競争によって磨かれる技術と思想がきちんと業界に実装されてどんどん進化し便利になる世界がある一方、ブラックだパワハラだと問題視されて身動きが取れなくなる界隈が日本中に残されているのは残念だなあとも思いますね。


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山本一郎(やまもといちろう)

神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント

山本一郎(やまもといちろう)
作家/投資家。当アカウントは概ね個人の意見です。情報法制研究所上席研究員、お座敷置物芸全般。ゲームと読書と野球と調べものと。