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事態打開の見通しが立たない少数与党って大変だねという話

 「国民(勤労世帯)の手取りを増やす」の公約で躍進した国民民主党の言い分には一理あって、確かにいまの税務税制と社会保険料とで共働き世帯の手取りを考えると子育て3人を賄うことはむつかしいので長期的に考えて人口減少にも都市部人口集中にも原因となるのでどうにかしましょうというのはみんな一致するところです。

じゃあ何が問題なんだよ

 一番の問題は「財源がないよなあ」という話です。

 財源がないのでどっかから捻り出すわけなんですが、普通に必要とされ機能している事業を削って、あるいは根拠法を改正したり廃止するなどして潰すといっても無理があります。

 また、いま国民民主党の話を何故聞かなければならないかと言えば、「いまのままでは石破茂政権は短命の少数与党になりかねないから」であって、もちろん将来的に少数与党にならないのであれば、キャスティングヴォートを握れない国民民主党の言うことを聞く必要は無くなります。もしかしたら来年のいまごろ国民民主党が与党になったり、玉木雄一郎さんが総理大臣になっているかもしれませんが、しかし「いまはそうではない」ので石破政権からすれば政権運営の安定のために国民民主党の言うことを聞くしかないのかとなります。

 他方で、組み先は別に国民民主党である必要はありません。「是々非々の姿勢」を国民民主党が堅持するのであれば、103万円の壁対応を争点にされて仕方なく自由民主党と公明党が飲んで、与党と国民民主党との協議が成立しても、別の法案で国民民主党が「その与党案はいやだ」と言われたら何のために103万円の壁で譲歩したのか分からなくなります。他の案件で賛成してくれる保証が国民民主党にないのなら、蹴りゃいいじゃん、そんなの。

 なので、その103万円の壁への対応で現役世代への手取りを増やす政策の実現を石破政権において「やるぞ」と合意したら、それ以外の与党案もある程度飲んでねという話を国民民主党に取りつけなければなりません。ただ、そういう話はどうも微塵もしてなさそうなんですよね。素人じゃあるまいし、何してんのって言われても仕方がない気がします。

 さらに、この後防衛増税の財源問題のつなぎであるNTT法改正とか地方創生関連予算とか国民民主党からすればかなりどうでもいいor与党案に賛成する余地の乏しい重要法案も並んでいます。というか、いまの玉木雄一郎さんと榛葉賀津也さんのツートップ体制なら割と気にせず与党案を蹴ってくるんじゃないかと思います。少なくとも、いまの官邸のメンバーで国民民主党に103万円の壁で譲歩すれば国民民主党が他の与党案でも喜んで賛成に回ってくれると楽観的に考えている人はいません。なら、何で休日返上で妥協案検討しているんですかね?

 なので、103万円の壁はとりあえずの政策論点として特別国会での具にしようというのは過渡的なもので、本格的な多数派工作や重要法案の審議日程、賛否調整では国民民主党との交渉が不調なら立憲民主党と膝詰めするほかないだろうという話にもなります。

 また、河野太郎さんが「正しいけどいまその議論はしてない」っていう典型例のポストをしていたので皆さんお目通しいただきたいのが「3号被保険者制度の廃止」に関する議論などです。

 社会保障論全体で言うならば、河野太郎さんは間違ったことは書いていません。いずれはその議論は必要になるでしょう。ただ、3号の話は、いいだしっぺの連合(連合総研)でさえ10年ぐらいかけて、法を改正して3号を無くす提言としているほど、働き手に対してはインパクトなる話で、短くても6年ないし8年ほどの移行期間を準備しないと成立しない話です。

 しかし、『いま』問題となっているのは「(下手すると年度末しか持たないかもしれない)石破茂政権で、これらの103万円の壁などの問題に対して着地点を見出すこと」ですので、6年なり8年なり超未来の話を目指して調整するぞなんて話は誰もしていません。この段階でそんなことを言っているから「河野太郎は相変わらず駄目なんだな」という話になるかもしれませんが私は知りません。

財源どうすんだよ

 で、話はまた元に戻るわけなんですが、とりあえず国民民主党が信用できるかできないかは別として、確かに政策として勤労世帯に引き続きこんな大きい負担を続けさせるわけにもいきませんから、ちゃんと健闘したほうが良いよねってモードになってるのが石破茂政権のクソ真面目なところです。国民民主党の態度やキャラクターはともかく、主張していることに一理あるのです(重要)。「あー、むつかしいっすねぇー」で投げちゃわないのが石破茂さんのキャラクターなんだなあというのはよく理解しました。

 なので、財源をどうにかして捻り出さないといけないぞってなって、まあなんとなくその辺にいる目玉が二個あって両手が二本ついてるやつがかき集められて検討を開始してみたんですが、国民民主党の原案通り所得控除を176万円にするため7兆6,000億円程度のカネを捻り出そうとすると、ちょうど一年ほど前に岸田文雄さんが政権やってたころに検討していた防衛増税幅を捻り出す論議と同じような話になります。よく考えると、なぜあのタイミングで無理筋のNTT法改正&株売却で一次財源をという話になったのか、私にはよく分かりません。結局はどこかで恒久財源をひねり出さないといけないんだから、初めから無理筋だったんじゃない?

 それはそれとして、いちからその辺の財源をどうにかしようという話になったとして、結論からするとまあ8兆円弱ぐらいならたぶん何とかなりそうんですが、何とかするための方策を考えるにあたって、とりあえずバイト集めてきて検討した財源案というのは「やればできるんじゃね」ぐらいの話です。なので、最終的には政治決断というか「総理はこのようにお考えである」と印籠だして、みんなでははーっっていう儀式やって、初めてじゃあこの法律はこう変えて財源捻り出そうとか、つまらん事業だから廃止しちゃえってそれなりの時間をかけて段取りを決めて粛々とやっていくことになります。

 そうなると「来年はもちろん、この年度末にすらいるかどうか分からない石破茂さんのご決断をなぜ我々は優先しなければならないのですか」って話になります。もっと厳密に言えば「はいそうですね、じゃあ今国会終わり際までに着地目指して頑張ります」と生返事して、切った刻限のころには石破茂さんはもういないわけです。また蒸し返されたら「そうですねえ、あれは何だったんですかねえ」ととぼけて終わられるとそこで試合終了です。

 充分に絶対安定多数であれば、骨太の方針にそって持ち回りでいいから閣議決定して日程案とかピン留めして進めるんでしょうが、なにぶん少数与党ですので閣議決定されても閣法で出せるかどうかすら微妙だぞってなります。確実に通るから閣議決定ってのはそれなりの重みをもって受け止められているんですが、今回の通常国会でも次の臨時国会でも、どう考えても原案通りには通らないだろう法案に喜んで左右されてくれるお人よしはおらんのであります。少数与党の悲哀であります。

他に話の分かりそうな野党いないのかよ

 そしてみたび「国民民主党は信用できるのか」って話になるわけですが、弊所で国民民主党は信用できないよな派が勢いづく決定的な文言が出てきてしまって面倒くさいことになりました。

自らの主張する政策を前面に押し出しつつも、財源論は与党側に押し付けるなど強気の姿勢で交渉に臨む

https://www.sankei.com/article/20241108-AZ2UZCKJENPB5JPOTKUDPYFQLU/

 これ、外で言う必要あったんですかね…。

 個人的に思うのは。これは「当たり前のことなんだから、別に榛葉さんがわざわざいう必要もなかった」やつで、与野党協議の中で乗ってくれそうな野党を一本釣りしないといけないのは石破政権の側ですから、国民民主党案を丸のみする覚悟で臨むならば財源案は与党が考えて出さなければならないわけです。当然です。

 ところが、本来なら野党側がそれを言ったらいけなさそうなことを榛葉さんが口にしたため、財源案まで責任もって対応したいとは国民民主党は思ってないって話になるので、103万円の壁以外は是々非々であって与党入りするわけではない国民民主党に党を挙げて検討し譲歩してもどうせ後からケツまくられて裏切られるじゃないかっていう。そんなぐらいなら代案出さなくていいじゃないかってモードになっちゃうわけですよ。これはもう、3手目を間違えてしまって詰まなくなった詰将棋みたいなものです。与党も野党も感情的になるやつです。

 なんかナイーブな感じがしますねえ。

 なので、どうせ四の五の面倒くさい交渉に発展して話が変な方向に行くぐらいなら、なぜか予算委員会の委員長職あげちゃった立憲民主党と話すりゃいいじゃねえかってなります。相手はなにぶん安住淳さんですので、すんなり話が成立するかどうかは別として。案件一個一個調整しながら対応しなければならないから少数与党は運営が大変だって話なんですけど、組み先がいないんだからしょうがないだろうってことですよね。

 また、マスコミの皆さんなんかからは日本維新の会はどうなんだってのはよく出ますけど、吉村洋文さんが出馬されてカウンターに来られるのなら話はできそうな気もしますが、誰が表に立ってやるかだけじゃなくて、水面下の交渉役ができる人が思い当たりません。なんというか、維新との交渉でロジが成立する気がしません。どうするんすかね。いろいろ話は流れてきますが、お前どうなんだって言われても僕バイトなんで…。

 これで吉村さんが代表選にすら出なくて、例えば東徹さんになりましたとなったら、協議どころではなく日本語が通じるのかどうかも不安な状態になります。ただでさえ公明党の大事な大阪の議席を吹き飛ばしておいて、のんびりと維新と交渉することは厳しいと持っているのに。

 まあ、この辺はどうなるのか私も良く分かりませんけどね。
 ただ、なんか党執行部も石破官邸もその辺で積極的に条件交渉したり膝詰めで諸調整したりしているようには見えません。あんまりやる気がなさそうな感じがします。あるいは能力が足りないか、人手がないか。

 なんかこう、石破茂さんって衆議院選挙敗戦後、少数与党から脱却するために根性入れて多数派工作したり野党対策したりするような動きが見られないのは、石破茂さんの慎重で誠実なご性格が強く反映されているような気はします。「事態を見極めたい」とかいう。

日程どうすんだよ

 で、立憲民主党とどう話をしておくかが大事だと思うんですが、いまのところ、少なくともざっくり17本ぐらいある重要法案をどれを優先しどれをあきらめるのか、野党が通したさそうな案件をどこまで握るのか、また野党にも譲った各委員会に紐づいた国会の日程をどう調整して年度末の予算を、ひいては会期末まで粘っていくかというリソース管理の問題になってきます。

 ただ、目下ここがまったく決まっておらず、不透明なのでどうしようもないのです。正直、誰も分かっていないんじゃないですかねえ、いまの永田町でも。

 なぜか先に騒がれた自公国維で握っているアクティブサイバーディフェンスの件にしても、先日小林鷹之さんがお騒ぎになられて突然ポストが新設されていきなり進みました。サイバーセキュリティ担当大臣に就任したのは俺たちの平将明。能動的サイバー防御の早期法制化は得点にならないとはいえ対外公約でもあり、進めないわけにもいかない案件です。

 それ以外にも、公務員のインフレ対応をさせるための給与法や、今臨時国会のもう一つの正念場となる政治資金規正法などの改正があって、補正予算の審議も待っています。これらの議会運営を図りながら、それ以外の重要法案が上手く審議できるのか、国対を通じて手探りで日程案を捻り出す必要があるんですが、あんまり見通しが良くないのが現状です。

 そして、国民民主党の言う103万円の壁自体は、見ようによっては勤労世帯への減税案(負担減)に類するものなので、党内・公明党や国民民主党以外の野党から別案があれば国民民主党が何を言おうが蹴っ飛ばしてもいいって話になってしまいます。この辺の間合いがむつかしい。

 なので、まずは日程を固められるところまで抱えている重要法案のどこまでを実現しようとし、どれを吊るすのか、予算案を通すために何をどこまで譲歩する余地があって、どこまで守れれば与党・石破政権の勝利とするのか、というあたりを決めないといけないのです。何かその辺がぼやっとしたまま、あの党がこう言っている、あの人物がそう主張している、話が決まらずアジェンダが落ちてこないっていうところでだけワイワイ騒ぐものだから、周りが振り回されるし、石破茂さんものんびり地方創生のお部屋作って写真撮ったりしててみんなイライラするんだとおもうんですよ。

勝利条件って何なんだっけ

 ここで石破茂さんが方針を固めず状況だけがどんどん悪化していっているのは純粋に「これは籠城のお考えだな」と気づくわけなんですが、籠城というものは我慢してお城に籠っていれば援軍が来たり先方の兵糧が尽きたりして敵が囲いを解いて退却してくれることを期待してやるものです。

 今回の石破政権の場合、少なくとも刻限が年度末の予算成立で決まっていて、ここが日程的にこぼれるようなことがあれば予算を通すための総辞職か会期末での不信任案が運命づけられているわけですから、本来であれば、事態打開のために打って出なければいけない立場です。少なくとも、静かにしていれば時間が問題を解決してくれるという性質のものではないのです。

 こうなると、「自由民主党にとっての最善」と「石破茂にとっての最善」とが異なることになります。勝利条件が違うのです。石破茂さんとしては、当然無様に政権を投げ出すような事態にしたくない(=予算成立とバーターに総辞職に追い込まれるor通常国会会期末に不信任案を出されて成立させられて7条解散に打って出ざるを得なくなり衆参ダブルとなる)わけですが、自由民主党からすれば来年の参院選で大敗することは避けたいので選挙の顔になり得ない石破茂さんを良きところで退陣させていま一度総裁選をやり、新しい顔で参院選を戦いたいということになります。石破茂さんを降ろすタイミングでの利害が、党と総理とで違う、ってのが大事です。

 根本的に利害関係が異なるが、いまの自民党の状態で石破さんを降ろしても次の人は新たな泥船の船長に祀り上げられるだけでいいことはありませんから、衆院選敗戦直後というタイミングを逃した以上は「石破おろし」の風が吹くのは予算成立が年度内にむつかしい場合に限られるのではないかとも思います。だからこそ、石破茂官邸としても政権を上げて重要法案をどこまで通せるかの日程調整に本腰になる必要があるはずなのですが…。

 続けたいなら真面目に権力闘争しようよ、という。

 石破茂さんが一日での長く総理の座を守る→年度末の予算成立と、会期末での不信任案を乗り切るのふたつの勝利条件をクリアしたとして、それで参院選に勝てるのかというのは重要なファクターとなります。ただ、このまま国会運営を続けていったところで、与党には基本的にはいいことはありません。ずっと支持率は上がることなくじりじりと低迷していき、少数与党で実績も挙げられず非常にしおしおとした政権にならざるを得ないでしょう。

 それで参院選や都議選勝てるのか、と言われると、悲観的にならざるを得ないのも事実です。どうしましょうかね。

 それでも政策の継続性を担保し国民のために働くんだとするならば、頑張って前を向いてやっていく以外にありませんから、石破茂さんには頑張っていただいたいと願っています。

 画像はAIが考えた『状況が超悪化し、野党からも仲間内からもどうにかしろと超絶詰められながらも独自の鈍感力とM気を発揮して穏やかな笑顔で難局を乗り切ろうとするが特にこれといって方策はない総理』です。


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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント