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「使える職員と使えない職員」という考えについて思うこと

こちらの記事で、援助者支援を考えるようになったきっかけについて書きました。
援助者支援を考えたきっかけ

今回は援助者チームの中で起きてくる人間模様について考察してみたいと思います。

様々な対人援助の現場で「使える職員と使えない職員」という考え方のフレームが採用されてしまう場合があります。

結論を先に書きます。

(1)援助者集団が「使える職員と使えない職員」という考えに囚われてしまうことは必ずある。それは避けられない。

(2)ただし、それは危険サイン。例えるなら部屋に高温の毒ガスが充満しているような状態。放置しておくと、休職者や退職者が出る。マルトリートメントも起きる。

(3)部屋のまどを開けて冷風を入れるように、組織の換気と室温を下げることが必要。冷たい(と感じられる)意見を聞くことや、外部の人の意見を取り入れる必要がある。

こう考える理由を書きます。

例えば、誰もが受けてきている対人援助の原点、子育て場面を考えてみましょう。
子育ては、夫婦が協力して取り組む課題です。

夫婦が、お互いに相手のことを「使えない」「使える」と評価していては、子どもは健全に育ちません。

父母には、それぞれに役割(ロール)があり、それぞれのロールを遂行する必要があります。

しかし時に、お互いのやり方に疑問を抱いたり、不安を感じることがあります。

でもそこで「使えないお母さん(お父さん)だな」と子どもに伝えたりしたら、もうガラガラと音を立てて、夫婦関係、親子関係は崩れていくでしょう。

お互いに本気になって子育てに臨むからこそ、相手に対して、がっかりしたり、失望したり、怒りを感じたりしてしまいます。

そんなとき、「(夫は)(妻は)使えないなあ」と思ってしまうかもしれません。

熱くなってお互いを責めてしまうかもしれません。

そこでいかに踏みとどまれるかが大事だと思います。

土俵際でなんとか粘れるような手だてを打つ必要があります。


夫婦で、「こうしてほしい、こうしたらいいと思う」と話し合いをしながら、お互いの妥協点を探っていく話し合いが必要です。

お父さんもお母さんも、違う家庭で育ち大人になったわけですから、生活習慣のあらゆる場面で「違い」はあるわけです。

それを、話し合いながら、折り合っていきます。(実際には喧嘩になることがほとんどでしょう。子どもに喧嘩は見せても大丈夫です。そのあと、しっかり仲直りしたこと、子どもに責任はないことを、はっきり子どもに伝えてあげることが大切です。)

お父さんの使える力、お母さんの使える力を使っていく。適材適所です。

お父さんの苦手はお母さんがカバー、お母さんの苦手はお父さんがカバー。

全員野球やトータルフットボールのイメージで、協力していくわけです。

夫婦は運命共同体なので、そのような動きを取りやすくなるでしょう。

世の中の多くの夫婦はそのようにして子育てに向きあっていることでしょう。(と言いたいけれども、そうも言えない現状もありますね)

一方で援助者チームとなると、仕事のための集団ですから、運命共同体という程のコミットにはなりにくいでしょう。

私がかつて行った研究では、職員が夫婦制で子どもの寮生活を受け持っている施設の方が、職員が交代制の施設よりも、職員のメンタルヘルスが安定している可能性が示唆されました。
(普通は、夫婦で住み込みで他人の子どものお世話をするなんて、絶対しんどい。と見られがちに思いますが、それとは裏腹な結果です)

夫婦という運命共同体だからこそ、ある意味逃げ道がなく、相手と向き合うことになるからでしょう。

正面から逃げずに向き合う結果、協力関係ができるのだと思います。

また、虐待やネグレクトなどの被害を受けたトラウマがある人の場合、人と人が協力する姿をなかなか見たことがありません。

全員野球、全員サッカーの姿とは真逆の、独善的な「俺様だけが支配するチーム」での野球、サッカーをさせられてきた影響が出てしまいます。

そのような養育者像を持つ子どもたちは、大人はそのような振る舞いをするものに違いないと思っています。

何かにつけ、やっぱりそうだ。と理由をつけてきます。

やっぱり威圧してくるんだ。
やっぱり殴るんでしょ?
やっぱり放置するんでしょ?
やっぱり使えねえ奴だな。

この圧は大変強いので、大人は思わず、威圧しそうになったり、放置しそうになったりします。

使えねえ奴、使える奴の発想にも陥ります。

この発想が、職員集団にも伝染してしまいます。

これは健康な状態ではありません。病んでいる状態です。

ですので、それに気づき、修正をはかることが必要です。

ただ、はっきり申し上げると、病んでいる状態にならない支援の現場は無いと思います。

できるのは、病んでいる状態になるべく早く気づき、軌道修正をする、病みながらも持ちこたえることだけです。

オール〇〇、チーム〇〇というスローガンをかかげたりする組織がありますが、残念ながらスローガンだけでは変化は起きないでしょう。

職場の空気を冷まし、換気が必要です。

一見、やる気のあまり見えない職員さん、熱意の低い職員さん、協調性のないように見える職員さんが、大切な視点を持っている場合があります。

ビジネスライクな職員さん、現場の最前線から少し離れた場所にいる職員さんなどが冷静に打開策を考えられる場合があります。

また、外部のアドバイザーなどの組織外の意見が的を得ている場合もあります。

そのためには、人の意見を聞いてみることが大切です。この勇気を持てるかどうかにかかっていると思います。

特に管理者が、この視点を持てるかどうかが組織の明暗を分けるのでしょう。

管理者は常に冷静な頭と心を取り戻せるような、自分なりの工夫が求められるのだと思います。

しっかり内省的なカウンセリングを行って、日常的に自分を見つめる時間を持つことは大いに有効だと思います。

しかし残念なことに日本では、組織のトップが継続的にカウンセリングを受けている例はまだまだ少ないように思います。

カウンセリングは組織のマネジメントにも役立つし、ご自身の人生の豊かさにもつながると思います。

最後はカウンセリングへのお誘いになりましたが、あなたの組織はいかがでしょうか。
使えるor使えないの毒ガスは充満していませんか。

文献
「児童自立支援施設職員の共感疲労、共感満足およびバーンアウトリスクの調査」子どもの虐待とネグレクト14(3)347-358



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