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二人展《空はシトリン》|影山多栄子&永井健一|誰もが一人の

 本記事では、影山多栄子と永井健一が、宮沢賢治の詩「春と修羅」をテーマに創作した4点の作品を紹介する。

二人展《空はシトリン》会場風景(以下同)

 自由な想像と創造の世界。両作家の感性を具現化する力には圧倒される。それぞれの個性にふれて、賢治の詩の世界にひたりたい。

 気高さの中に反骨心を秘めた挑むようなまなざし。仕立ての良い服は身分の高さと揺るがない個性を示している。作家が「春と修羅」の詩から創り出したのは、意志の強さと繊細さが同居する孤高の王子。

 表情に滲む余裕は、まだ本当の意味で世界を知らない恐れ知らずの若者特有の自信か、それとも世界を見通す知性と感性を備えた者の孤独ゆえか。揺れ動く聡明な若いこころ。内なる闘志と絶対的な自信。その逡巡に賢治の詩が息づいている。

 水面に映った樹は、人間の肺のような形を成して息づいている。芽吹く季節。生きているからこその激しい感情。飛び立つ鴉は私を見つめているのか。いや、その目は私の。

 目の前に広がる糸杉が、波立つ心に冷静と情熱の両方を投げかける。それはただの糸杉だ。わかっている。だから心の奥底を見透かすのは、それだけは。

 自然は息づき、私は沈む。
 自然は動き、きらめき、まぶしく、心がつらい。

 コントラストが胸を締め付ける。それでも自然に心奪われるのはどうしてか。自然と一体化してしまえたのなら。それでも私は。

 修羅となった我が身に映る春の光景。命が飛び交い、営みは続く。聖瑠璃の風がこれでもかと美しく吹き付ける。迷う私はそれでも歩き続ける。

 春がまぶしい。誰もが一人の修羅なのだ。

影山多栄子|人形作家 →Blog
山吉由利子(球体関節人形)、宮崎優人(市松人形)に人形制作を学ぶ。石粉粘土と布を中心に様々な素材を使い、ひとりひとり違うお話を感じさせるような可愛らしさと不思議さを持った人形作りを心がけています。[個展]2003年 「うきわ」ギャラリー古桑庵、2004年 「まくら」ギャラリーNonc Platz。以後数年おきに個展を開催。ほか企画展、グループ展など多数。2007年創作人形専門誌「Doll Forum Japan 49号」表紙掲載。2018年 作品集「遠くをみている」発行。

熊谷めぐみ|ヴィクトリア朝文学研究者 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』からシャーロック・ホームズにたどり着き、大学でチャールズ・ディケンズの『互いの友』と運命の出会い。ヴィクトリア朝文学を中心としたイギリス文学の面白さに魅了される。会社員を経て大学院へ進み、現在はディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。モーヴ街5番地、チャールズ・ディケンズ&ヴィクトリア朝文化研究室「サティス荘」の管理人の一人。
Twitter|@lond_me



作家名|影山多栄子
作品名|春のいちれつ

顔と両手のみ石粉粘土・両目はガラス・アクリル絵具・布・ポリエステル綿・ベレット・ビーズほか
作品サイズ|身長38cm/座高28cm(ブリムを含む)
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショットの画像を掲載しています

作家名|永井健一
作品名|春の肺

アクリル・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|5.8cm×3.8cm
額込みサイズ|22.5cm×18cm
制作年|2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|ZYPRESSEN

アクリル・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|5.8cm×3.8cm
額込みサイズ|23cm×18.5cm
制作年:2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|まことのことば

アクリル・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|5.8cm×3.8cm
額込みサイズ|21.5cm×17cm
制作年|2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|あるく修羅

アクリル・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|5.8cm×3.8cm
額込みサイズ|25cm×21cm
制作年|2022年(新作)

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