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ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 5|荒涼館《1》

day5_荒涼館_原文_冒頭

『荒涼館』あらすじ

霧深いロンドンの大法官裁判所では遺産をめぐる不毛な訴訟「ジャーンディス対ジャーンディス」の裁判が行われている。エスタは後見人となったジャーンディスに引き取られ、彼の親戚で、裁判の関係者でもあるエイダとリチャードとともに荒涼館で暮らすことになる。

 ひときわ霧深い夜のロンドンからツアースタートです。
 DAY 5の今日は、小説『荒涼館』の舞台をゆっくりと巡ります。まずは、小説冒頭の裁判の舞台となる「大法官裁判所」を目指します。

 濃い霧が橋を覆いつくす中、救いのようにガス灯が灯る村松桂さまの美しい灰色は、冷気を纏って小説世界の不穏を語ります。

day5_荒涼館_地図_村松さま

day5_荒涼館_作品_村松さま

村松桂 | 写真家 →HP
フォトコラージュ、フォトモンタージュ、多重露光といった手法を採用し、イメージを重ね合わせることで静謐な物語性を秘めた作品を発表している。2004年に初の個展を開催以降、個展・グループ展など多数。また、個展に合わせて写真集も発行し、紙上でのみ可能な表現も試みている。
Twitter: @_katsuraM_
Instagram: @katzlein_6

00_ツアー案内_文と訳

霧のロンドン


 ディケンズの作品で霧のロンドンの描写はよく見られるが、その中でも『荒涼館』の霧は圧倒的である。冒頭の場面から、辺り一面を濃い霧で覆われたロンドンの様子が描かれ、不穏な空気を醸し出している。霧はどこにでも忍び込んできて、ある瞬間には何かを覆い隠しているが、次の瞬間にはその存在を明らかにしている。

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 霧に閉ざされた街の中でもっとも霧が濃い場所とされるのが、『荒涼館』の物語の中心となる「ジャーンディス対ジャーンディス」裁判が行われる、リンカーンズ・インの大法官裁判所の辺りである。ここでは、多くの希望ある人々が、金と命を吸い取られ、大法官裁判所の犠牲となってきた。そして今、若く希望に燃えた新たな犠牲者が、裁判の関係者となってこの地に現れようとしていた。

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 霧深いロンドンは現実世界を映した写実的な描写であるだけでなく、霧に隠された街の秘密を示唆している。霧は不正や貧困といった社会の暗部を覆い隠すだけでなく、作品内で主人公エスタを含め多くの登場人物が抱える秘密や謎の在りかをも隠しているかのようである。

熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。



00_通販対象作品

作家名|村松桂
作品名|Curtain of night

作品の題材|『荒涼館』(夜のロンドン)
シルバーペーパーにデジタルピグメントプリント
作品サイズ|7cm×18cm
額込みサイズ|17.5cm×28cm×2cm
制作年|2020年(新作)

村松さま_荒涼館

村松さま_荒涼館_額

Text|KIRI to RIBBON

 書物の薄きページに重層的に広がる小説世界を、イメージを重ねてゆく手法で薄き一枚に定着させる写真家・村松桂さまの霧の情景。

 橋を覆う霧は、鉱物の顕微鏡写真を用いて表現されています。ちいさな鉱物の中から小説に広がる風景のピースを発掘し、別の写真とモンタージュしてひとつの情景として仕立てる——芸術家の感性、考古学的発想、技師の手技が見事に結実した写真作品シリーズの一作です。

 『荒涼館』で印象的に登場する霧の情景。霧が立ち込めることで見え隠れする物語の光と影を不穏な灰色で暗示しながら、人生という橋を彷徨う登場人物たちの灯台となるガス灯が煌々と救いを灯しています。

★村松桂さまの他の作品★

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