見出し画像

ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 1|クリスマス・キャロル《2》

day1_2_原文1

『クリスマス・キャロル』あらすじ

ロンドン、クリスマス・イブの夜。強欲で人間嫌いなスクルージの前に、かつての相棒マーレイの幽霊が現れる。マーレイの予告通りに現れた、過去・現在・未来のクリスマスを象徴する三人の精霊に導かれて、スクルージは時を超えた旅に出る。

 《物語の街》を楽しんだカムデン・タウンから、スクルージの事務所があるシティに移動しましょう。

 写真家・村松桂さまが切り閉じた、時が織り重なる幻想的な風景が一枚、また一枚と、霧の合間を縫ってシティのストリートに舞い降りてきました。『クリスマス・キャロル』の物語は続きます。

画像14

day1_2.2_作品

村松桂 | 写真家 →HP
フォトコラージュ、フォトモンタージュ、多重露光といった手法を採用し、イメージを重ね合わせることで静謐な物語性を秘めた作品を発表している。2004年に初の個展を開催以降、個展・グループ展など多数。また、個展に合わせて写真集も発行し、紙上でのみ可能な表現も試みている。
Twitter: @_katsuraM_
Instagram: @katzlein_6

00_ツアー案内_文と訳

霧と幽霊
 前が見えないほどの深い霧が立ち込めるクリスマス・イブのロンドン。人々は上機嫌でクリスマスを祝うが、スクルージにとって、クリスマスはくだらないものでしかない。いつもと変わらぬ仕事をし、いつもと変わらぬ不景気な居酒屋で食事をし、いつものように霧と霜で覆われた家に戻ってきたスクルージは、そこで、いつもとは違う光景を目にする。スクルージには七年前に亡くなったマーレイという仕事の相棒がいた。古びた家の錠前に鍵を差し込んだ途端に、扉のノッカーがマーレイの顔に姿を変えたのは霧が見せた幻影だろうか。想像力とは無縁のスクルージは、ばかばかしいと言いながら扉を閉めるが、家の中に入っても不可思議な現象は続く。

画像15

day1_2_原文4

 今はもう使われていないはずの呼び鈴がいっせいに鳴り響き、そして止んだ。部屋の外からは鎖を引きずる音が近づいてくる。スクルージの前に現れたのは、ありし日の姿そのままのマーレイの幽霊だった。しかし、マーレイは奇妙な鎖で体を縛られている。よく見るとその鎖は金庫や鍵束、南京錠や台帳からできていた。生きている時に作った自分の鎖にからめとられて苦しんでいると語るマーレイは、生前の自分と同じように金儲けのことしか考えないスクルージに警告するとともに、自分のような運命から逃れる見込みと希望があると伝え、三人の精霊の訪れを予言する。

画像15

 スクルージが仕事の相棒であった生前のマーレイとどのような関係を築いていたのかはわからない。マーレイの葬儀当日も普段と変わらぬ仕事をこなすくらいにはスクルージは打ちひしがれていなかったとあるので、親しい友人のような関係ではなかったのかもしれない。しかし、マーレイは自分と同じ間違いを犯さぬように苦しい思いをしながらもスクルージに警告にやってくる。それを思えば、二人には少なからず友情があったのだろうか。孤独なスクルージにも、こうして忠告に来てくれるマーレイのような存在がいるということは、スクルージが心を入れ替える可能性があることを示唆しているのかもしれない。

画像13

 マーレイが飛び去った窓の向こう側、暗いロンドンの空には、悲しみの声をあげながらさまよう恐ろしい幽霊たちの姿が無数にあった。その姿にスクルージは恐怖するが、彼に救いの手を差し伸べたのもまた、マーレイという幽霊であった。霧深きクリスマスの夜のロンドンでは、何が起きても不思議ではない。大勢の幽霊たちが姿を潜められるほどに、この街は霧に満ちているのだから。

熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 →Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。



00_通販対象作品

作家名|村松桂
作品名|It was quite dark already

作品の題材|『クリスマス・キャロル』
シルバーペーパーにデジタルピグメントプリント
作品サイズ|7cm×18cm
額込みサイズ|17.5cm×28cm×2cm
制作年|2020年(新作)

村松さま_クリスマス

村松さま_クリスマス_額

Text|KIRI to RIBBON

 遠近感も曖昧になるほどの深い霧。シティを彷徨いながら出会ったのは、霧の中に銀粉がすべらかに舞う幻想的な風景。銀粉は時の残滓。過去、現在、未来を旅した精霊たちがロンドンの街に遺していったもの——

 多重露光などの手法でイメージの断片を重ね、静謐なモノクロームの諧調の中に幻想を紡ぐ写真家・村松桂さま。村松さまとディケンズの眼差しは「霧の詩情」という点で交差するように思います。

 見知ったイメージを見知らぬ風景へと仕立て、私たちを路地裏の異界へと誘う二人の芸術家の視線。全ての音を霧が吸い込んでしまったような沈黙が支配する小宇宙へ、ただただ身をゆだねてみたい。

00_通販対象作品

作家名|村松桂
作品名|Wandering ghosts

作品の題材|霧のロンドン
シルバーペーパーにデジタルピグメントプリント
作品サイズ|7cm×18cm
額込みサイズ|17.5cm×28cm×2cm
制作年|2020年(新作)

村松さま_霧のロンドン

村松さま_霧のロンドン_額

 教会の古塔が霧の中に凶々しい黒い影を落とし、ゴシックな薔薇窓が小暗い音階を奏でるように精緻な細工を覗かせるここシティ。

 見える人影は、本物か、それとも幻影か——。時間旅行中のかく言う私たちも、霧の中にまぎれる未来からの幻影。村松さまの一枚に重ねられた人影もまた、いつかどこかで存在した私たちが切り取られた人影なのかもしれない——

 村松さまの孤高の一枚を観るたび、記憶と忘却のはざまに存在する私たちを含めた事象について思いを巡らす。霧深いロンドンでもまた、至純のモノクロームに出会うことができた。

 夜も更けてきました。『クリスマス・キャロル』最後の場所に移動しましょう。

★村松桂さまの他の作品★

★作品販売★
通販期間が当初の告知より変更になりました

12月7日(月)23時〜販売スタート

★オンライン・ショップにて5%OFFクーポンが利用できます★

本展のオンライン開催方法と作品販売については

以下をご高覧ください

00_MauveCabinet_ラスト共通


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?