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レース模様の図書室、再訪|野村直子|ある午後、図書室で

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Text|KIRI to RIBBON

 新緑がさらに煌めきを増し、春から初夏へと移りゆく健やかな頃——ここ菫色の図書室では、煌めきを頁の中に探すように、少女たちが書物の迷宮を散策しています。

 1年前と変わらぬ落ち着きで迎えてくれた懐かしい図書室で、午後のひとときを過ごしましょう。



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 図書室は書物が傷まないように、書架の方には強い日差しが届かない造りになっているから、書架の辺りはいつもひんやりと薄暗い。ぐるりと囲む壁の菫色も、本当はもっと鮮やかなラベンダー色なのかもしれないけれど、グレイッシュな翳りを宿している。
 薄暗く、古い紙の匂いが漂うひんやりとした心地に、緊張は和らぎ、深くゆっくり呼吸ができるようになる。

 教室でのひとりぼっちは時に好奇な視線を注がれることがあるけれど、図書室はいつだって、ひとりに優しい場所。安堵の場所で次に読む本を選ぶ時、今度はどんな新しい世界への扉が開くのか、想像するだけで胸がいっぱいになる。
 背表紙の魅惑的な題名から、あるいは題名を囲む洋風の飾り罫のデザインに惹かれて、一冊を手にとって目次や挿絵を見てはまた書棚に戻し、隣の一冊を手にする——

 背表紙という迷宮の地図の上を行ったり来たりしながら、少女はひとり、幸福な時を過ごす。

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 菫色の図書室に佇む、レースドレスに揃いのリボンを結んだひとりの少女。精緻なレース模様の白が、少女の純真を際立たせています。

 そこはかとない憂いを目元にたたえる美術家・野村直子さまの描く少女たち。無垢な感性は白レースに翻り、伸びやかに育ちはじめた知性は大切にかかえた一冊の書物に込められ、感性と知性が繊細に交差する様が美しい面差しへと流麗につながっています。

 レースの白に描かれているのは、模様を際立たせるための翳。翳を知る画家が優美な筆致でレース模様を描いてゆく——絵筆から丹念に編まれてゆくのは少女への讃歌。野村さまのポエジーの源泉には、複雑な少女たちへのやさしい肯定の眼差しがあります。

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 1年前の図書室の少女にも会えました。
 あの時の緊張や不安を共有し、一緒に乗り越えてくれた少女です。行き交う訪問者に、変わらぬ優しい眼差しを注いでくれています。

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 ピエール・ルイス『ビリチスの歌』やバレエ・リュスの演目《薔薇の精》に捧げられた常設作品も図書室に飾られています。

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 物事を闊達と新鮮に感じる一方で、不安や諦念のような小暗い心象が去来しはじめる少女時代。繊細な時を過ごす少女たちが見せる一瞬の表情を、野村さまの絵筆は逃さず丁寧にとらえます。

 菫色の図書室に野村さまの少女たちがいてくれること——かつての私たちを肯定してくれる存在の心強さを、再訪した今日も得ることができました。

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野村直子 | 美術家 →Twitter
舞台美術、衣装デザイン、立体造形、人形制作など、舞台や映像作品を中心に活動。宇野亞喜良助手としても多くの演劇作品に携わる。

00_通販対象作品

作家名|野村直子
作品名|ある午後、図書室で

アクリルガッシュ・紙(ボード)
作品サイズ |12cm ×17cm
額込みサイズ |16cm ×20cm
制作年|2021年(新作)

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00_通販対象作品

作家名|野村直子
作品名|図書室の夢 

アクリルガッシュ
作品サイズ|18cm×12.5cm

額込みサイズ|34cm×28cm
2020年(常設作品)

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00_通販対象作品

作家名|野村直子
作品名|夜が幸いであるために 

アクリルガッシュ
作品サイズ|14.5cm×9.7cm
額込みサイズ(スタンド型)|18.5cm×12.2cm
2019年(常設作品)

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00_通販対象作品

作家名|野村直子
作品名|薔薇が囁いたいくつかの言葉

アクリルガッシュ
作品サイズ|19cm×27cm
額込みサイズ|30.5cm×39.5cm
2018年(常設作品)

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