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くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|巻頭エッセイ|Klemens Maginot|ビンゲンのヒルデガルト

 Hildegardは、900年ほど前にビンゲンに実在した、修道女の名前です。ドイツでは、親しみを込めて、ヒルデと呼ばれています。

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》
会場風景(以下同)

 ビンゲンというのは、Rheinlandpfarz(ラインランドプファルツ州)にある、ドイツのどこにでもあるような街です。大きさから言ったら、中くらいという認識かと思います。日本のドイツのガイドブックに載るとしたら、おそらくライン河下りの途中の街として、一回見るかどうか?ドイツ人でさえビンゲンの名前を知らない人もいるかと思います。
 小さな城の部分が残っていたりはしますが、さっと見て廻ろうとすれば2時間もあれば十分かもしれません。それでも、世界各国から「ヒルデがいた街」として観光客が訪れます。知る人ぞ知る観光地でしょうか? 

 ヒルデガルトは、そんな街の名前の知れた存在です。娘が通った中高校は、ヒルデガルトの名前を冠していて、控えめな胸像も学校の前に立っていたりします。

 ヒルデは、色々なことに秀でていた女性でした。音楽家としても、いくつかの作曲を残しています。
 その才能の中でも特に、修道院の中での生活で培われた「薬草」を使った医療は、現代でも頻繁に活用されています。彼女の著した『Causae et Curae(病因と治療)』には、薬草の知識を基にした対症医療だけではなく、「健康的な食事」のとり方という内容もありました。食材を丸ごと食する。・・という方法も彼女の提唱する「健康的な食事」に含まれています。

 当時のおなじみの薬草から忘れ去られたような薬草も含めて、刻んだり乾燥させたりの手法をもってDinkel(スペルト小麦)に、混ぜました。
 スペルト小麦は、ヒルデが最も有益で有効な食材として一日のうちに何回かに分けて食するように勧めた食品です。彼女は、この食材を手軽に摂ることができるように、クッキーのようにしたとされています。ただし、クッキーとは言ってもオーブンで焼いたのではなく、丸めた生地を乾燥させたようです。

 長い間、忘れ去られていたとされるスペルト小麦が、近年再び脚光を浴び始めたのは、食物アレルギーを持つ人でも摂取できる食物だというのがわかったからです。
 スペルト小麦というのは、現代ではすでに理想的な食材であると認められています。ビタミンやミネラルだけではなく、エネルギー源であるタンパク質、炭水化物、油脂も含まれているのですから。そのようなわけで、健康志向の客層の要望に沿って、どのパン屋でもスペルト小麦を使用したパン製造を行うようになりました。

 展覧会に先立ち、完成された絵画の数枚を見させてもらいました。実在したヒルデと彼女に寄り添う妖精たちの様子は、おとぎ話の一コマの様です。でも、スペルト小麦のパンの前に佇む姿や修道院へと向かう森の様子。楽器を手にするヒルデ。こういった場面は、かつて本当にあった事の日常の様子だったかと思います。

 是非、ヒルデたちの居た風景を訪れてみてください。これらの風景は、現代のビンゲンの風景にも続いています。時空を超えたような不思議なそして穏やかなひと時を感じて下さい。

 興味のある方は、レシピを載せましたので、参考にしてみてください。

会場風景写真|霧とリボン

Klemens Maginot(クレメンス・マシノ)|マスターベイカー・パストリーマイスター・食品衛生管理者
幼少の時より、父のベーカリーを手伝いながら、16歳の頃より専門的にパン+ケーキの道に入りました。アジア各国でドイツパンの普及をしていました。今はビンゲンの市民講座でパンやケーキなどの講習をしています。職業が趣味でもあります。

くるはらきみ|画家・人形作家 →Twitter
東京生れ。幼い頃より自然のある場所に憧れる。大学では油彩を専攻しながら独学で人形制作を始める。2000年に長野県に移住。季節の移り変わりを身近に感じながら制作活動をしています。くるはらきみ & 影山多栄子二人展《夏の夜》(2019年・霧とリボン)ほか、個展、グループ展多数。



作家名|くるはらきみ
作品名|ビンゲンのパンの丘

油彩・キャンバス
作品サイズ|27.3cm×横 22cm
額込みサイズ|36.3cm×横31cm
制作年|2022年(新作)

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