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ディケンジング・ロンドン|TOUR DAY 2|互いの友《1》

day2_互いの友_原文冒頭

★『互いの友』あらすじ
塵芥で財を成したハーモンの莫大な遺産を受け継ぐことになっていた息子のジョン・ハーモンが、テムズ川で水死体となって発見される。彼の死と残された財産をめぐって、二組の若い男女を中心とした社会のあらゆる階層の人々が「互いの友」を通じて交錯する。

 ツアーDAY 2を迎えました。今日もヴィクトリア朝ロンドンは深い霧に包まれています。

 昨夜訪れた『クリスマス・キャロル』ゆかりのシティで出会った写真家・村松桂さまの幻想に誘われて、長編『互いの友』冒頭に印象的に登場するテムズ川にやってきました。

 小暗い水面に反響する光と影は生と死の象徴。今日もディケンズ世界を深部まで潜る旅をご一緒致しましょう。

day2_地図_村松さま

day2_作品_村松さま

村松桂 | 写真家 →HP
フォトコラージュ、フォトモンタージュ、多重露光といった手法を採用し、イメージを重ね合わせることで静謐な物語性を秘めた作品を発表している。2004年に初の個展を開催以降、個展・グループ展など多数。また、個展に合わせて写真集も発行し、紙上でのみ可能な表現も試みている。
Twitter: @_katsuraM_
Instagram: @katzlein_6

00_ツアー案内_文と訳

生と死がめぐるテムズ川

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 ディケンズ最後の完成長編小説である『互いの友』は、執筆当時(1860年代半ば)のヴィクトリア朝ロンドンが舞台となっている。物語は、テムズ川の印象的な場面から始まる。夕暮れが迫る頃、サザック橋とロンドン橋の間に一つの舟が現れる。ギャファー・ヘクサムとリジー・ヘクサム父娘は、川に落ちているものを拾い集めてそれを売る、テムズ川の「さらい屋」として生計を立てているのだ。この場面は、社会の底辺でたくましく生きる彼らの現実を描写しているだけでなく、物語全体の重要な伏線となっている。

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 彼らが川底から拾い集めるのは通りかかる船から落ちた高価な品や、金属や石炭などさまざまであったが、その中でも重要なものが水死体であった。懸賞金がかかった死体を拾い上げれば報酬が出た。警察に引き渡す前にポケットから金品をくすねることもできた(ギャファーいわく、あの世の死人はこの世の金を必要としないから盗みにはならない)。娘のリジーは恐怖心を拭えないでいるが、父親の指示通りに手慣れた様子で舟を操っていた。そして、この日も、「それ」は見つかった。

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 見つかったのは、莫大な遺産を相続することで世間の注目の的となっていた若者ジョン・ハーモンの死体だった。彼の死は、世間を騒がすだけでなく、作品中のあらゆる人々を結び付けていく。ここでテムズ川は、死を表す場所であるだけでなく、水死体として引き上げられることによって、生きている人々に新たな影響力を及ぼしたり、人々の生活を成り立たせるといった、生と死が交錯する場所として示される。

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 そして、『互いの友』ではその後もずっと、テムズ川における死と再生のイメージが繰り返されていく。不気味で恐ろしいが、どこか詩的ですらあるこの冒頭の場面は、作品を貫く、生と死がめぐる場所としてのテムズ川を象徴する重要な箇所となっている。

熊谷めぐみ | 立教大学大学院博士後期課程在籍・ヴィクトリア朝文学 Blog
子供の頃『名探偵コナン』に夢中になり、その影響でシャーロック・ホームズ作品にたどり着く。そこからヴィクトリア朝に興味を持ち、大学の授業でディケンズの『互いの友』と運命的な出会い。会社員時代を経て、現在大学院でディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。



00_通販対象作品

作家名|村松桂
作品名|Black sunset on Thames

作品の題材|『互いの友』
シルバーペーパーにデジタルピグメントプリント
作品サイズ|7cm×18cm
額込みサイズ|17.5cm×28cm×2cm
制作年|2020年(新作)

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村松さま_テムズ川_額

Text|KIRI to RIBBON

 『互いの友』の中で、生と死が綾なす場所として幾度も登場するテムズ川。透明に煌めく水面と、「さらい屋」がうごめく川底。テムズ川の光と影が登場人物たちの運命に伴走し、また影響を及ぼしてゆく——

 村松桂さまがここで見せるのは、生(再生)と死が繰り返されることで陰影を濃く深くしてゆくテムズ川の風景。黒々とした水面から光の粒子がさざなみ立ち、そこに停泊し行き交う船や向こう岸の建物が、水面から彫り出されたような鋭利な質感で浮かんでいます。ディケンズがテムズ川の風景からくっきりと登場人物たちを描き出しているように。

 生と死が反復する風景に重ねられているのは、鉱物の顕微鏡写真。繊細な粒子のヴェールが実は硬い鉱物である不思議。写真という水面に村松さまが幾重にも重ねたイメージ、その小暗い水底に、ディケンズの描いた生と死がたゆたっています。

 『互いの友』の旅は続きます。

★村松桂さまの他の作品★

★作品販売★
通販期間が当初の告知より変更になりました

12月7日(月)23時〜販売スタート

★オンライン・ショップにて5%OFFクーポンが利用できます★

本展のオンライン開催方法と作品販売については
以下をご高覧ください

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