レース模様の図書室、再訪|金田アツ子《1》|夕ぐれの色、薔薇の色
新しい緑の眩しさが落ち着きを見せる晩春の夕暮れ——図書室の菫色もうっすらと翳りを帯びてきました。暖かだった室内にも冷気が少しずつ流れ込み、昼から夜へと移ろうはざまの刻が訪れます。
何度も読み返してきた書物が、ふと哀音を奏でる時間帯。時のはざまで揺れる少女のこころに寄り添うことができますように・・・
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レースブラウスを折り目正しく纏い、髪をきっちりと結い上げたひとりの少女。熱心に紐解いていた書物からふと目を上げ、夕暮れの諧調が差し込む窓辺に近づいていきました。
少女も、読み止しの頁も、夕ぐれの色に染まっています。
書物の世界に没頭していた純真な表情は消えて、少女の横顔には臈長けた憂いが宿りはじめました。壁に落ちるレースカーテンの影が、少女のこころを写すように、静かに揺れています。
少女の繊細なこころの機微を、少女自身が他の誰にも悟られないようにしているひそやかな気持ちを、丁寧に掬い上げ、描いてきた画家・金田アツ子さま。囁きにすらならないこころの声に耳を寄せ、祈りの絵筆に伝えて、一枚一枚、世に送り出してきました。
どこまでも深い慈愛と、一方で、人間の営みへの冷徹な視線が、アツ子さまの画業を支えているように思います。繊細さへの共感、という言葉では言い尽くせない知的に成熟した精神性を、アツ子さまの少女たちに出会う度、私も得たいと強く願うのです。
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薔薇色を透かすレースの中で、書物に綴られた一節を深く深くこころに届けようとする少女。書物は少女の聖所でありながら、その言葉がこころに届けば届くほどに、存在の矛盾について、絶望する。
薔薇色の中に広がるたわわな髪は、絶望の深さを写したかのよう。いつの日か、潔癖なまでに清廉を求める少女が、自らの手で髪を束ね、花や蝶と同じぐらい、人間を愛することができますように・・・
ひとりきりの少女が、ひとりきりのままで安堵できる椅子が菫色の図書室にあります。いつでも居心地良く過ごせるように、その椅子は或る少女たちによって磨かれ、守られています。
アツ子さまの少女たちがこれからも、多くの少女たちを安堵の場所へと導いてくれるに違いありません。
エミリー・ディキンソンをテーマに昨年発表された常設作品も、図書室の少女たちと一緒に飾られています。
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金田アツ子 | 画家 →Twitter
心のどこかにずっとおいてもらえる様な絵を描きたくて精進中。誰にとっても懐かしい、祈りの言葉絵になれますように。1995年初個展「ゆうすげの花」(カフェ宵待草)、2000年個展「オトメチカ」以降、カフェ宵待草を拠点に名曲喫茶「ネルケン」等大好きな場所で1年に1~2回個展を開催。他、グループ展多数参加。
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作家名|金田アツ子
作品名|夕ぐれの色
油彩・シナベニヤ
作品サイズ|25cm×17.5cm
額込みサイズ|30.3cm×22.8cm
制作年|2021年(新作)
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作家名|金田アツ子
作品名|薔薇の色
油彩・シナベニヤ
作品サイズ|14.3cm×20.7cm
額込みサイズ|19.6cm×26cm
制作年|2021年(新作)
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作家名|金田アツ子
作品名|夢だけでもいい
油彩・シナベニヤ
作品サイズ|24cm×16.8cm
額込みサイズ|30.3cm×22.8cm×2.5cm
制作年|2020年(常設作品)
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作家名|金田アツ子
作品名|わたくしは誰でもない。あなたは誰?
油彩・シナベニヤ
作品サイズ|24cm×16.8cm
額込みサイズ|30.3cm×22.8cm×2.5cm
制作年|2020年(常設作品)
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作家名|金田アツ子
作品名|私の星はどこにもない
油彩・シナベニヤ
作品サイズ|19.8cm×13.5cm
額込みサイズ|26cm×19.5cm×2.5cm
制作年|2020年(常設作品)
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