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菫色の実験室vol.5|菫色×スミレ属

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霧とリボン 直営SHOP 5周年記念 & 鉱物Bar by 鉱物アソビ オープン記念連動企画展《菫色の実験室vol.5〜菫色×スミレ属》|2020.8.22~30 *8/24~2… もっと読む
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菫色の実験室vol.5|鳩山郁子|紫黄(しおう)水晶蜂鳥幻想

 最初の実験室を出て、ふたたび長い廊下を歩き始めました。菫色の紙挟みに納めた日誌は、薄い数枚でありながら、不思議な重みを腕に伝えてきます。  夜の帳が降り、白衣の裳裾が歩幅に合わせて擦れ合う音さえ響くいっそうの静寂が、あたりを覆ってきました。いつしか灯った菫色の電燈に導かれて、いくつかの扉を通り過ぎました。  一閃の鋭い匂いがスミレの香りを分断したのち、とろりと甘やかな香りに満たされた扉の前にいま、私は立っています。 * * *  気のせいだったのでしょうか——扉をく

菫色の実験室vol.5|書評|鳩山郁子『羽ばたき Ein Märchen』—生への飛翔、あるいは落下—

Text: 嶋田青磁  羽ばたく——。  それは、人間にとって不可能な行為である。なぜなら、人間には“翼”が無いのだから。思い浮かべてみると、たしかに鳥や虫、羽ばたくものたちはみな、飛翔するための羽(翅)としなやかな筋肉が生れながらにそなわっている。  けれどもし、人間に羽ばたくことが可能であるとしたら? 鳩山郁子先生の『羽ばたき』はその可能性を、堀辰雄による原作から掬い取り、きらめく結晶を抽出するようにして、“漫画”という魔法でわたしたちに提示しているように思われる。

菫色の実験室vol.5|DAY 1

 鉱物Bar by 鉱物アソビ(実店舗・吉祥寺) & 霧とリボン(オンライン)連動企画《菫色の実験室》——ここ「MAUVE CABINET」でのオンライン展覧会が本日よりスタートしました。  鉱物Barにて特製メニューを堪能しながら、オンライン展示をお楽しみ頂けましたら幸いです。配布中のDMにはQRコードが付いていますので、カメラで読み取って頂ければ、すぐにここに飛ぶことができます。  「MAUVE CABINET」カリスマ店員レミーちゃんも、本展では実験室の一員として

菫色の実験室vol.5|花モト・トモコ|Viola Kitty

 ひとけのない実験室の長廊下から、動物の鳴き声が聞こえるのは非常に珍しいことです。過日出会った妖精猫たちは、姿は見せても、鳴くことは決してありませんでした。  近づいては遠のく鳴き声を早足で追いかけます。スミレの香りも心なしか駆け足で過ぎてゆくようです。空気の質感もソリッドになり、感覚がだんだんと研ぎ澄まされてゆくのを感じた時、パタリと鳴き声は止み、反対に香りの方は、存在を主張するように濃く深くなりました—— * * *  そっと扉を開けました。  そこには、真っ白な

菫色の実験室vol.5|DAY2

 青々しいスミレの香りに満たされて、今日も実験室の扉がひらきました。鉱物Bar by 鉱物アソビ(実店舗) & 霧とリボン(オンライン) 連動企画のオンライン展覧会《菫色の実験室vol.5〜菫色×スミレ属》をお楽しみ下さいました皆様に、心より深くお礼申し上げます。  鉱物Bar実店舗へ訪れた方々からの、美しい実験報告も続々と届いています。ぜひ皆様も、ノーブルな店内で菫色の特別メニューを堪能しながら、オンライン展覧会をお楽しみ下さいませ。 * * * ・・・・・DAY

菫色の実験室vol.5|akira muracco|菫と少女

 実験室の訪問も、今日が最後——晴れやかな気持ちで森の入り口に着きました。植物が揺れる間を縫って、菫色を帯びた森を進んでゆきます。  菫色の陰影も鮮やか、多彩な菫色とたくさんのスミレの品種に出会った六日間。実験日誌を納める紙挟みも日ごと馨しさで厚くなり、五年目の菫色の充実を感慨深く思いながら、しっかりとその厚みを確かめました。  今日のスミレの香りは、淡く、軽やかです。  毎年微妙に変化する、基本となるスミレの香り。まるでそれが、実験室の「今年の気分」であるかのように