3月短編

透明をその十字架で知らしめて エンドロールは君のものだよ

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マニキュアを塗ってよ、君が言うから僕は手を取った。肌が青白いので、青色は間に合ってる気がした。飽和。君の不調和。シンナーの匂いが満ち満ちる。クラクラした。
信仰に近い愛で以て君のこと嫌いでいたかった。僕にも青を頂戴。

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呼吸し易い空気で、僕は敢えて紫煙を吐いて、君はどこからかイヤホンを持ち出してきて、都会の喧騒に耳を鬱ぐ。貝殻みたいな光沢。波の音が聞こえる?雑踏という名の海。

ひとつ箱に閉じ込められている。夜の箱に閉じ込められている。君が口吟む匿名の賛美歌。踏み潰された鱗翅は蝶か、蛾か、君の神さまは何て言ってたの。ぬるい体液。

まぼろしの死にたみはあちこちで光っている。乱反射して君を照らすから、君のこと信仰しそうになった。柄にもなくてクラクラして、僕をとりまく総てが痛かった。痛みによって人間に戻った僕らは。
静謐に震える唇を調和と呼ばせて。排気ガスの縫間の幻燈こそが君だった。

バケモノみたいな夜を歩く。

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こんなに気持ちの善い夜は、鱗翅を捥いで、あなたのとこ迄真っ逆さまにゆきたい気がします。群青の風が髪を靡いて、いつからぼくらはふたつになったの。
ぼくにあなた以外の時間はなく、視界はあなた以外空白だったあの頃を、噛み締めてはぐちゃぐちゃにして、一等凄惨になったら返して欲しい。悲劇ぶって泣いてください。ぼくを撲って泣いてください。ぼくはきっとあのままの振り、しますから。いつかぼくらは幸いだったのですね。
都合佳く光らせた煌めきを嚥下して、盲も耳聾も無かったようなこんな真夜中、短い爪の鮮やかさはいま誰のものですか。
遠く漣は青く、青く、星座のひとつを摘んで恣にしたぼくを、徒にしたあなたを、赦そうにも、もう十字架はふたりで失くしてしまったよ。

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