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物書きナレーターの朗読解釈「ごんぎつね(1)」第2回

物書きナレーターの朗読解釈「ごんぎつね(1)」第2回。

前回は最初の二文だけで終わってしまったので今回はそれなりに進められるといいなぁと思っています。

第1回はコチラ↓↓

朗読音声はコチラ↓↓

 その中山から、少しはなれた山の中に、「ごん狐」という狐がいました。ごんは、一人ぼっちの小狐で、しだ(・・)の一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。
 そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。はたけへ入って芋をほりちらしたり、菜種がら(・・)の、ほしてあるのへ火をつけたり、百姓家の裏手につるしてあるとんがらしをむしりとって、いったり、いろんなことをしました。

主人公・ごんの登場です。
ここからは、伝承話に出てくる登場人物にスポットが当たります。
語り手の「私」とソース元の「茂平」はフェードアウト。だからといって、地の文読みあるある「天の声」さながらのアナウンスっぽい読みをすることではないのでご注意を。
確かに「私」はフェードアウトしましたが、あくまで「私」が話す「伝承話」としての地の文読み(=人伝感を出すこと)を心がけましょう。

このくだりは、ごんはどういうキャラをしているかを説明しています。
「ごんってどんな狐?森の中で一人暮らし?普段はイタズラっ子?」的なタイトルの紹介記事みたいなものだと思ってくれて構いません。

注目ポイント:キーワード上部の点々(・・)
cf.「しだ(・・)のいっぱい茂った森の中」「菜種がら(・・)の」

ごんぎつねの文では、ところどころのキーワードに点々(・)が文字上に表記されています。
今回の場合だと「しだ」「(菜種)がら」。筆者がわざわざこのように書いたのは何か意味があると思いませんか?
一文ずつ見ていきましょう。

①「しだ(・・)のいっぱい茂った森の中」

ごんという狐は、基本的にぼっちです。
どんなレベルのぼっちなのか、皆さんは想像したことはありますか?
天涯孤独、友達がいない、嫌われ者etc…色んな解釈があると思います。
文中にも「一人ぼっちの小狐」とあるのですから、それ以上でもそれ以下でもありません。

よく有りがちなのが、「一人ぼっち」に引っ張られて全体的に暗めに読むというものです。
ごんぎつねは哀しいお話なのですが、さすがに最初からそれをやってしまうと話の雰囲気が余計に重く感じてしまいます。
「人伝」なので、語り手(私)は当然物語の結末を知っているわけですが、ごんのキャラ説明のくだりでいきなり「可愛そうな狐」感を出してしまうとかえって萎えます。何なら、その後のくだりがフラグになるんじゃないかとさえ疑ってしまうほどです。
だから、ぼっちレベルを表す指標として「しだ(・・)のいっぱい茂った森の中」とあるのです。
ましてやごんはそこが棲家なのですから、相当過酷な環境であることは間違いないでしょう。
ごんにとっての「しだ」は、やたら多くてうざったいものなのかもしれませんね。

②「菜種がら(・・)」

ごんの棲家が分かったところで、次はごんの日常生活を見ていきます。
ごんはぼっちですが、社会と繋がっていないわけではありません。その方法が「いたずら」ってだけなのです。
ここでも注意しておきたいのが、そのキーワードだけで「悪くて可愛そうな奴」と決めつけないということです。(理由は①と同じ)

突然ですが、皆さんにお聞きします。
「いたずら」と聞くと、どんな印象を持ちますか?
悪さをしている、ちょっかいを出す、かまってちゃんetc…あまりプラスのイメージが湧きづらいですよね。

私が解釈するに、ごんの「いたずら」とは…社会とのつながりを求めているのではないかと考えました。
その心は、普段はぼっちでも生きていく上で必要な食べ物の確保や存在を知らしめる必要があったからです。

主ないたずらレパートリーが列挙しているわけですが、「芋をほりちら」すのは食べ物に困っているからしているのかもしれません。
具体例を挙げるたびに、ごんの「いたずら」が犯罪レベルになっていくのが意味深ですね。これはもう、メッセージ以外の何物でもないでしょう。

特に熾烈なのが「菜種がら(・・)」の部分。
菜種がらは油を採った後のカスなのですが、燃料としても使われます。
下の記事に当時の生活環境が事細かに書かれているので、詳しくはそちらをお読みください。
如何にごんがやった「いたずら」の中で群を抜いているかがお分かりになると思います。

まとめ:マイナスなキーワードに囚われない!

・マイナスなキーワードに囚われないためには、文中のキーワード、センテンスをよく見てみる
・特に(・・)が上に記されてあるキーワードはそれを打破する意味を持っていることがあるので、それを意識
→案外、ごんの意外な一面を発掘することがあるかも。それを読みに活かすと表現の幅がかなり広がります!

余談ですが、朗読指導でよくある「ゆっくり目」「間」「強弱」について、それらを事細かに記載してしまうとどうしてもマニアックになってしまいます。
私がそこまで書けないというのが大きいですが、文章を読んだ印象を読みの息づかいで表したほうが楽しく朗読できるのではないかと思ったからです。
かつて受けたナレーションレッスンで教わった「息づかい」はその人にしかできません。
私が読むポイントで列挙した「人伝感」「相手への語りかけ」「マイナスなキーワードに囚われない」「(・・)の意味」を皆さんなりに噛み砕いてみてくださいね。

次回は、この時期にやるとめちゃくちゃタイムリーな「雨降り」の描写を見ていきます。
よろしければ、読んでみた感想をコメントに書き込んでくれると嬉しいです。

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