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キューピッドの囁き(前編)

恋愛の結論として、結婚に拘らない時代になったという。

結婚が良い悪いの話でもなく、生き方の選択を自由にする人が増えただけのことだと思っている。

前職の会社の後輩のA君はワシをダシに…いやキッカケに嫁さんを見つけて家庭を築いた唯一の存在である。

タイトルとは裏腹にキューピッドになるつもりはなかった。A君が手繰り寄せたご縁の物語の最初のキャストがたまたまワシだっただけのこと。

新卒で社会人になった一年目、80人居た同期入社の連中にはサッカー経験者が10人ほど居た。

「みんなでサッカーやれたら良いな」と同好会を作り、社会人リーグに登録することにした。

発起人として雑務役を買って出ただけだったが、その流れで初代監督を仰せつかった。多分一番暇そうだったからの話。

練習試合を重ねて、いよいよリーグ戦に臨むとなり、監督としてチーム強化のために社内人財のスカウトにも勤しんだ。

経験者が多かっただけあり、みな上手いは上手いのだが、いかんせん体力的な問題があった。リーグ戦が夏場でもあり、交代要員は多いに越したことはなく、居れば居るほど安心でもあった。

そんな中でチームに集ってくれたA君。彼は元々ゴールキーパーだったのだが、フィールドプレイヤーもポジションを問わずできるというフットボールIQの高い、監督としては最高に有難い選手だった。

監督としてのもう一つの仕事は女性ギャラリーの呼び込み。

選手たちのモチベーションを上げるのは至って簡単で、女性の観客を増やせば勝手に頑張る…ましてやほぼ独身ばかりのライオンばかり。生肉を見せれば発奮するのは自明の理である。

その流れでギャラリーに来てくれた1人がAちゃんだった。彼女もなかなかのベッピンさん。嫁さんがいなかったらワシが口説こうかと思っていたほど。

当時の彼氏とほぼ別れると決めていたらしく「ほな観においでや」とお誘いすると、友だちと一緒に観に来てくれた。

案の定、女性ギャラリーがいるとメンバーは俄然頑張るんだな、これが。リーグ戦の7戦のうち、女性ギャラリーがいた4戦を全勝したのは偶然ではない。あまりに露骨なモチベーションの違いである。

(後編へ)