牟岐の海(中)
民宿に到着する前に気になっていたことがあった。
我々が降りた海部駅から、まだ岬に向かって伸びていた鉄路があった。
あの線路は一体どこまで敷かれているのだろうか。
民宿のおじさんに聞いてみた。
あの線路は甲浦駅というところまでつながっているらしく、本当は室戸岬を抜けて、ずっと向こうまで伸びる筈だったらしい。
海辺からすぐにあった民宿はまさに民家の体で、中学生でも3人入れるかどうかの風呂場に、納屋につながる土間のある昔ながらの設えだった。
無造作に並ぶお造りをはじめとした海の幸は食べ盛りだった中学生でも充分な量が用意されていて、いざとなったらと持ち込んだお菓子を忘れてしまうほどだった。
牟岐の海はもうすぐそこが太平洋の外海になる。でも、波の音以外に何も聞こえない静かな時間がそこにはあって、夜が本当はこれだけ暗いのだと教えるほどの漆黒の闇があった。
上手くは表現できなかったけれど、人が本来あるべき、自然の中の営みの中に自分たちが横たわっている感覚が湧いていた。
【つづく】