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無人駅から拡がる漆の里山づくり

緑の野山が広がり清流が流れる自然豊かな岩手県盛岡市郊外の上米内(かみよない)地区。ここでは国産漆の不足を解消すると共に、漆で里山振興と地域を活性化しようと漆の里山プロジェクトが進んでいます。
最近、このプロジェクトの拠点となる施設がオープンし、メディアの注目も集め話題となっています。

この上米内地区には盛岡と宮古を結ぶJR山田線の上米内駅があります。1日の乗客数は60人程度で、平成30年に駅員が常駐しない無人駅となりましたが、今年4月、上米内駅はもうじき100年を迎えるという大正12年の開業以来の歴史ある駅舎を改装しました。

手がけたのは上米内で漆の里山づくりプロジェクトに取り組む一般社団法人次世代漆協会の細越確太(ほそごえかくた)さん。細越さんは無人駅の活用をクラウドファンディングで支援するJR東日本のプロジェクトで120万円程の資金を集めて、この改装オープンを実現しました。


細越確太さん

新しい駅舎の正面には漆の掻き傷が残る伐採後のウルシの樹が何本も並べられています。以前は駅務室だった部屋は壁が取り払われ白壁のオープンなスペースとなり、廃校となった小学校からもらったという椅子やテーブル、そして新たに漆を塗ったというオルガンが置かれ、コーヒーを飲みながら休憩できるカフェとなっています。この他、岩手県内外の漆職人の漆器を展示販売するコーナーや、漆器職人の作業が見学できる工房があります。

こうして漆で上米内を活性化しようと取り組む細越さんですが、これまで漆に深く関わってきたわけではありませんでした。

上米内出身の細越さんが実家と山林を相続し、東京から戻ってきたのが数年前。庭先にウルシの樹を数本見つけたことをきっかけに興味をもって調べる中で国産漆が不足している状況を知り、自分も役に立ちたいと一念発起して次世代漆協会を設立、上米内の自身が所有する山林にウルシを植えて漆の里山づくりを進める一方で、ウルシの種子を集めて発芽率を高める加工を施し、全国の育苗業者と共にウルシの苗を生産、岩手県、宮城県、福島県で苗木を植栽するなど、全国的な漆の増産に向けた活動に取り組まれています。

改装オープンに際しては、当初JR東日本の協力を得て、臨時列車の運行などのイベントが予定されていましたが、新型コロナの影響で中止となりました。しかしそんな中でも上米内駅はオープンして2ヶ月が経った今、近隣の方を始め市内に住む方や広く県内から訪れる人が後を絶ちません。

無人駅が地域活性化の拠点として生まれ変わりました。「漆に関わる魅力あるコンテンツを増やしながら、上米内に人の流れを作りたい。」という細越さんの思いが少しずつ実現しています。

たまたま見つけたウルシの樹から始まったこのプロジェクト。10年後、20年後にどんな姿を見せてくれるのか、とても楽しみにしています。

公益財団法人 森林文化協会発行グリーン・パワー誌2020年8月号に寄稿


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