見出し画像

SS【あとがき】#青ブラ文学部

山根あきらさんの企画「祈りの雨」に参加させていただきます☆

お題「祈りの雨」

【あとがき】(739文字)

 おそらく、これが私の最後の短編集になるだろう。
 私も今年で九十六歳になるのだから。
 それにしても、よくここまで書かせていただけたものだと思う。小説を書き始めたのは五十代に入ってからなので、かれこれ四十年以上である。余生の楽しみに……くらいの気持ちだったか、あるいはふと書いてみたくなったのだったか、今となっては記憶もはっきりしない。いろいろなことが曖昧になっていく昨今である。
 今朝は珈琲を飲んだかしら、などと思う。流しに行くとコーヒーカップが洗わずに置いてある。そうか、もう飲んだのか。そんなこともよくある。
 その話を知人にすると、「そんなことで一人暮らしが続けられるのですか?」と心配される。私は、「いいのよ、家にはお手伝いのこびとがいるから」と答える。相手は右半分だけ笑顔になったような妙な顔になる。私は調子に乗って、「長いつきあいだから、気が利くのよ。こびとは寿命が長いから、私よりもずっと若くて丈夫なの。若い頃には随分甘やかしてあげたし」などと、どんどんしゃべる。
 相手の眉根がどんどん狭くなるのを見ているのは面白い。

 そういえば、これは短編集のあとがきだった。そんなことも忘れている。
 この短編集の表題は『祈りの雨』である。読み終えた方は気づかれていると思うが、そんな題名の作品は、ここには納められていない。
「おそらく、これが私の最後の短編集になるだろう」と書いたが、私は生きている間にもう一編だけは書きたいと思っている。その作品の表題が『祈りの雨』なのである。
 編集者には、私が死んだ後に短編集が改訂される折があれば、『祈りの雨』を加えてくださるようお願いしている。
 読者のみなさまは、私があの世に行くことも楽しみにしていただきたい。


二〇六四年 四月 雨の日に。 みなさまの幸いを祈りつつ     ikue.m


© 2024/4/18 ikue.m

・・・・・これは、妄想あとがき小説です。(*´ω`*)長生きしよっと。

おもしろい!と思っていただける記事があれば、サポートはありがたく受け取らせていただきます。創作活動のための心の糧とさせていただきます☆