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なにぶん嘘日記3/31『勝手なの』#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「始まりは」に参加させていただきます☆

お題「始まりは」から始まる物語


始まりはある。どんなことにも。
居候のこびとと暮らし始めたのは、ちょうど今頃の季節だった。

「ねぇ、覚えてる?家に来た日のこと」
「うん」
朝の珈琲を淹れながら話しかけると、こびとは『クルミッ子』をかじりながらコクンとうなずいた。わざわざ取り寄せた最後のひとつ、自分用に隠しておいたのに……。
「五個入りなら、こびとが三個だからね」
それが居候のセリフ?

あの日、私が散歩から帰ると玄関の前に白木蓮の花が落ちていた。
近所に白木蓮は咲いていないから、誰かが故意に置かないかぎり家の前にあるはずがない。しかもまだ真っ白のキレイな花。訝しく感じて家の鍵を手にしたまましゃがみ込んでみたら、花がいきなりクルンと裏返ったので私はびっくりして尻もちをついてしまった。
その花の中にこびとがいたのだ……。

「親ゆび姫みたいでかわいかったでしょ?こびと♡」
大きな帽子をかぶったみたいに花に埋もれていたこびとは、たしかに可愛かった。自分で言わなきゃもっとかわいいけどねぇ。
尻もちをついたまま動けずにいる私に、こびとが発したのはたった一言、
「おなかすいた」
であった。
空腹を訴える小さきものを無視することができようか。
それ以来、こびとは私の家にいるのである。

「あの時の花見団子おいしかったねっ」
あの日は、たまたま目にとまった花見団子を散歩の途中で買っていたのだ。それもまた運命か。そういえばあの時も、五本のうち三本をこびとに食べられたんだっけ……。私と家人は一本ずつしか食べられなかった。
「それでここにいることにしたの?」
「ううん」
「じゃ、そもそもどうして私の家に来たの?」
「珈琲、こびとにもちょうだーい」
はいはい……。

こびとは、常に答えたいことしか答えない。言いたいことしか言わない。言わない理由も言わない。
その態度はいつも変わることなく、清々しささえ覚える。最近は私も影響されて、かなり自分に正直になった。
たとえば、何かを断る時には理由が必要だと思っていたから、以前は適当な理由を無理やり作ることもあった。でも理由なんて特になくても、ただ気が向かないという時だってある。むしろそういう時の方が多い。
そんな時は「いらない」「やめます」「行かない」だけでいいのだ。


「……って、最近は思うわけよ」
と、私はこびとに言ってみた。
すると、クルミッ子を食べ終え、珈琲もコクコクと飲み終えたこびとはフゥと満足気に息をついて言った。
「そんなんあたりまえやん。Ikuちゃんバカねぇ」
そう言うと思った。私もニヤリとする。うん、バカでしたねぇ何十年も。いいわけなんて、所詮自分を守りたいだけの余計なものだ。

「あのさ、周りなんて気にしなくていいんだよ。たとえば白木蓮も桜も、みんなからは『もっと長くきれいに咲いてたらいいのに』って期待されるけど、あっと言う間に散っちゃうでしょ。そしたら今度は『潔く散るところがいい』なんて言われるんだよー。みんな勝手なの」

いちばん勝手なのは、居候なのに秘蔵のクルミッ子を三個も食べてしまうあなたでは……と思いつつ、まぁでもホントにそうだなぁと思う。

「そういえば、あの時はどうして白木蓮かぶってたの?」
と聞いてみる。どうせ答えないだろうけど。

「ikuちゃんが白木蓮大好きだから」
「ええっ、どうして知ってたの?!」

こびとは知らん顔して、「おなかいっぱいー」と歌うように言った。


© 2024/3/31 ikue.m

☆参考サイト『クルミッ子』

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※更新はきまぐれです。また、コメントいただいた場合、返信は居候の小人にさせますので失礼がありました場合はご容赦くださいませ。
(だいたい「うぇーい」とか言って言葉使いもテキトーです)

※私の日記は表題通り『なにぶん嘘日記』です。百パーセント真実ではなく、三分とか八分とか十分の嘘、すなわちフィクションが含まれるという意味と、「なにぶん嘘もありますのでどうぞよろしく」という意味の両方が含まれております。


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