【読書感想文】笑いのカイブツ
私はお笑い芸人の深夜ラジオをよく聴きます。
オールナイトニッポンやJUNKなどです。
多くの番組ではリスナー(視聴者)が投稿できるネタコーナーがあります。
コーナーにて、メールの採用頻度が高い「職人」と呼ばれるリスナーが存在します。
昔であれば「ハガキ職人」、今は「メール職人」「ネタ職人」などと呼ばれる人たちです。
以前、「霜降り明星のオールナイトニッポン」にリスナー(メール職人)が出演した回がありました。
話を聴いていると、ネタを採用してもらう為に1つのコーナーに対して、200〜300通のメールを送ると言っていました。
驚愕の数です。
毎週コンスタントに200〜300通送っているとのこと。
しかも、複数のコーナーに。
とてつもない情熱を感じるとともに、メール職人と呼ばれる人たちは、どんな人なんだろうと興味が湧きました。
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今回読んだ「笑いのカイブツ」の作者は、テレビ番組やラジオ番組へのネタ投稿を続け、その驚異の採用率から「伝説のハガキ職人」と呼ばれます。
また、書き溜めたネタを劇場の支配人やお笑い芸人に持ち込み、構成作家になったという経歴を持っています。
それだけ聞くとサクセスストーリーのように聞こえますが、実際はそうではない、というのがこの本を読むとわかります。
葛藤や嫉妬に苦しみながら、笑いにのめり込んでいく様子が私小説として語られています。
ここから先はあらすじを含めて感想を書いていきますので、少しでもネタバレを避けたい方は読まない方がいいと思います。
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お笑いが好きだが、芸人になる才能はない。
人間関係も苦手である。
そんな作者が活路を見出したのが、テレビ番組やラジオ番組へのメール投稿でした。
一日の大半をネタ作りに割く。
自らハードルを上げていき、1日に100個行っていたボケ出しを、500個へ。
そして1日1,000個、2,000個と自分へのノルマを極限まで課していく。
睡眠時間も削り、体調もどんどん悪化していきます。
笑いにストイックに取り組むさまに、凄まじい執念を感じました。
努力の末、渾身のネタを自ら持ち込み、吉本の劇場支配人に認められ、劇場付き構成作家見習いになります。
しかし、その後はなかなか実力を認めてもらえません。
全人生を笑いに費やし、笑いの道に狂っても、報われない。
これだけ努力しているのに、何が足りないのか…
自分のネタが認められるには笑いの能力だけではなく、処世術も必要だと気付きます。
笑いの才能は無いと感じていた同期の構成作家が、ディレクターに気に入られているという理由で登用されていく現実。
挫折を味わい、遂には死ぬ事までも考えた作者は、どうするのか。
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どれだけ努力しても報われない、そんな人間の心のうちが描かれた一冊でした。
人間関係が苦手で要領が悪い所は、読んでいて辛かったです。
生きづらいだろうなと感じました。
もう少しだけ人間関係を構築する能力があれば、もっと早く日の目を浴びたのでは、と思います。
その反面、泥臭くもがいていたからこそ笑いの修羅となっていき、有名なお笑い芸人から認められるに至ったとも考えられます。
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他人を貶す表現が多いので、読んでいて不快に感じる人も多い小説だと思います。
全体的に暗いというか、鬱々としています。
賛否がはっきり別れそうな本だと思いました。
しかし、何か熱い物を感じる人も多いと思います。
自分が何者か分からず、もがいている人。
成し遂げたいことがあるが、先が見えず挫折を味わっている人。
上記のような人には、ピンポイントで突き刺さるかもしれません。
私は、良くも悪くもすごく熱量を感じ面白かった、という感想でした。
全てを犠牲にしてでも圧倒的に努力し、何かを掴み取るというストーリーが私は好きなので、一気に読み終えました。
ただ、意図的にそういう構成にしたのだと思いますが、時系列が分かりづらいのが読んでいて気になりました。
とても不器用な生き方をしている作者ですが、報われてほしいです。
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この小説は次のような方に、おすすめできると思います。
Kindle unlimitedに登録している人は無料で読めますので、興味がある方はぜひ。
ご覧いただきありがとうございました。
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