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お前など敵ではない

推しくんが私の職場に異動してくるにあたって、
今日引き継ぎにきた。

3年前に推しくんが在籍していた時にいた
職員も今もちらほらいる。
そのうちのひとり、年上の女性。

私が心の中で「拡声器」と呼んでる人。


推しくんが引き継ぎを終えて帰ると、
異様なテンションで話しかけてきた。

「あっうみちゃん、推しさん見た?
 会った?しゃべった?
 どこまでしゃべった?
 推しさんの歓迎会する気でしょ?

(大声&大笑いしながら)
 うみちゃん抜け駆けしそうだな〜、
 あなた絶対、絶っっっ対
 抜け駆けするタイプだよね!!

 推しさんの歓迎会、絶対私のこと呼んでね! 
 私のこと呼ばないなんてありえないからね?
 あっそういえば推しさん#&@♪☆€$・・・」


いやー、交通事故かと思った。
大声でみんなの前でディスられてびっくりした。

うるさい拡声器、
お前など私の敵ではない。


(いつも弱気のくせに、だけど
 結構頭にきたんです。笑)


✴︎   ✴︎   ✴︎


拡声器が騒ぐ前の話。

本当なら推しくんが引き継ぎに来るのは
今日の午後の予定だったけど、
朝イチで課に電話が入った。
推しくんから、現課長あてに。

でも現課長は席を外していて、
電話を取り次いだ新人くんに推しくんは言った。


「うみさんいるよね、うみさんに代わって。」


私の他にも職員はたくさんいたのに、
なぜか推しくんはわたしに取り次いだ。
そして言った。


怪我をして今病院にいること、
ちょっと縫っちゃったこと、
でも元気だし、なんなら引き継ぎの時間を
早めてほしいから、また現課長あて電話すること。

それを職場の電話を通じて、元気そうな声で
全部私に初めに話してくれた。
怪我は驚いたけど、
でもそれがなんか、すごくうれしかった。

「気をつけてきてくださいね。」
(職場だから敬語。)

心落ち着けてから推しくんを迎えられてよかった。


✴︎   ✴︎   ✴︎


すごーく笑顔で登場した推しくんは、怪我が少し痛々しい。


引き継ぎを無事終えて推しくんが帰った後に、


「せっかくカッコいいシャツ着てるのに、
 怪我に目が行っちゃうね。
 それじゃただのイタズラわんこみたいだよ」

とLINEしたら、

「バカにしてるでしょ?
 怪我してる人っていうイメージになっちゃったね」

と返信がきた。


かわいい。うれしい。
拡声器なんかに、他の人になんかあげない。

こうやって、
ひとつひとつ不安がなくなっていくといいなぁ。

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