Dig Ki/oon - Melancholy-(Selector : PELICAN FANCLUBエンドウアンリ)

(インタビュー・テキスト 齊藤綾乃)

来年2022年4月にレーベル創立30周年を迎えるKi/oon Music(キューンミュージック)。今年の4月より毎月テーマ設け、季節に合わせて聴きたくなるようなプレイリストを1年間に渡り編成していきます。

5月のテーマは、メランコリー(憂鬱)。就職や進学など新しい環境への緊張がピークに達する5月は、憂鬱な気持ちになりやすい時期ですよね。そこで今回はその憂鬱に抗うためのプレイリストではなく、敢えてどっぷりと憂鬱な気持ちに浸れるプレイリストをレーベル所属アーティストと共に選曲。

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Dig Ki/oon -Melancholy-
Pick Upアーティスト:PELICAN FANCLUBエンドウアンリ
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今回のゲストは、光陰両極を鋭く描き出す3人組ロックバンドPELICAN FANCLUBのエンドウアンリさん(Vo./Gt.)です。

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ーーPELICAN FANCLUBはいい意味でメランコリックが似合うバンドだと思っています。エンドウさんにとって、メランコリーな楽曲のイメージについて教えてください。

エンドウ:ありがとうございます。メランコリーな楽曲って僕の中では温度がある。感覚的には17〜21度くらいの気持ちいい涼しいみたいなのが、メランコリーの適性温度です。

ーー温度があるとは思わなかったです。冷たすぎないんですね。

エンドウ:冷たすぎちゃダメですね。冷たければ、ただの暴力になってしまう。僕にとってメランコリーは、心地いい気持ちになれる楽曲と歌詞の組み合わせ。ただ鬱なだけだったらそれはもう憂鬱ではない、憂がないと。そのバランスが絶妙で、デリケートなんですよね。生きるためには憂鬱を持っていなきゃと常々思う。

ーーそうなんですね。憂鬱な時におすすめなPELICAN FANCLUBの楽曲を教えてください。

エンドウ:まず思い浮かぶのは「7071」という楽曲です。楽曲のテーマ自体が憂鬱。
僕の中では、学生時代の叶わなかったものが憂鬱に直結している。この曲ではそれをダイレクトに表現しています。

ーー確かにこの曲は、とことん落ちそうな感じがする。他にはありますか?

エンドウ: 「Dayload_Run_Letter」です。自分の負の感情を手紙に書く曲で、憂鬱な気持ちを歌ってやるって気持ちで書いたから。
あとは、「VVAVE」は憂鬱な時にはぴったりなコード進行です。半音上げれば、不協和音になって憂鬱さをより加速させてくれる。
憂鬱って気持ちいいものでもあると思うんです。その気持ち良さを演出するのが、メランコリックな時に音楽を聴く良さだと思う。

ーーメランコリックな気分の時に聴きたいプレイリストというと、普通だと憂鬱を吹き飛ばし元気をくれる曲が選ばれるのかなって思いますよね。でもエンドウさんが言うように、憂鬱は気持ちいいものでもあるのかもしれないから、今回は逆に憂鬱な気分に浸ってしまう方向で選曲した方がいいんじゃないかなと思います。

エンドウ:どん底まで落ちて上がっていくだけという状況を作るのはわかります。憂鬱は自己陶酔でもある。

ーー「Dali」はどうでしょうか?

エンドウ: 「Dali」は怒りで書いたんですよ。2015年にあった「シャルリー・エブド襲撃事件」がきっかけだった。パリの風刺新聞社にテロリストが乱入して、世界中でもデモが起こる大事件で「表現の自由とはなんだ!」って怒りを表現した楽曲。だから、憂鬱とは違います。聴く人によってはそう感じるのかもしれないけど、僕からしたら今回のメランコリーっていうテーマに合った曲ではない。

ーーなるほど。PELICAN FANCLUB以外の曲では何がおすすめでしょうか?

エンドウ: ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「夕暮れの紅」ですね。僕は放課後に聴きたい曲が、憂鬱に結びつくんですよ。

ーー「夕暮れの紅」ってTHE 鬱ソングではないけど、このまま消えたい気持ちになるような感じ。「なんでもいいや!」ってやりたいこととか全部手放したくなりそうで、危険な香りがします。

エンドウ: 危険ですよ。だってこの曲に身を任せればいいって、心地いい状況をつくってくれますから。それと、僕がこの曲を選んだもう一つの理由は、カップリングの存在を提示したかったからです。「夕暮れの紅」は「リライト」のカップリングだったから、すごいなって。

ーー確かに「リライト」付近にリリースされたシングルは、カップリング曲の存在感が強いかもしれないですね。

エンドウ: そうですね。「ブルートレイン」なんて爆発してるなっていう印象でした。

あとは「深呼吸」がいいなぁ。やっぱり10代の頃に聴いていた曲は、当時自分が感じていたメランコリックな気持ちをまた味合わせてくれる。中学校の時はPELICAN FANCLUBのベース、カミヤマと放課後を一緒に過ごすことが多くて。僕たちはアジカンがすごく好きだったから、将来はアジカンみたいにKi/oon Musicに入って音楽を作りたいってことをよく話していました。

ーーすごいですね!エンドウさんが音楽をつくる時に、参考になった曲はありますか?

エンドウ: KANA-BOONの「線香花火」はKi/oon Musicに入ってから自分で曲を作る時に、切なく憂鬱な気持ちにさせてくれました。昔は歌詞はそこまで気にしていなかったけど、20歳を過ぎてから歌詞にも注目もするようになりました。この曲は歌詞の世界観を自分の部屋の中で、そのまま再現できるような感覚になれる。憂鬱というよりは、黄昏に近い感じかも。KANA-BOONからもう一曲選ばせてもらえるなら「インディファレンス」。洋楽的な憂鬱さも纏った楽曲だと思います。

ーー他にメランコリーさを感じる曲はありますか?
POLYSICSの楽曲だと、例えば「Code 4」とかは“メランコリー”に分類したいですね。曲自体キャッチーではあるんですけど、温度感が17-21度だと感じます。
POLYSICSに関しては、音楽自体はエネルギッシュなんですが、それと同時に「他の人とは違う動きをする」という単純な視覚的要素からしてある種の狂気を感じます。そもそも人間って、見たことや体験したことのないものって怖くなるじゃないですか?POLYSICSの音楽に初めて触れた時から、僕もその感覚を抱いていました。だから「Code 4」の楽曲が持つスレスレの不安定さの中に、憂鬱さを感じました。
POLYSICSにはインディーズ時代からお世話になっていて、同じレーベルに所属することになってとても嬉しいです。
ハヤシさんとはツイッターで会話をすることが殆どで、いつも特撮ヒーローの話、80年代テクノポップの話をします。ハヤシさんの偏愛に僕も共鳴して刺激を受けていますね。

ーー他によく聴くアーティストはいますか?

エンドウ: スーパーカーですね。例えば「憂鬱な気分だからこの曲を聴こう!」って楽曲ごとに選ぶことがあると思いますけど、スーパーカーに関してはそうではない。バンド単位で聴いていました。メランコリーな気持ちに浸れる曲が多いですね。

ーー例えばどの楽曲ですか?

エンドウ: 挙げ出したらキリがないですが「ANTENNA」と「Greenage」ですね。
2枚目のアルバム「JUMP UP」のような初期の作品に関しては、10代特有の憂鬱をかなり感じる。それから色々な作品がリリースされたけど、まだ僕の知らない世代の気持ちなんだろうなって思ったのが「Futurama」ってアルバムかな。全体的に憂鬱な感じ(笑)
楽曲が出るにつれてメランコリー色が強くなった印象がありました。
他によく聴くアーティストだとART-SCHOOLです。ART-SCHOOLを聴く時のイメージがあるんですけど、コート着てポケットに手を入れながら下向いて歩くってことを昔よくやっていましたね。

ーーハードボイルドですね。(笑)

エンドウ: そうですね。ART-SCHOOLの魅力の一つは、不安定さ。だからART-SCHOOLが元気そうにしていると、逆に大丈夫かなって不安になるんですよ。そういう意味で選ぶのが「Chelsea Says」です。ボーカル、木下理樹さんの歌声が強い印象を与えていると思うんですけど、曲自体のコード進行の数も多くないから体温が低く憂鬱に感じる。逆にコード進行が多い曲は、キメが多くて熱を持っているように聴こえます。

ーー確かに木下理樹さんの歌声は、いい意味で不安な気持ちになって絶妙ですよね。

エンドウ: 理樹さんは魂を削って歌っている感じがあるじゃないですか?
まだKi/oon Musicではなく、他のレーベルに所属していた初期の頃の楽曲「LOST IN THE AIR」もいい 。この曲を聴けば、自分が主人公になれるような感じがしました。
ピアノから始まって綺麗ではあるものの、人間の汚い部分が表現されたり“新宿”って言葉が使われたり。当時は東京なんてテレビでしかみたことないから、華やかな場所だと思っていました。でもこの曲では、テレビでは映らない憂鬱な影の部分を歌っていた。
憂鬱な気持ちだから聴くのではなく、憂鬱になりたいから聴きにいく一曲です。初期の頃は、まるで”死の匂い”を感じるような作品が多かったです。

ーー”死の匂い”ですか。

エンドウ: そうですね。それでいえばリーガルリリーの「天国」はイントロを聴いた瞬間に、ART-SCHOOLと同じような”死の匂い”を感じた。「天国」ってタイトルなのに。
メランコリーがとても美しいものなんだって感じる楽曲です。
音楽の作り方の話になるんですけど、コーラスっていうエフェクターの使い方が特徴的。わかっている人の使い方ですよね。どんな環境で育ったんだろう?って思う音作りで、美しく繊細な雰囲気を演出する海外アーティストがよく使う方法です。
リーガルリリーの楽曲でいうと、僕らと近しい音楽性ではあるんですけど、「GOLD TRAIN」は衝撃的でしたね。もしこの曲を10代の頃に聴いていたら、僕はリーガルリリーみたいなバンドをやっていたかもしれない。

ーー面白い話ですね。 ちなみにエンドウさんの音楽のルーツになったような海外アーティストはいますか?

エンドウ: イギリス出身のCocteau Twinsですね。歌詞はわからないけど、メランコリーだなと思う。日本の70〜80年代の歌謡曲の歌詞って哀愁とか憂鬱を歌っていると思うけど、その海外版のようなニュアンスかな。リーガルリリーも近しい雰囲気を持っていますよね。

ーー歌詞の部分ですか?

エンドウ: サウンドですかね。リーガルリリーの歌詞は独特の世界観だから。
初期の頃のRadioheadもスーパーカーやART-SCHOOLの持つ雰囲気と似ているように思う。あとメランコリーと言えば、Nirvanaのような90年代のオルタナティブロックですよね。オルタナティブのような型にはまらないジャンルが出てきた背景にあるのは、メジャーなポップシーンへの反抗。つまりアンチから出てきた表現は、メランコリーを背負っていると思っています。
「自分たちはこうだ!」って憂鬱さを表現するための手段が、音楽ですよね。

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Ki/oon Musicでは毎月月末にプレイリスト”Dig Ki/oon”を公開していきます。今月は3つのプレイリストを公開中。

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Dig Ki/oon -Melancholy-
Pick Upアーティスト:PELICAN FANCLUBエンドウアンリ
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「憂鬱」をテーマに選曲した5月のマンスリープレイリスト

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Dig Ki/oon -Fes-
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春フェスシーズンにぴったりなフェスアンセム曲をセレクトしたプレイリスト

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Dig Ki/oon -ASIAN KUNG-FU GENERATION-
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ASIAN KUNG-FU GENERATIONのルーツを深堀りするプレイリスト
メンバー全員が「自身のルーツとなった楽曲」と「そのルーツが色濃く反映された自身の楽曲」を後藤、喜多、山田、伊地知の順番に4曲ずつ選曲

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