Kiokavok

フクロモモンガは有袋類。ポケットの中でコトモをあたためます。百文字モモン歌ガは森のなか…

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フクロモモンガは有袋類。ポケットの中でコトモをあたためます。百文字モモン歌ガは森のなかを滑空してゆきます

マガジン

  • 百歌

    百文字くらいの自由なシーケンス 言葉のかたちです

最近の記事

螺旋

高速に回転する盤のうえで 土の胚をとらえた指は 螺旋の軌道を描いて上昇する 太陽系の巨大な公転する盤のうえの 酸葉の塔は 螺旋の軌道を辿って上昇してゆく 流離と帰還をくりかえす わたしを襲う眩暈を乗せた宇宙船が どこか彼方でグルグル回っている

    • 振動

      気温の上昇に合わせて 草木は声を放ちだす ぶぶぶぶぶ すすすすす ぐぐぐぐぐ つつつつつ 揺らぐ世界 バイブレーション ああ、君の中にも

      • 若葉

        なにものにも染まっていない 無垢の、はじまりの画布というものが この若い葉のようであるなら 画家が存在する理由はなくなるだろう 筆よりもやわらかく微細になった指が 撫でるだけで 画布にとけていた形がその姿をあらわすだろうから

        • 農民の子

          あの茶色く陽に焼けて縮んだ躰をすり切れた白い作業着につつんだ 黒い染みに覆われた大きな頭蓋を帽子でかくした 農民のようであるにちがいない土の中に立つわたしを シャガールのような画家が倒立させて描いてくれるなら 雲たつ青い空にこの手をつっこみ 掻きおこし 掻きおこし 石クレのような衛星を 空に融けることのない願の切れ端を 糸クズを つまみだし 柔らかくほぐれた空のおくから ひかりの粒が芽吹くのを 膝をおってじっと待っているだろう

        マガジン

        • 百歌
          79本

        記事

          となりの√

          音楽家はぼくに語った 算数に小数が現れたときの驚きと不安を 1のすぐ前に見えた家にいるはずの気安いお隣さんに 逢うためにたどる道がみえなくなった まわりに座っている友だちにはみえるのだ 1の隣にあるものが それをみえないのは自分だけ 誰にもうちあけられない音楽家がその後とった行動は ひたすら算数それから数学を勉強するというものだった その後、高校の机の前にすわった音楽家は 恐れていた質問を数学の教師からきくことになる 「1の隣はなんですか」という問いに 答えられなかった音楽家

          となりの√

          火星

          火星がみえる 夜が明ければ 右腕の軌道の人差し指のつけ根あたりに きみの犬歯が叩いた モールス信号の通信の痕が 赤くまたたいているのが 火星がみえる 夕べ打ち上げられたきみを乗せたロケットは もう到着しただろうか 火星の生活の建設基地に きみはきっと小さな抜け穴をみつけるだろう そして 白地に黒いブチの宇宙服を着たきみは 赤い砂のうえに横になって 喉を鳴らせている 火星がみえる 夜が明ければ ぼくがみえるかい リツ大佐

          ハナニラ

          とがった角とたいらな線が くっついた三角が ふたつ重なって 星になる とがつた感性とひたむきな平凡さが くっついた形が ふたつ重なって ハナニラが咲いた

          ハナニラ

          トラフ

          空にトラフをさがしている 天の牛と蛙をやしなう 青紫の色の籠る 空のトラフをみつめている 聳え立つ峰よりたかみにある 深き底を

          天牛

          木の姿が美であるまで外に後退させられて 木のカラダが材であるために年輪の外に追放されて 外にたつわたしが触れているのは 絵の中の木とテーブルと椅子 わたしが触れることができない木の芯を 天牛はつかむ 樹皮と年輪のなかにわけいり 樹液のさかまく渦の振動とかなしみと その木が燃やし続ける火の匂いをつかめるのは 天牛 あなたです

          野蒜

          その草の名を忘れていた 2文字か 3文字だった ネギやニラに良くにて 群れて生える道ばたの美しい曲線の その名を 歩きながら 浮かび上がる 「ム」 という音に捕われる ムクゲ ムグではない フキでもない ヌタにして食べる 摘んで匂えば強い香りの その名の草 猫が待つ家への帰路に その名に近づきつつあることを その庭の土に足が触れる瞬間に思い出すだろうことを 予感している そう 記憶は庭に埋まっていた その草の名はノビル 野蒜の焼きそば食べたい

          どばあ

          吐き出したい思いが強いと改行をしている暇が無くなる。普段無口だと圧力が高まってどばあと噴出する。ぐぐぐぐどばあ。ごごごごぐわあ。言いたいことはなんだっけ?そんなこともわからないまま打ち出されるものは私以外のわたしのよう。ミトコンドリアのいたずらが今日も私を溢れさす。

          立ち入り禁止

          大気圏までのびてゆく木があるとしたら その幹の太さは向うに見える山くらいまであるかもしれない だとすると 枝は海を渡るし 葉が茂れば 世界はくらく、少しだけ涼しくなるのかもしれない そして 地球の軌道は巨大すぎる木のせいでずれてゆくだろう もしも春に花が咲くなら 丸い絨毯のような白い花びらは 偏西風にのって富士の山をこえてゆくかもしれない だからわたしは 広大な土地を立ち入り禁止にしてその真ん中に一粒の種を埋める

          立ち入り禁止

          影絵

          光と私の間に世界がある時刻に 木もひとも山も影絵になる 世界と私の間に光がある時刻に 君もとりも花も名前になる 光と世界の間に私がある時刻には 青い星の上に わたしという影がみえる

          時の粉

          たまにみる夢の中のその斜面は 山にむかう小さな川と道の 右側に有った そこへ何度か来たことがあるということを 夢の中のわたしは確信していた 草の下に白い土の層がみえる つかえる粘土であるということを 喜びをこめて直感している夢を 粘土の堆積した地層から遠くはなれている者の みる夢であるとした解釈は まちがっていたかもしれない 滑走を約束するその細やかな質と 自由な可塑性をもつその白いものは 堆積し隠されていた「時」そのものでは なかったのか 暦神からはるばる

          たったいま

          西むきの坂道の そのさきのわかれ道の そのまださきの行き止まりの 赤いかたまりの 硬いとびらを たたいたひかりは 隙間からみえた閉じこもりの 懐かしい目に告げる たったいま

          たったいま

          裸木

          裸木ののびたうれがふれた 冬の透明な指板とフレットに 約束されている音を 奏でるには 分枝した数だけの鍵が必要になる でも わたしのうでは小さいから その長大な鍵盤をいちどにたたけない しかし いちどにたたけないから わずかに重ねた音のちいさな響きは とどかなかった音に共振してゆく  あなたに緑色の休符がおとずれるまで