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【中編小説】恋、友達から(017)

 屋台を回り始めて三十分くらい経ったと気付き、花火が始まるまであと一時間だなぁと思い、気付けば打ち上げ会場の近くまでやって来ており、ここからでも協賛席とその奥の海が見えるんだと驚いて、一般観覧席はこの近くだけど人の多さを考えれば意味はあると思い、射的のために屋台が続く方へ歩いていくけど観覧席に行くためにこの人混みを戻らないといけないなんて大変だなぁ……。あ、でも逆の流れが出来てるから大丈夫か。――と、そんなことをぼんやりと思っていたら、

「はぐれた」

 いつの間にかみんなを見失っていた。
 立ち止まる訳にはいかないから歩きながらざっと見渡したみたけど見当たらない。ていうか、身長が低いせいであまり見えない。完全にやってしまった。これは電話しないとダメだ……。

 仕方なく、なんとか流れを縫って道の脇へ。一級河川のような人の流れから解放されて思わず息を吐いた。それからスマホを取り出す。
「ん?」
 芳乃ちゃんからメッセージが来ていた。

『海沿いの公園あるでしょ? そこに来てくれない? 大至急で』

 それだけ。届いたのは数分前――ついさっきだ。今は友達と一緒のはずなのにどうしたんだろう……。

 海沿いの公園はこの流れの向こう側で、観覧席の近くだ。歩いてきた感じで言えば、そこに向かう人の流れに乗れればたぶん五分ぐらいだと思うけど。

「射的の屋台を探してるみんなとは逆方向になるよね」

 どうしよう。
 でも大至急ってあるし……とりあえず電話してみよう。
「……出ないし」
 はあ、仕方ない。続いて彩ちゃんに電話をかける。

「分かった。行ってきて」
「ごめんね」

 了承をもらい、私は指定された公園へ歩き出す。浴衣だからあまり速く歩けないけど、できるだけ速く。

 その最中さなかふと思い出した。あの公園――花火大会の日はカップルが押し寄せる定番のデートスポットだ。
「なんのつもりだろう」


 やっぱりと言うか、公園はカップルでごった返していて入るのもはばかられた。だけど行くしかない。雑踏をくぐり抜け、ひとまず海沿いへ。
「あ、いた」

 芳乃ちゃんは海の手前の柵の前にいた。柵に腕を載せて海を眺めている。ぱっと見では何かあったように思えないけど……。

「芳乃ちゃん」
「待ってたよ、萌絵」
「『待ってたよ』じゃないよ。電話には出ないし、彩ちゃんたちを待たせちゃってるんだから」

「ああ」何か思い当たる節があるような様子だった。「大丈夫、木下さんと中垣内さんには『適当なタイミングでやる』って伝えてあるから、はぐれてたのは想定外だけど、問題ないよ」

「どういうこと?」
「木下さんたちのことを尾行してたら偶然にも〝安心材料〟の話をしていたからさぁ、これは粘り勝ちだって喜んだよね。で、話を付けておいた。今ごろ向こうも最後の一押しをやってるところだと思う」

「それって――もしかして」
「理解してもらってる方が色々と助かるからね」
 芳乃ちゃんは縁日へ顔を向ける。
 突然のことに色々と分からなくなってしまう私に、芳乃ちゃんは傘を貸すようにして言った。

「逃げたっていいよ。だから、萌絵が望むようにしなよ」

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