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【願いの園】

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これは種の営み 【不定期更新】 藤田知仍は、気づくと不思議なところにいた。 あまりに突飛な場所ゆえに夢だろうと結論付けたけど、そこに一人の青年が現れる。 塾で知り合い、今では疎遠…
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#妖精

【願いの園】第二章 07

【願いの園】第二章 07

まだ生きてるかもしれない。警戒してしばらく浮いていたけど、泡の一つも立たず、どうやら無事に倒せたようだった。これで安心できるだろう。

ちょうど抱き留める力が緩んでいたから、私は彼女の片手を握ってから脱出した。彼女が驚いた顔をしていたからもう一方の手も握る。

「一人で飛んでみなよ」

私は言った。

ビビリといじっていたときは随分と快活だった彼女も、いざ一人で飛べと言われたら緊張するらしい。すっ

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【願いの園】第二章 06(2)

【願いの園】第二章 06(2)

目の前に妖精がやって来た。
てのひらサイズの人の形で、青を基調とした服を着て、シオカラトンボのような透明な羽を生やしている。女の子っぽい。彼女は背後に指を差す。湖の方だ。

「『こっちに来い』って言ってるんじゃない?」吉岡さんが言った。

立ち上がってお尻の砂を払うと、すぐに吉岡さんが後ろから抱き着いてきた。それだけなら分かるけど、ぐりぐりと私を押すのはどういうことだ。
「移動に制限があるでしょ?

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【願いの園】第二章 05

【願いの園】第二章 05

場当たり的にやるのもどうかと思い河西くんをヒントにアプローチは準備していた。まさか初っ端から応用を求められるとは思っていなかったけど。

「元気にしてた?」

初対面の体で進められる自信がないため、素直に『約二年振りの再会』の感じで挑んだのだけど、自分でも分かるぐらい声がぎこちない。顔もたぶん強張っている。

「藤田さん。やっぱり藤田さんなんだ」

確かめるように呟く吉岡さん。

この状況を彼女は

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【願いの園】第二章 03,04

【願いの園】第二章 03,04

ホワイトアウトした視界は数秒で色彩を取り戻した。

眼前に広がるのは、新緑の生い茂る森。比較的背の高い広葉樹から木漏れ日が落ち、抜け感があって輝かしい雰囲気を持っている。よく晴れて少し高めの気温、風が吹けば涼しいぐらいで、五月って感じだった。正面には遊歩道らしき道が通っていた。乗用車一台が余裕を持って通れそうな幅で、ハイキングにちょうど良さそうな緩い傾斜。

さて、人はどこだろう。

ざっと見渡し

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