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【内部通報制度】守秘義務違反にならない調査の「コツ」

実効性の高い内部通報制度を構築し運用するためには、次の3つの業務を適切に行う必要があります。
1.内部通報受付業務(内部通報を適切に受付する。)
2.調査業務(内部通報内容の調査を行う。)
3.是正措置業務(調査の結果、問題行為が明らかになった場合には、是正に必要な措置をとる。)

「2.調査業務」において、調査業務従事者が内部通報内容の調査を行うにあたっては、まずは、内部通報者に対し、次のリスクを丁寧に説明して、当該リスクがあることを承諾してもらうことが前提になります。

1.特定リスク
 内部通報者が誰であるかを特定されてしまうかもしれないリスク

2.不利益リスク
 内部通報者が被通報者や調査協力者等から、解雇や降格等の不利益な取扱いを受けることがあるかもしれないリスク

もし、内部通報者から特定リスクと不利益リスクの承諾が得られない場合、調査業務従事者には、次のいずれかの選択が迫られることになります。

●調査業務従事者に課せられる「守秘義務」を優先して、調査は行わない。
●「組織の改善」を優先して、特定リスクと不利益リスクを抱えて調査を行う。

そこで、今回は、
●内部通報者から特定リスクと不利益リスクの承諾を得る際の留意点
●内部通報者から特定リスクと不利益リスクの承諾が得られず、「調査しないでほしい」旨の意思が示された場合の対応

について、解説しますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

■「指針」および「指針の解説」からの要請

「指針」(※1)および「指針の解説」(※2)においては、次の考えが示されています。

内部公益通報受付窓口において内部公益通報を受け付け、「正当な理由」がある場合を除いて、必要な調査を実施する。
調査を実施しない「正当な理由」がある場合の例として、例えば、解決済みの案件に関する情報が寄せられた場合、公益通報者と連絡がとれず事実確認が困難である場合等が考えられる。

(※1)指針
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)

(※2)指針の解説
公益通報者保護法に基づく指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)の解説

以上の要請を踏まえると、内部通報を受け付けた場合は、原則、必要な調査を実施しなければなりません。
調査を実施しない「正当な理由」がないにもかかわらず、必要な調査を実施しなければ、調査業務従事者や会社は、内部通報者から不法行為として責任を追及される恐れがあります。

なお、調査業務において、調査業務従事者が内部通報内容の調査を行うにあたっては、まずは、内部通報者に対し、特定リスクと不利益リスクを丁寧に説明して、当該リスクがあることを承諾してもらうことが前提になります。

■内部通報者から特定リスクと不利益リスクの承諾を得る際の留意点

改正公益通報者保護法第12条では、
「公益通報対応業務従事者(内部受付業務従事者・調査業務従事者・是正措置業務従事者)または公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由(※1)がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの(※2)を漏らしてはならない。」として、調査業務従事者を含む公益通報対応業務従事者には「守秘義務」が課せられます。

また、改正公益通報者保護法第21条では、守秘義務違反者には30万円以下の罰金が科せられることになります。

(※1)正当な理由
通報者本人の承諾がある場合、警察からの捜査関係事項照会や、裁判所からの文書送付や調査の嘱託への対応等の法令に基づく場合、 公益通報に関する調査等を担当する公益通報対応業務従事者の間での情報共有等、通報対応に当たって必要不可欠な場合が該当する。

(※2)通報者を特定させる事項
公益通報をした人物が誰であるか「認識」することができる事項をいう。
公益通報者の氏名、社員番号等のように当該人物に固有の事項を伝達される場合が典型例であるが、性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合させることにより、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合には、該当する。
「認識」とは刑罰法規の明確性の観点から、公益通報者を排他的に認識できることを指す。

さらに、改正公益通報者保護法第5条では、内部通報をしたことを理由として、内部通報者に対する解雇や降格等の不利益な取扱いが禁止されています。

したがって、「守秘義務」に違反しない「正当な理由」の一つとして例示されている「通報者本人の承諾がある場合」を踏まえ、内部通報者から承諾を得ておくことで、特定リスクを軽減し、また、不利益リスクを軽減させなければなりません。

そこで、特定リスクと不利益リスクの承諾を得る場合は、
●書面の徴求
●電子メールの受信
●電話の録音

などの方法で、明確に記録を残すこととし、万が一の内部通報者からの訴訟に備えておきましょう。

■「指針の解説」からの要請

「指針の解説」においては、次の考えが示されています。

公益通報者の意向に反して調査を行うことも原則として可能である。公益通報者の意向に反して調査を行う場合においても、調査の前後において、公益通報者とコミュニケーションを十分にとるよう努め、プライバシー等の公益通報者の利益が害されないよう配慮することが求められる。

■内部通報者から特定リスクと不利益リスクの承諾が得られず、「調査しないでほしい」旨の意思が示された場合の対応

もし、内部通報者から特定リスクと不利益リスクの承諾が得られず、また、「調査しないでほしい」旨の意思が示された場合、調査業務従事者には、次のいずれかの選択が迫られることになります。

●調査業務従事者に課せられる「守秘義務」を優先して、調査は行わない。
●「組織の改善」を優先して、特定リスクと不利益リスクを抱えて調査を行う。

この場合の対応は、
【原則】「「守秘義務」を優先して、調査は行わない。」という選択になります。

ただし、【例外】として、
例えば、
・粉飾決算
・不祥事案

といった組織に重大な影響を与える場合は、「組織の改善」を優先して、特定リスクと不利益リスクを抱えてでも調査を行わなければならないケースもあります。

この場合は、「指針の解説」の「公益通報者の意向に反して調査を行うことも原則として可能である。」旨の考えを踏まえ、調査の前後において、内部通報者とコミュニケーションを十分にとるよう努め、プライバシー等の内部通報者の利益が害されないよう配慮するとともに、調査すべき「必要性」「相当性」を検討したうえで、より慎重な判断が求められることに留意しましょう。

福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

【追伸】

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【追伸2】

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