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【内部通報制度】調査業務従事者のためのチェックポイント

内部受付業務従事者(内部窓口にて通報または相談を受け付ける者)が受け付けた内部通報を、調査業務従事者(通報対象事実に関する調査を行う者)が事実確認を行う際のチェックポイントについて、厚生労働省「パワーハラスメント対策導入マニュアル(第4版)」から考察していきます。

■行為者への対応例
~パワーハラスメントがあったと判断できないが、事態が悪化する可能性がある例~

上司に質問をしても「なぜわからないのか」と言われ、「頭が悪い」「朝10時に今日はもう帰ってもいい」などの罵声をこの半年毎日のように浴びせられているという相談が相談窓口にありました。
相談者が「会社としての対応」を希望したために、行為者に事実確認を行うこととしました。
事実確認にあたっては、相談担当者1名と管理職への教育などを担当している人事部の副部長2名で対応することとしました。
また、行為者には、秘密厳守であることと報復などがあってはならないことを最初に告げて事実確認を開始しました。
行為者は、大きな声で叱ったり、指導したりした事実は認めたものの、それがパワハラに該当する罵声や罵倒にあたる言動であるという認識は持っていませんでした。
そのため、相談者の了解を得た上で、職場の第三者にも事実確認を行いましたが、外勤の多い営業職の従業員がほとんどだったため、事実関係をはっきりと確認できませんでした。
そこで、パワハラがあったと判断できないけれども、このままでは事態が悪化する可能性があるとして、部下に指導する際には、怒鳴ったり、人格を攻撃することは望ましくないこと、部下の仕事の行い方にどのような問題があったのかを具体的に指摘し、改善することが上司の役割であること、について行為者と繰り返し話し合い、理解を促しました。
複数回の話し合いの結果、行為者は次第に言動に変化がみられるようになっていきました。

■相談者の了解を得た上で、行為者に事実確認を行う。

相談者は
・行為者や第三者から事情聴取を行い、行為者の問題行為の是正を希望するのか?
・相談者や行為者の勤務地や勤務部署の変更を希望するのか?
相談者の意向を聴き取ったうえで、意向に沿って対応することを心掛ける必要があります。

事例の「相談者が「会社としての対応」を希望したために、行為者に事実確認を行うこととしました。」のとおり、行為者に事実確認を行う場合には、まずは「相談者の了解を得る」ことを徹底しましょう。

また、事例の「行為者には、秘密厳守であることと報復などがあってはならないことを最初に告げて事実確認を開始しました。」のとおり、次の行為は行ってはならないことを、行為者に理解してもらう必要があります。
・相談窓口に相談したことを理由として、相談者に不利益な取扱いを行うこと
・秘密を漏らすこと
・知り得た内容をみだりに他人に知らせること

■事実確認を行う際には、中立的な立場で行為者の話を聴く。

「「なぜわからないのか」と言われ、「頭が悪い」、「朝10時に今日はもう帰ってもいい」などの罵声をこの半年毎日のように浴びせられている」旨の相談に対し、

・相談者がかわいそう。行為者を許せない…
・行為者は人望の厚い人だから、パワハラ的な発言をするはずがない。
相談者の思い違いだ…

といった、調査業務従事者自身の「先入観」「経験則」は捨て、中立的な立場で、行為者の話をゆっくり、最後まで傾聴することを意識する必要があります。

■相談者と行為者の主張が一致しない場合の留意点

行為者に事実確認を行う目的は、行為者に
「相談者の相談内容を認めさせる」
ことではありません。

行為者の主張について、
・主張内容に具体性があるか?
・主張態度に違和感がないか?

といった材料からも、行為者の主張の合理性を判断することもできます。

相談者と行為者の意見が一致しない場合には、相談者の了解を得た上で、同席者や目撃者といった第三者に対して、事実関係の調査を行います。

この場合、第三者に話を聞くことで、当該問題が外部に漏れやすくなるので、次の行為は行ってはならないことを、第三者に理解してもらう必要があります。
・相談者に不利益な取扱いを行うこと
・秘密を漏らすこと
・知り得た内容をみだりに他人に知らせること

■本事例の結末

本事例では、第三者にも事実確認を行ったものの、事実関係をはっきりと確認できませんでした。

しかしながら、
「パワハラがあったと判断できないけれども、このままでは事態が悪化する可能性があるとして、部下に指導する際には、怒鳴ったり、人格を攻撃することは望ましくないこと、部下の仕事の行い方にどのような問題があったのかを具体的に指摘し、改善することが上司の役割であること、について行為者と繰り返し話し合い、理解を促しました。
複数回の話し合いの結果、行為者は次第に言動に変化がみられるようになっていきました。」

と、相談者と行為者の主張が一致しなかったものの、内部通報制度により「職場のリスク」「組織のリスク」としてコントロールした結果、自浄作用が機能した好事例でした。

福田秀喜(行政書士福田法務事務所)
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【追伸】

【改正公益通報者保護法】
内部通報制度の整備が必要な理由とは?
 ⇒ https://kinyutorihiki.com/naibutuuhou/

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