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内部通報制度が機能しない共通点

従業員(退職者を含む)や役員が通報対象事実を知ったとしても、そもそも自社内に内部通報制度が存在することを認識していない者がいます。
また、自らが内部通報したことが必要最小限の範囲を超えて他者と共有されてしまう懸念や内部通報者が誰であるか探索される懸念があれば、内部通報を行うことを躊躇(ちゅうちょ)してしまうことが想定されます。

これでは、法令違反等の問題を早期に把握することが困難になってしまいます。

そこで、今回は、
●内部通報制度が機能しない共通点
●内部通報制度を機能させる7つの方法

について、解説しますので、ぜひ最後まで、ご覧ください。

■「指針」「指針の趣旨」からの要請

「指針※」「指針の趣旨」においては、内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置として、次の考えが示されています。

法及び内部公益通報対応体制について、労働者等及び役員並びに退職者に対して教育・周知を行う。また、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、特に十分に教育を行う。
労働者等及び役員並びに退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。
内部公益通報が適切になされるためには、労働者等及び役員並びに退職者において、法及び事業者の内部公益通報対応体制について十分に認識している必要がある。
公益通報対応業務を担う従事者は、公益通報者を特定させる事項について刑事罰で担保された守秘義務を負うことを踏まえ、法及び内部公益通報対応体制について、特に十分に認識している必要がある。
労働者等及び役員並びに退職者の認識を高めるためには、事業者の側において能動的に周知するだけではなく、労働者等及び役員並びに退職者が質問や相談を行った際に、適時に情報提供ができる仕組みも必要である。

(※)指針
公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号)

■内部通報制度が機能しない共通点【その1】

「社内に内部通報制度が存在することをそもそも知らない。」

スルガ銀行株式会社 第三者委員会から2018年9月7日に公表された「調査報告書(公表版)」によれば、スルガ銀行においては、行内に内部通報制度が存在することを知っていた行員は90.5%だったということです。
つまり、知らない行員が10%弱もいたということが分かりました。

経営層・本部側の「知っているはず」「周知できているはず」という考えは、非常にキケンです。

改正公益通報者保護法においては、自社内に整備すべき内部通報制度は、現在その職にある役員・正社員・契約社員・嘱託社員・パート・アルバイト・派遣労働者の職にある者にとどまらず、退職から1年以内に正社員・契約社員・嘱託社員・パート・アルバイト・派遣労働者の職にあった者も対象とした制度の構築が求められています。

したがって、これら役職員全員が、自社内に内部通報制度が存在することを知っていることが最初の一歩になります。

■内部通報制度が機能しない共通点【その2】

「内部通報制度が信頼されていない。」

スルガ銀行株式会社 第三者委員会が実施したアンケート結果では、内部通報制度を利用しようかと思ったけれども止めた行員が198名もいたということです(アンケートに回答した行員:3,595名)。

内部通報制度の利用を止めた理由は、
・通報したことが社内で判明してしまうことを恐れた
・どうせ無駄だから
・取り合ってもらえないから
・何らかの制裁を受けると思ったから
・報復を受けると思ったから
・通報すると上席者に分かってしまう

つまり、上司の横暴やパワハラが是正されないと内部通報制度の利用を諦めてしまい、また、過去に通報者が特定された事件が一件でもあると(噂でも)、極端に委縮してしまうことに留意しなければなりません。

これら誤った対応の積み重ねが負の企業風土を形成し、結果、内部通報制度は機能しなくなってしまいます。

■内部通報制度を機能させる7つの方法

1.役職員に対しアンケート調査を実施し、内部通報制度の周知状況や信頼度等の実態を把握する。

2.前記1.のアンケート結果に基づき、経営層が先頭に立って、役職員の立場・経験年数等に応じて用意する階層別研修等により、繰り返し内部通報制度を教育・周知する。

【研修内容の例】

・公益通報者保護法の趣旨・内容
・内部通報制度の意義・重要性
・内部通報制度を活用した適切な通報は、リスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること
・内部規程や法の要件を満たす適切な通報を行った者に対する不利益な取扱いは決して許されないこと
・通報に関する秘密保持を徹底するべきこと
・利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先するべきこと
・上記の事項は企業の発展・存亡をも左右し得ること

 3.内部通報対応体制の内容、具体例を用いた通報対象の説明、内部通報者保護の仕組み、その他内部通報受付窓口への相談が想定される質問事項等をFAQ にまとめ、次のあらゆるツールを活用し、内部通報制度を教育・周知する。

【ツールの例】

・ポスター掲示
・イントラネット・社内報での発信
・携帯カード・広報物の配布

4.内部通報事案は、真剣かつ公正に処理し、その実績を積み上げる

スルガ銀行株式会社 第三者委員会の「調査報告書(公表版)」には、次の内容が述べられています。

適切に対応した事例が出ると、従業員の見る目も変わる。通報があった案件についてきちんと調査し、厳しく処分する(上司であろうと経営幹部であろうと)と、そのような情報は社内に拡散し、明るい希望になる。したがって、まずは、通報があった案件について、真剣かつ公正に処理をし、その実績を積み上げることである。

5.内部通報窓口を設けて待っているだけではダメ

スルガ銀行株式会社 第三者委員会の「調査報告書(公表版)」には、次の内容が述べられています。

こちらからお伺いに行くことも考えるべきである。半期に一度くらい、窓口の側から「何か気になっていることはありませんか?」「これは問題ではないかと思っていることはありませんか?」などと尋ねていくのである。そういうメールが来れば、日頃どうかと思っていることを気楽に伝えてくれることがある。メールだけでなく、例えば監査役とか、社外役員など、少人数で話を聞く機会を設けることも有効である。

6.内部通報後の取扱手順や内部通報業務従事者が負う守秘義務の内容、不利益な取扱いの禁止等の内部通報者の保護の仕組み等に関する質問や相談を受けた際に、適時に情報提供ができる仕組みを整備する。

7.「内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)※」を活用し、内部通報制度の信頼性を高める。

※内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)の概要

自社の内部通報制度について、公益社団法人商事法務研究会がその内容を審査し、「内部通報制度認証基準」に適合していることを確認する制度
「内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)」の登録を受けることにより、自社の内部通報制度に対する役職員の信頼性の向上が期待できる。

以上のとおり、役職員に配慮したきめ細やかな対応を行うことが必要となります。
内部通報制度を教育・周知するとともに、内部通報制度に対するハードルを下げる工夫を積み重ね、役職員の信頼を向上させていきましょう。

福田秀喜(行政書士福田法務事務所)

【追伸】

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【追伸2】

この記事の内容は、YouTubeでも紹介しています。


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