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メッセンジャー
黒(オカルト)記事 第2夜 後編
【ショートショート】
ブルブルとふるえている電話をとると向こうから懐かしい声が響いてきました。
電話の主は10年ほど前に同じ職場にいた佐藤という男です。年上ではありますが私の方が早く入社しておりましたので一応上司と部下の関係でありました。
仕事中、背伸びと同時に発する大きな声に驚いたものです。昔話でも語るような平坦なしゃべり方をする男でありました。
今になって思えば忙しさのあまり仕事を頼み過ぎたのかもしれません。彼は2年余りで疲れたように田舎へと帰って行きました。それ以来の会話であります。
「LINEはじめただろ?通知が来たから電話してみた。元気してるかなと思って」
別に用事があった様子でもありません。LINE登録時にアドレス帳に載っていた彼あてに通知が届いたものと思われます。現在は役場の仕事を手伝っているとの事でした。お互いの近況報告が落ち着いた頃に彼が言いました。
「覚えているかなあ。車でこっちまで来たこと」
忘れもしません。彼の里帰りを兼ねて県境までドライブした記憶が蘇ります。
仕事の最中に、何の話の延長だったのかは記憶にないのですが、彼の田舎ではUFOやら猿人やらツチノコやらの目撃情報が絶えないというのです。
話の中に、ツチノコを見て熱を出した隣の婆さんとか、猿人(通称ヒバゴン)の毛を拾った知り合いとかが登場しますので、テレビの特番よりは信憑性を感じてしまいます。
私はビビり症ではありますが幽霊とか宇宙人の類を信じていません。しかし全くいないとも言い切れない。よくわからないというのが私のスタンスでありました。
ある日、オカルトファンでもなんでもない私はそのミステリーの里へと誘われるのです。途中に「行列のできる鯛焼きの店がある」の言葉に乗ってしまうのでありました。
道中で見かける標識に私は興味を示しました。彼が答えます。
「珍しい名前が多いだろ。雲南とか飯南とか、邑南(おうなん)なんて誰も読めはしないのだ」
相変わらずの説明口調でありました。
県道を川沿いに北上していくとやがて彼の生まれ育った町へと入りました。車がすれ違うのがやっとの町道であります。
車が町役場の駐車場に入りました。佐藤は車外に出ると「うああっ」と声をあげて伸びをしました。何があったのかと驚くほどの大きな声でありました。それは久方振りの町の空気を味わっているかのように見えました。
反対に私は少し緊張しておりました。私は取材をする為に同行した、という設定であります。
幼馴染みが勤めているという役場に入ると、あらかじめ連絡しておいた為かその友人はすぐに出てきます。
「よお、久しぶり」
二人はあいさつもほどほどに私を手招きしながら、ついたてで仕切られた応接コーナーへと入ります。
小島と名乗る男は「すまんね」とみやげを受け取りました。二人はお互いの近況を話し始めます。里帰りした友達に対しても女子職員がお茶を出してくれるのんびりとした町役場でありました。
「ルポルタージュを書きたいんだって?」
私の方に向き直った小島氏が言いました。
「あ、いえ、ただのレポートです」
そんな大仰なものを手掛けているのではないと答えました。学校で適当に書いていたレポート程度との謙遜から出た言葉でありますが、後で調べてみるとどちらも同じ意味でした。
「今でこそ落ち着いてるけど、あのときは町中がお祭り騒ぎさ」
と彼はツチノコ騒動を話し始めます。本当に取材をしたい人間か否かは、既に見透かされているようでありました。彼は終始佐藤に向かって話しておりました。
「テレビやら雑誌やらの取材の対応でここもオオゴトよ。いきなり押しかけて来た探検隊もいたなあ。ほら、となりのクラスにいた田所が対応係りでさ。一日中電話や取材の相手して可哀そうなくらいだったわ。でも後で聞いた話では本人えらい楽しかった言うてたわ。わからんものやね」
この町から更に北上した場所にある葦嶽山。世界最古のピラミッドとされるその近辺ではいまだにUFOの目撃情報が絶えないこと、更に島根県との境まで行くと比婆山があり、そこに出没していたとされる「ヒバゴン」についてはふっつりと目撃談が途絶えた事などをふたりは楽しそうに話すのでありました。
まがりなりにも人の税金で食っている人間が、当たり前のように超常現象を語るのです。一般では非常識と思われる事象がここでは世間話のように聞こえるのであります。まるで異世界へと足を踏み入れたかのような不思議な感覚でありました。
帰り際にもらったみやげは「つちのこ饅頭」という町おこし商品でありました。帰って開けると馬糞に変わっているのではないかと心配してしまいます。
私は早く現実世界に戻りたい、家に帰りたいの一心でありました。しかし、佐藤の「実家にも寄ってみる」と言う言葉に逆らうことは出来ません。
彼の母親から「ヒバゴンらしき遺骸が腐敗した状態で見つかった」という話を聞いた時にはトイレで吐いてしまいます。顔色の悪さを気取られて「少し休んでいけ」の言葉を丁重に断ると車に乗り込みました。帰途に立ち寄った店の、想像以上に美味い鯛焼きでやっと現世に戻れたのでありました。
「じゃあ、また連絡するわ」
「ああ、そっちも元気で」
私は名残り惜しむようにゆっくりと電話を切りました。
「世の中に偶然など無く、何事にも意味がある」と説く人もいます。久しぶりにかかってきた電話。これはきっとオカルトの里を「ルポルタージュとして記録に残す」為の必然の出来事だったのだと自分に言い聞かせたのであります。
目撃地点を地図に落とし込んでいると私はあることに気が付きます。
ツチノコ、ピラミッド、UFO、ヒバゴンと目撃情報多発地帯をたどっていったその延長線上には驚くことにこれまたミステリーの宝庫「出雲」が待ち受けているのです。
関連性を疑うには十分な発見に思えました。
(彼等は出雲からの使者なのではないか、だとするならば何を伝えようとしているのか)
そんな妄想を広げている矢先、再びあの佐藤から電話が入ります。
「昨日、出雲から観光大使がやって来た」
彼が電話の向こうで物語るように言うのであります。
「その大使というのが、スーツは着てるんだが顔も手も毛むくじゃらなんだ。首に巻いているネクタイもよく見るとツチノコだった。コロナ禍のおり、観光客が見込めない。そこでオンライン配信を検討しているんだが、計画に加わらないかと言ってきたのさ。今あちこちの市町村を飛び回っているらしい。銀色の円盤で帰って行ったけど何だか忙しそうだったなあ…ところで何か面白い企画はないかね?」
完
※追記
当時を思い起こしてのルポルタージュであります。寄る年波に記憶のあいまいな部分も多いのであります。果たして本当の事なのか、そうでないのか……
ツチノコ探しがブームだった頃、町おこしに一役買った「つちのこ饅頭」 ↓
黒(オカルト)記事 第2夜 前篇 ↓
記事ジャンル
#オカルト #ショートショート #出雲に敬意を込めて #一度は行きたいあの場所
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