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Netflix『Fair Play/フェアプレー』感想:わずかなカタルシスの意味(ネタバレ)

寝っころがりながら入眠のおともにNetflixを観ることも多々あるのですが、この作品は序盤でグンと引き込まれてしまい、途中から着席して最後まで観きりました。配信作品でこんなに集中したのも久々かもしれない。

まず、Netflixの紹介文が秀逸だと思いました。引用すると、

競争の過酷なヘッジファンドの同僚である若いカップル。ある日、片方が思いがけず昇進したことで、婚約したばかりのふたりの関係は次第に険悪になっていく。

Netflix『Fair Play/フェアプレー』

いいなと思ったのは、昇進したの片方の性別を伏せている点。性別を明かしていないのに「関係が微妙になるんだから、きっと昇進したのは女性」と想像してしまう事実があって「ああ嫌だ」と思わせてくれる(異性愛のカップルであることが前提にはなるけれど)。

そして察した内容は、当たっている。昇進したのは女性のエミリーで、その事実を受け止めきれない男性のルークとの関係がギクシャクする。ここまでは想像がつきやすいが、途中から話がどこへ向かうかわからなくなる。

Netflix『Fair Play/フェアプレー』のはじまり

エミリーの昇進が明らかになる前、序盤に2人は婚約し、幸福感に満ち溢れる。そして同じ職場で秘密の恋愛を楽しみながら、ともにバリバリ働く。

ある時、エミリーはルークの昇進の噂を聞きつける。心から嬉しそうな彼女は、彼に「あなた昇進するみたいだよ」と伝え、2人で喜ぶ。

しかし実際に昇進するのはエミリーで「とうとう苦境の始まりか」と思う。そして実際は苦境どころではなく、地獄であり、終わりの始まりでもあった。

女性の出世ディストピア映画?それでも感動した点

まだ散らかっているけれど、印象に残ったシーンや考えをいくつか書いていくと下記のような感じです。

  • エミリーの昇進が上司と性的な関係があるからではと邪推し始めるルーク。ルークの弱さや、眠っていた女性蔑視が露わになっていく

  • とはいえ、序盤からルークの発言の端々に男尊女卑的な要素はある。大きな問題がないかぎり「うん?」という発言を流してしまうことはある。どれだけ長い時間を平穏に過ごしても、相手の真髄はわからなかったり、気付いても大目に見たりするのかもしれない

  • 出世したエミリーが経営陣とストリップバーに行って無理やりおっさんのムラ社会で同化しようとする場面がつらすぎる。しかしエミリーはこの時点で24歳くらいと若いので「そうするしかないと思ってしまう時もあるよね」とやるせない。出世の先にある連帯や世界がこれだとしたらディストピアでしかない

  • 失意のルークが失踪したり、会社で暴挙にでたりする描き方は最初やりすぎかと思ったけど、この辺からリアリティラインが揺らぎながらラストシーンに向けて走り始めていたんだと思う。ただ、そのなかでセックスがレイプになっていくシーンはものすごくリアルに感じた

怖いし、胸が悪くなる。それでも私はちょっと感動した。なぜか?

男性にとってこんなに居心地の悪い話をこんなに丁寧に作って、鮮明に描いて、公開されててすごいなという感動です(バービーを観た時も思った)。歪んでいるだろうか?いや、そんなことない。現実を見るところから物事は良くなるはずだから。

最後のシーンのカタルシスについて

終盤、本当にわずかだけどカタルシスをもたらしてくれるシーンがある。

何ごともなかったように2人の別れの事務処理を進めようとするルークを、エミリーは激怒してナイフで切り付ける。ルークは驚き、血を流しながら、泣いてこれまでの行動を詫び、許しを乞い始める。そしてエミリーは最後にある決断をする。

ナイフが出てきて、さらにエミリーが本当に切り付けたのには正直びっくりした。

でも、改めて考えてみて、彼女にナイフを持たせないといけなかったのは、彼が泣いて許しを乞うことの非現実性を表しているからじゃないかと思う。

女性が男性に傷つけられた時、それが男尊女卑的な考え方、また勝手な性欲や征服欲のせいだった時、きちんと謝られたり、ましてや泣いて許しを乞われるなんてことが、現実ではどれだけあるだろう。

ナイフが出てくることが「これはフィクションですよ」というリマインドであり、そして「フィクションだから謝るシーンはアリ。見たいもの見せたげる」という内容にできたんじゃないかと思う。

彼女が切り付ける行為は、そういうリアリティラインだと示しつつ、受けて当然のはずの謝罪を受けるために彼女が支払わされる代償でもある。

最後に:これはエロティックスリラーか?

Netflixのカテゴリーでは『Fair Play/フェアプレー』は「ヒューマンドラマ」「サスペンス」となっていて、うんうん、と思う。一方、Googleの紹介では「ドラマ/エロティック・スリラー」となっていて驚いた。「これがエロティックですと!?」と思いちょっと笑ってから、考えてしまった。

私の考えではこの映画は、性暴力も含めた性的な要素があるだけで官能的とは程遠いと思う。

では何のカテゴリーが当てはまるだろう。現実的な話をこんなふうに呼ぶのはいやだけど、やはり「ディストピア」だろうか。でも、加えて「サバイバル」でもある。くっそーと思う現実を生き抜くうえで思い出す、そんな作品かもしれない。

そのほかで印象に残るシーンや感じたこと

  • エミリーの昇進の知らせに戸惑いながら大丈夫なふりをするルーク。確かに自分が昇進するという噂を聞いていたら、複雑な気持ちになるのは仕方ないと思う。そして、そこからどうするかだよねって思う

  • エミリーが昇給したことで、ルークにご飯をご馳走するよっていうのは、無神経か、喜びの共有か、考えた。実際のところ性別関係なく、個別の関係性やその時の状況によると思う

  • 関係が悪化して連絡を断つルーク。必死で探し話そうとするエミリー。「なんで酷いことをした人を追いかけてやらなきゃいけないんだ」と思いつつ、でも違う文脈で私も似たようなことあったかなと、男性らとの思い出を振り返る

  • 終盤になんでこうなっちゃったのかわからないと泣き崩れるルーク。この場面の彼は、久々に素直な表情に見えた

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