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【朔 #163】高尾

 八月三日、四日と寄席・喜楽館へ。トリはネタ出しで桂春蝶師匠の「死神」「高尾」。春蝶師匠は大好きな噺家の一人で、機会があれば必ずその芸に酔いに行く。よって今回も行ったわけだが、また別に常々観たいと思っていた「高尾」を演ると知って急いで席を確保した。「反魂香」という名前の方が馴染み深い方もいるかも知れない。雲田はるこ『昭和元禄落語心中』(講談社)で有楽亭八雲が演っているのを見て以来数年間、生で観る機会を待望していた。かつ、その「高尾」を春蝶師匠で観られるというのは私にとってもう一つ特別な価値がある。春蝶師匠の師匠は上方落語四天王の一人・三代目桂春團治。私はこの春團治の芸も大好きなのだが、「高尾」はその春團治の十八番だった。上演中、春蝶師匠が春團治との稽古の思い出にも言及し、観ること能わぬ春團治の「高尾」にも思いを巡らした。閑話休題。諸々の要素(アニメでの視聴、師系、希少価値)を取っ払っても、春蝶師匠の「高尾」はポップな部分もあって笑え、かつ鳴り物とのコンビネーションがとれた美しいものだった。それに高尾太夫と島田重三郎との会話、これは歌舞伎などの芝居がかった口調になるのだが、それが記録音源で聴いた春團治のそっくりで、師弟間でしっかりと受け継がれたものを感じ、ますます感動した。
 久々にリフレッシュできた気がする。誰も知り合いがいない場にひとり、私なりに楽しむという時間が要る。この暑さでは山にも入れないし、海は人臭いし、美術館も良いが、たまに舞台芸術の勉強がてら脳を微妙な活動域まで。

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