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【朔 #162】いつのまにか八月

 絶望の比喩を並べ立てて私の春は終わった。
 炎夏七月、
 どこかで風鈴を解体する仕事に従事する。
 冷えた眼鏡に触れられて、脳裏に西瓜を置いたような気がしたが無理、青銅の鴉が咥えている黒い羽は己のものではない、ではないとしたら、塔の周辺および中心を攻め続ける揚羽蝶の群と故郷としての白樺よ、慎ましい翡翠を砕くまで止まったままの時計だ、もう、アアーッと叫びながら畳を剥がしてゆくと、いつのまにか八月。
 いつのまにか八月。
 また、八月?
 蟾蜍です。
 鼻の先まで霧が訪ねてくる。ともかく、私は和歌山の宿を探している。

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