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第6章 何を売るのかが決まらない

世の中には成功事例が溢れていますが、むしろ大切なのは失敗事例。成功は独自の要素や運があるため、再現が難しい。一方で、失敗は条件が揃えば確実に同じように再現ができます。小さな失敗を記録することで、後々の役に立てば良いなと思っています。

1.おもしろいだけではだめ

職人さんを訪ねると、とりあえず作ってみた試作品がたくさん眠っています。例えばこの作品!
器の内側に塗った漆が、木の導管を伝って外にしみ出しています。この模様は1点ずつ異なっており、眺めていると結構おもしろいのです。透明なウレタン塗装で固めると、この模様が固定されます。

導管を伝って外にしみ出した漆

他にもこんなものがあります。
漆器ですが、木材を麻で補強しながら漆で塗り固める技法が一般的です。その麻の部分だけを取り出すことで、布だけを漆で固めた花瓶ができあがります。水も漏れなくて、意外と実用性があります。

麻布を漆で固めた花瓶

と、ここまで読んで「確かに珍しいけど、私はいらないな・・・」と思った方、正解です。製造業でも同じことが言えるのですが、作る側が面白い!と思ったモノの大半は売れません
新商品開発にはマーケットイン(市場に求められるものを作る)かプロダクトアウト(製品から市場を作る)か、というおなじみの議論があります。多くの中小企業の企画は市場のことを考えない、中途半端なプロダクトアウトになっており、作ったけどどこに売って良いのか分からない、ということになりがちです。

たとえば、補助事業でたくさん作られた、伝統工芸の技を生かしたコロナの飛沫感染に対応するパーティションなど、最たるモノです。パーティションは基本的に透明で威圧感のないものが好まれるのであって、しかも1枚10万円近くするような製品の販路開拓は容易ではありません。
一方、既に市場が明らかなところに売る場合、単なる安売り競争になってしまうため、それはそれで先がありません。

2.新素材に挑戦したものの

それでは、目新しさを目指して、新素材と伝統工芸の組み合わせはどうでしょうか。
滋賀県・彦根市で、捨てられる卵の殻を元に、様々な製品に使用できるカルシウムを作っているバイオアパタイトというベンチャーさんがいます。この粉を焼成すると、真っ白な焼き物ができあがるのですね。基本的に磁器と似ていますが、表面がつるつるではなく、ざらざらとしているのが特徴です。
表面がざらざらしている場合、漆が比較的塗りやすいこともあり、漆塗りに挑戦してみました。

卵形の焼き物(一輪挿し)に漆と金箔押しをしてみたもの
素材に光が透過する性質があります

トップ画像のように、漆がうまく塗り上がりました。試作品がNHK Worldのサステイナブル特集に取り上げられたりと、それなりの反響はあったのですが・・・

NHK World 2020年11月7日 BIZ STREAM

ただ、伝統工芸あるあるですが、メディアで取り上げられたとしても、実際に売れるかどうかとは全く別。
器に汚れが付着しやすく、相手先企業様が念頭においていたホテル用の食器として使用することがそもそもできないこと、漆を塗った場合は業務用食器に欠かせない漂白に対応できないこともわかり、企画が日の目を見ることはなかったのでした。
そう、メディアに取り上げられたのはうれしいのですが、売れなければどうしようもありません。闇雲にやっていても仕方がないため、そもそも工芸品はなぜ売れるのか?という点をきちんと考える必要があることに気づいたのでした。

3.工芸品のニーズ=文化の有無で決まる

経営コンサルティングでよく用いる、3C分析というフレームワークがあります。Customer(顧客)、 Company(自社)、Competitor(競合)という3つの観点から挑戦する領域を考える手法です。このフレームワーク、単に3つを独立で考えるだけでは意味がありません。重要なのは重なり合っている領域の捉え方です。基本的にはa. 顧客が求めているのに誰も答えを出せていない領域か、c. 顧客と自社が出会っているものの競合が不在(ブルーオーシャン)を狙います。

3C分析は重なり合う領域の考え方が大切

様々な可能性を考えつつ、ニーズが存在するだろうと仮説を立てる。未踏の領域だけに、なぜ他の人がやっていないのか、参入障壁はなんなのか、単に利益が出ないのか・・・ということを必死に考えます。この時点では仮説ですから、実際に事業化したあとで、修正が必要になります。
ここら辺を文章にまとめたモノが事業計画ですが、個人的には海のものとも山のものともつかぬ段階で、長文の事業計画を書くことはオススメしません。それをする暇があるなら、1つでも製品を作って試しに販売してみるべきです。

さて、それでは工芸品の場合、どのような視点で市場を探せば良いのでしょうか。ポイントは価値の裏付けとなる文化の有無です。
例えばディズニーグッズを見ていただければ分かるとおり、同じユーハイム工場で作っているお菓子であっても、ミッキーマウスの箱に入っているだけで高い値段で売れます。価値の裏付けとなっているのはディズニー作品を楽しむ文化です。アニメグッズでも同じことが言えます。
例えば、私はハリーポッターに興味がありません。この状態でUSJのアトラクションに乗っても、「ふーん・・・」で終わりでした。

そもそも価値には2つの側面があります。
1. 機能的価値:水をためる、食品を口に運ぶ など
2. 情緒的価値:持つことで優越感を得られる、達成感の証 など

機能的価値は製造業でおなじみのもので、今まではできなかった新しい働きをモノを通じて実現するものです。ただ、工芸品の場合、機能的価値はほとんどないと考えるべきで、なんだったら100円ショップの方が食洗機を使える分優れていたりします。
そうであれば、追及すべきは情緒的価値です。
なぜ美術館の器は1つで10億円もするのか、現代アートの作品で100億円もするのはなぜなのか・・・

工芸品の場合、価値を担保しているものはこんな感じでしょう。

  1.  美術工芸:パトロンの権威(千利休が認めた楽茶碗です)

  2. 伝統工芸:歴史(この地方でずっと昔から大切な行事で使われています)

  3. 生活工芸:作家の思想的重要性(柳宗悦に認められた方です※)

※民藝は運動(ムーブメント)の呼び方であって、工芸のジャンルではないというのが私の理解です。したがって、民藝の中には、美術工芸、伝統工芸、生活工芸が含まれています。

ちなみに、工芸の分類については以下の記事でまとめておりますので、ご参照ください。

結局のところ、器そのものではなく、背後にある文化=情報が価値づけ、すなわち権威付けをしているといえます。したがって、作家・家元・出版社がコラボして茶器の価格を上げるというのは非常に理にかなっているのです。

ここら辺はレストラン(料理人・批評家・メディア)や、キャンプグッズ(作家・ユーチューバー・メディア)などの関係も同じです。高い作品になればなるほど、誰が良いと言っているのか?、が重要になります

そう、アートにおける美術館の意味もここにあります。美術館に置かれたものが美術品と考えるのであれば、雑多な収集品を体系立て、美術史に位置づけるという行為そのものが、権威付けによる価値の創出にあたるのです

【夫婦が得た教訓】

単におもしろい作品を作るだけでは価値のある作品はできません。
何らかの形で、作品が受け入れられる文化を探さなければならないということに気づきました。

次回に続きます!

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滋賀県のびわ湖のほとりでコンサルティングと伝統工芸のお仕事をしています。今後もnoteを通して皆様と交流できれば幸いです。

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