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第3章 伝統工芸に出会う ~工芸ってなんだ?~

中小企業支援の現場では補助金など、悩ましい施策も多くあります。
しかし、いよいよ伝統工芸に出会うのです。ようやく記事も本番!

1.伝統工芸を知る

滋賀県には3つの国指定伝統的工芸品があります。彦根仏壇・近江上布・信楽焼です。彦根商工会議所でのお仕事の1つに、彦根仏壇の有志で作られたグループ、ナナプラスの支援がありました。

おそらく、読者の皆さまのご自宅でも、仏壇がない方が多いのではないでしょうか。うちの賃貸にもありません。お寺を中心とした信仰が薄れゆく現在、いろいろな祈りの形があってよいよね、という発想からナナプラスでは新発想の仏具を作っています。

この仕事をする前は、正直なところ伝統工芸とのつながりはありませんでした。それが今ではすっかり伝統工芸が活動の中心になっているわけですから、不思議なものです。こういった経緯もあって、コンサルタントとしての独立当初は活動の領域を狭めることなく、興味の赴くままにいろいろとやってみるのがよいと思っています

2.工芸ってなんだ?

そもそも論として、工芸ってなんだ?という話です。
後日、金継ぎ作品のネットショップを英語で作る際に実感するのですが、工芸に該当する英語がよく分からないのです。一般的にはcraftでしょうか。ただ、craftというと退役した軍人さんが趣味で作る作品もcraftであり、日本の職人さんがすばらしい技工で作るものとはちょっとニュアンスが違います。artはどうかというと、工芸品の中で美術館に入るようなものはほんの一握りで、それ以外は日常の用途で使われるわけです。いずれにせよ、しっくりこない。

個人的にはギリシア語のテクネ(technē)が工芸の訳に最も近いと思っています。現在のように美術と技術が分離していなかった頃の、手を使って制作するありさまを示す言葉。その上で、私は美術と工芸をこのように定義しています。

Art:美術マーケットで取引されるもの(用を伴う必要はない)

Technē:100年以上前から続く技法を使って作られた作品であって、用を伴うもの
①美術工芸:歴史的にパトロンの意図を実現するために作られる工芸品
(例:楽焼、伊万里焼(柿右衛門)、幕府や宮内省への献上品)

 美術工芸の一部はARTになることもある。
②伝統工芸:歴史的に形成された産地の枠内で作られる工芸品(例:信楽焼)
③生活工芸:産地と関係なく作家自身の思想を実現するために作られる工芸品(例:各地で美大卒の方が作る器)

実際にはそれぞれの中間領域もあります。ただ、いずれを目指しているのかによって、概念的に分けられるはずです。定義にあたってはナナプラス以降、一緒に活動してるデザイナーの乾さんに大変多くの示唆をいただきました(当社のロゴやHPも作成いただいています)。
ありがとうございました。

つまり、何を作っているか?と言う点をまとめると、以下のように説明できます。ついでに、よく使われる呼称も書きます。

Art(アート):作者自身が、思想を作っている(本質は話題作り)
       = アーティスト
Technē(工芸):

①美術工芸:パトロンの話題作りに対応した、モノを作っている = 先生
②伝統工芸:生活で使うための、モノを作っている = 職人
③生活工芸:モノを作りつつ、思想を語っている = 作家

モノと思想、非日常と日常にプロット

伝統工芸に関する文章はいろいろありますが、どうもここら辺の定義をきちんと行わないまま、議論を進めていることが多いと思っています。
例えば、伝統工芸ではあくまで道具を作っているわけですから、職人さんの名前が表に出ないことがよくあります。一方、生活工芸は作家さん自身の思想を実現するために作品があるわけですから、作家さんの名前を出さないということはあり得ません。歴史的な経緯や販路を考えないまま、「これからの時代、職人さんも自分の名前を前面に出してアピールしないと!」というのは筋違いということになります。

他にも、工業的に大量生産(電子部品などと比較するとかわいいものですが)しているものを伝統工芸の文脈で説明している例もあります。昔ながらの手法で作る場合、例えば中川政七商店さんのような小売を通してしまうと、全量買取であっても、1つの器が4,000円台ということはあり得ません。

典型的な100年以上前から続く技法は手作業です。この器は確かに伝統工芸産地で作られているモノではあるのですが、工場で大量生産されている場合、本当に手作業で作っている製品との間で誤解を招いてしまいます。むしろ、伝統工芸のイメージを活かした工業製品、と呼ぶべきでしょう。この手法を用いることのできる工芸産地は、以下の条件を満たす必要があると思われます。

a. 工業化しており、安価な価格に対応した上で、量産ができる

ほとんどの工芸産地はこの条件を満たしていません。

ちなみに、私は伝統工芸のイメージを活かした工業製品を否定はしません。むしろ、次回でも述べますが、使い手となる人をターゲティングして、ニーズをきちんと捉えているなー、と思うことが多いです。ただ、こういった製品を購入することが、衰退しつつある工芸全般を応援する行為にはならない、ということは明記しておきたいと思います。
工芸品を革新するシンプルな方法の1つは、伝統部分を近代的な工業で置き換えること、です。でも、その手法が通じるのは限られた産地だけです。理論を語るなら、その限界=成立する前提条件を明言しなければなりません。もちろん、それは私にも同じことがいえます。
それを行うことなく、あたかも「この手法であれば日本の工芸が元気になります!、地方創生につながります!」というのは誠実な態度とは言えないでしょう。

3.漆の師匠に出会う

さて、ナナプラスの他にもいくつか伝統工芸のコンサルティングの仕事を始めました。その甲斐あってか、伝統工芸の知識は増えていきました。ただ、「本当にその理屈は通用するのか?つまり、伝統工芸を自力で売ることができるのか?」という根本的な疑問が解決できない状態が続きました。

そんなとき、長浜信用金庫のご紹介で漆の職人さんに出会います。滋賀県の一番北の部分、長浜市で仏壇職人をされている杉中さんとの出会いです。杉中さんは宗永堂(そうえいどう)という仏壇工房をご夫婦で経営されている漆塗りの職人さんです。

滋賀県には滋賀県産業支援プラザという公的な支援機関があります。ここの支援制度を使うと10回までコンサルティングを自己負担1/3で受けられます。杉中さんにはこの制度を使っていただき、コンサルティングをスタートすることにしました。使ってしまえばおしまいの買い物に対する補助金と違って、事業者様自身の力を引き出すコンサルティングに対する公費助成は大変助かります。

長浜市では浜壇(はまだん)と呼ばれる、それは豪華な仏壇を祀る文化があります。杉中さんは、今では数少なくなった仏壇作りの職人さんなのです。
杉中さんと話をしていくうち、私自身も漆の魅力に取り込まれていきました。

長浜市の博物館に展示された歴史的な超絶技工の浜壇
手作りで作られた見事な金具の数々

コンサルティングをしつつ、一種の弟子入りをする感じで、私たち夫婦と杉中さんご夫婦、一緒に新しい挑戦をすることになりました。
冒頭の写真はそんな感じを出せるように、後日ネットショップをオープンする際に撮影したものです。

【夫婦が得た教訓】

事業をやっていくうちに思いもかけない機会が目の前に現れます。その中でどれを選択していくのかが一番難しい。何をやるかは、何をやらないかと同義です。工芸品に携わると言うことは、事業の規模を急速に大きくするのには適さない方法ですが、やりたいことをじっくりと進めていくのには一番の方法だと思っています。

次回に続きます!

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滋賀県のびわ湖のほとりでコンサルティングと伝統工芸のお仕事をしています。今後もnoteを通して皆様と交流できれば幸いです。

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