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心の健康を保つために必要

最近というか、年明けから、ずっと卵が高い。
価格の優等生と呼ばれた卵がとにかく高い。
卵、お前って子はいつの間に劣等生になってしまったの。


私がよく行くスーパーでは「1家族1パック限定」の張り紙がしてあるのだけれど、それでも仕事帰りに立ち寄ると売り切れている事が多く、以前より気軽に手に入りにくい。もう、どうしろと言うのだ。
え?自分で産めばいいの?

そんなことを考えていたら、近ごろトイレットペーパーやキッチンペーパーもなんだか高い事に気がついた。近所のドラッグストアでは、このところ特売をやっていない。お店の人に聞いた所、入荷も少なめとのこと。
は?自分で紙すきをすればいいの?

お金という武器を手に、値札も見ずに買い物ができたら最高なのだけれど、薄給の私が欲望の魔都・東京で暮らすとなると、そういう訳にはいかない。慎ましく暮らし、なんとか人のかたちを保つのが精いっぱいだ。
それでなくとも、私は自分の楽しみに使うお金が多い。本に、ライブに、美術展に、乗馬に、旅行……。
楽しいを経験をするには案外お金がかかるものでして。

どうもねぇ、喜びを経験するってコスパが悪い気がするんですよね。

そもそも、自分自身に多少はお金をかけなきゃ、嬉しい瞬間に出会いにくい仕組み、現代社会特有の難儀なシステムだなって感じます。
お金をかけずに喜びを味わうには、ある程度恵まれた人脈・環境・才能・物事への知的好奇心が必要だなと、最近しみじみ思うのですよ。
それらを「持たざる者」として産まれた私は、自分を幸せにするにはお金がかかる体質の大人になったのだけれど、それは仕方ない事だと腹をくくっています。私が私を幸せにするために美味しい物を食べ、趣味を持ち、好きな人を応援するという生き方を選んだのですし。

欲しい人生経験を積むのにもお金は必要なのだということを、わたしは恥ずかしながら大人になって知りました。これは義務教育のうちに知っておきたかったなあ。
ったく、文部科学省は早く学習指導要領を改訂しろ。いや、してください。
私のように享楽的なパッパラパーを生み出さないためにも。




まだコートが手放せないような、肌寒い初春の頃のお話。

地方で営業している帽子屋が、期間限定で東京へやってくると知り、見に行ってみたら、美しく個性的な帽子やヘッドピースの数々に一目惚れしてしまいました。

特に素敵なのが麦わら帽子。
素材の麦が細く、細かい編み目がキラキラと輝き、小魚のうろこのように輝きを放っている。この方が製作する他の帽子も個性的で良いのだけれど、この麦わら帽子は素材の素晴らしさが段違い。素人目にも大変良い帽子だとはっきり分かる。
隣の売り場に並ぶ他の麦わら帽子と並ぶと、その違いは一目瞭然。帽子から放たれる輝きが違う!

見た瞬間、恋に落ちた。

この職人さんが作る麦わら帽子が!欲しい!

徳田、物欲大爆発。

どんな困難にも決してくじけない不屈の精神と鉄の意志を持つわたくし徳田。
さぁ、物語の始まりです。

眩しいほどの美しさを放つ麦わら帽を手に取らせてもらう。
デパートのまぶしい明かりの下、釣りあげたばかりの魚のようにチラチラと輝く麦わら。帽子の表面に極小のダイヤモンドをまいたかのような芸術的な美しさだ。

「こんなの、かぶる宝石じゃないですか……。」

帽子のあまりの見事さに思わずつぶやいてしまった。それを聞いた帽子屋の方も微笑んでくれる。

「あぁ~その表現いいですね。」

「あ、お使い頂いて構いませんよ?」

私がおどけて冗談を返すと、大笑いしてくれた。


話を伺うと、既製型の他にオーダーメイドも受け付けているそう。購入候補の帽子は写真を撮らせて頂き、一旦帰宅して心を落ち着かせる事にする。

物欲が爆発した時は、落ち着かないと判断力が鈍ってしまう。その場のテンションで本命じゃない色を選んでしまったり、余計な物まで買ってしまう事がある。それはいけない。
物欲センサーが振り切れた時こそ、心を整えようってサッカー選手の長谷部誠も言ってたし。
いや、言ってない。


だいたい、帰宅して心を整えた所で諦めがつくような物は、本当に欲しい物じゃない。家に帰って、より一層恋い焦がれるような物こそ、心から欲しい物だというのが私の信条。

今回の帽子がまさにそれ。

撮った写真や、帽子屋のホームページを眺め、どんな帽子が欲しいのか、どんな場面でかぶりたいのかを、禅問答のように自分に問う。

メンズっぽくて格好良い中折れ帽?
夏用ならカンカン帽も素敵なはず。
そう言えばウチのおじいちゃん、夏場はカンカン帽に浴衣を合わせてたな。

飾りは平織りのリボンを巻こうか?
それともレースの方が透けて涼しげだろうか。
何色にしよう?1色なんて選べないよー。

セミオーダーとはいえ、決めなきゃいけないことが多くて大変だ。
この帽子が欲しい!となると、仕事中も、お風呂に入っていても、料理をしている時でも、もうずっとこの帽子の事ばかり考えてしまう。
初めて帽子を目にしてから実際にオーダーに行くまでの数日間、どんな帽子にしようかとそればかり考えていたから、仕事中、何度もミスをしそうになって危なかった。

美しい帽子を得てお金を失うより、仕事をミスして職場での信用を失う方が怖い小心者の会社員なので、これから数十年続く私の会社員人生のためにも、帽子の事から気持ちをそらすべく、必死の形相で資料とにらめっこをする。
鬼の顔をしてデスクにしがみつくわたし。眉間に深めの縦じわが入っていたかもしれない。
将来、眉間にボトックス注射を打ちたくなる事があれば、絶対に今回の帽子の事が原因だ。全部、私の物欲を煽りまくる見事な帽子のせいだ。あぁ悩ましいわぃ。

やれやれ、こだわりが多い人って面倒なものである。いえ、わたくしの事なんですけどね。


決めなければいけない事、こだわりポイントをメモ用紙に書いているうち、だんだんと欲しい形が見えてきた。
そのメモを握りしめ、注文をするため改めて店頭へ伺う。

店の方にメモを見せ、ああだこうだと相談した所、私の欲しい物は、狙っていた素材では難しいとなり、別の素材を使ったオーダー品を注文する事になった。
オプションも含め値段を確認すると、今の私の身の丈には合わないような高級なお品代になる。素敵な物って、お値段も見合っているから素敵。エクセレント♡

それでも欲しい物は欲しいのだから仕方ない。
日用品ではあるが、芸術作品のような手作りの逸品が自分のものになるのだと思えば、見合った価格だと納得できる。

話は変わるのですが、私は身につける物を「大切にしすぎる」という感覚がどうも苦手なんですよ。
特に、服、バック、帽子、アクセサリー、手袋、ストールといった小物類。大切にしすぎるあまり飾っておくだけ、クローゼットに収められているだけというのは逆にもったいない。服やアクセサリーはとにかく身につけなければ意味が無いと考えております。


素敵なものを手に入れたくなった時、そこにはいつも一人芝居のドラマがあるので、ここでちょっとお時間を頂戴してもよろしいでしょうか。
出演私、脚本私、演出私、監督私。出資者私。
オール私による購入までのドラマ。北野武もびっくりの働きぶり。


まずは、それを欲しい気持ちと、己の財布薄さをはかりにかけてみる。
私の職業は、いつも高級品を身につけている夜職でも、まして女優やモデルでもない。日夜、一生懸命働き、慎ましく暮らす会社員である。財布は決して厚くない。

それでも生活必需品ではない物が欲しいとなれば、清水の舞台から飛び降りる覚悟を決め、自分の血と汗と涙を流して得た給料から自腹を切って購入する。

ついに憧れの物を手に入れた時、帰り道はニッコニコ。ショーウィンドウにうつる晴れ晴れとした自分の顔を見ながら、今ならマクドナルドかスターバックスで即戦力だなと思ってしまう。
買い物が私に与えてくれるパワーってすごい。贅沢は素敵だ。
帰宅後すぐ包装を解くと、いつ初めて身に付けて出かけようかとワクワクしながら家の鏡の前に立ち、服や小物とのコーディネートを考えるのも楽しい時間。

身につけた時には、出先で沢山の人に見てもらい、目が肥えた方には褒めて頂き、クリーニングやメンテナンスをしながら大切に使い、本当にダメになるその時まで身に付ける。
あるいは私の腰が曲がり、白髪になるまで使い続けたい。

そこまで使い、修復不可能になるほど痛んでしまったら、それはそこまで。

「ま、でも帽子だし。」

くらいの気楽さと、物への感謝を持ちながら、今回の帽子とは濃く長くお付き合いしたいと思う。

そこまでのストーリーがセットでこそ、真の乙女のお買い物ドラマ。これぞ乙女の生きる道。
これが、他人に買ってもらった物では決して味わえない「女の買い物」の醍醐味である。

さういふものに
わたしはなりたい
(宮沢賢治)


今回、私がオーダーする帽子は、そんな女の買い物の醍醐味を味わい、乙女の道を貫くのにふさわしい品物だ。

乙女、おとめって……。あなたいくつよ?

うん。乙女を名乗るには厳しいお年頃なのは分かってる。分かってはいるの。でもやっぱり、乙女って言わせて欲しい!

だって女性は、心ときめく物と、素敵な人の前では、いくつになっても乙女でいられるから。

不肖徳田、薄給ながら、謎の美人インスタグラマーか、夜職の美女なみに物欲を持つ「妖怪・欲まみれ」なので、早く油田とテスラの株を手に入れたい所存であります。

もう!煩悩ってなんで消えないんだろうね!早く悟りを開いて解脱者になりたいわ。

店頭で帽子を見て以来、人生初である帽子のオーダーメイドを決断するまでの約1週間。「この職人さんが作る帽子が欲しい」という欲望に取り憑かれすぎて、気疲れしてしまった。
けれども、清水の舞台から飛び降りる覚悟を決め、オーダー伝票にサインをしたら、すっきりと清々しい気分になる。もうこれで悩まなくていいのだ。

そう、支払いを済ませた事で、私の心は落ち着きを取り戻した。これでやっと、仕事に集中して取り組める気がする。
欲しいものはサッサと買って、明日も一生懸命働こう!やはり、金欠こそ万病のもとである。

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