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【映画批評】#1「胸騒ぎ」初映画批評は北欧発トンデモスリラー映画に大悶絶!

北欧発のトンデモスリラー映画「胸騒ぎ」を徹底批評!
映画批評初投稿作品はテンハッピーローズ級の大波乱だ!(競馬ネタでスマン)


鑑賞メモ

タイトル
 胸騒ぎ(95分)<原題「Speak No Evil」>

鑑賞日
 5月12日(日)
映画館
 シネマート心斎橋
事前準備
 ほぼなし、予告も観てない状態
体調
 早起きチャリ移動後、すこぶる良し


点数(100点満点)

85点

良くできた映画だが、誰しもに勧められる代物ではない


あらすじ

イタリアでの休暇中、デンマーク人夫婦のビャアンとルイーセ、娘のアウネスは、オランダ人夫婦のパトリックとカリン、その息子のアーベルと出会い、同世代の子どもを持つ者同士で意気投合する。
“お元気ですか?少し間があいてしまいましたが、我が家に遊びにきませんか?”
後日、パトリック夫婦からの招待状を受け取ったビャアンは、家族を連れて人里離れた彼らの家を訪れる。
オランダの田舎町。豊かな自然に囲まれたパトリックの家に到着し、再会を喜んだのも束の間、会話のなかで些細な誤解や違和感が生まれていき、それは段々と広がっていく。パトリックとカリンからの”おもてなし”に居心地の悪さと恐怖を覚えながらも、その好意をむげにできないビャアンとルイーセ。
善良な一家は、週末が終わるまでの辛抱だと自分たちに言い聞かせるが ——。

映画「胸騒ぎ」公式HPより引用

ネタバレなし感想&X短評

勘弁してくれ…(深い嘆息)
人生トップクラスに最悪な映画体験(褒めてます)


ネタバレあり感想&考察

マジで最悪な目に合わせるんじゃないよぉ!
(武田鉄矢風)

ネタくさい小見出しで、正直スマンかった。
初の本格映画批評でかかってるんだ。
早速本題に入ろう。
あらすじにもある通り、旅先で出会ったオランダ人家庭から招待を受け、そのお家へお邪魔させてもらう北欧のブルジョワ家庭、この構図は悪い結果になるのが容易に想像がつくし、実際そうなる。
異国間のディスコミュニケーションや慣習の違い等によるイヤな受け取りやそのこと自体に自身の感情とどううまく折り合いをつけるかなど、序盤から終盤手前にかけて畳みかけるように、概ね小さく、時に大きすぎない程度に大きく、振り幅を持たせた不愉快表現が連続する。
観客に地味ながら確実なボディブローを連続で打ってくるが、ダウンするほどでもない。それが80分ほど続く。
そこからラスト15分。急転直下、最悪の展開が訪れる。
鬼畜の所業に出るオランダ人夫婦の手際の良さと容赦なさはフィクションで良かったと思わせる反面、案外あなたの近くにいるかもしれないという本物の恐怖を見事に提示している。
見事だと思うが、マジで最悪な気分になるので、鑑賞注意は確実。
子を持つ親には絶対勧めないし、PG12とはいえ、中学生までは絶対に観ないでほしい。
決して感動するような内容ではないのに、映画館ではすすり泣く声も聴こえた。その点、覚悟が必要だ。
そういう自分はというと、観てよかった。この徹底したけったくそ悪さに作り手の潔さを感じたからだ。

ビャアンをそんなに責めないであげて
ぼくらはそんなに強くない

巷の「胸騒ぎ」評をざっとみると、被害者父役のビャアンの勇気のなさ、不甲斐なさを責める評が多い。(そういえば「ボーは恐れている」も似た評が多かったな)
だけれども、一回目の逃走未遂は妻からのお願いであって、ビャアン発ではない。ビャアンはその時点では違和感を感じながらも、まだ相手方家族とうまくやっていこうと思っているフェーズ。全然ことの重大さに気づいていなかったし、不義理を避けたい気持ちが先行するのは誰しも理解できるはずだ。
あの時点で何で逃げなかったんだ!?は、ちっとばかり酷じゃないか?その後は一定理解できるが、この映画はそんなことを問うても意味はない。
行動できるポイントがあったのに、行動できなかった不甲斐なさを強調したのは、自ら選択しない、できないことの悲哀を作り手は表現したかったのだろう。
人間必ずどこかそういった部分を抱え、模範的な民としての役割を全うし、社会に溶け込んでいる。社会規範性を重んじる北欧の国では、なおさらその気質を要求されるだろう。
だからビャアンを責めるのはやめてあげてほしい。お願いです!というよりそう思わないと彼が不憫でしょうがないんだぁ!

話を映画に戻そう。
そのビャアン一家の弱みにつけこむのが、オランダ人夫婦が演じた「本物の悪」である。

純粋悪に動機も目的もない
想像もつかないから見つかることもない
義理も人情もへったくれもない=悪は存在する

こんな身も蓋もない結論を出すのは申し訳ないが、それがこの映画の本質だ。しょうがない(←だから、この精神がダメなんだって!)、本題に戻ろう。

いやぁ、しかしこのオランダ人夫婦(本当の夫婦とのこと)、新たなシリアルキラーというよりは「本物の悪=純粋悪」の真打登場に映った
陽気で社交的だが、ひとつひとつの行動はガサツ、といった人物像は実世界でも結構あるあるではなかろうか。
こういう人物は、誰しも思い浮かぶ対象がいるはずだ。
「冷たい熱帯魚」のでんでん、「愛なき森で叫べ」の椎名桔平のようなキャラクターだ。(あの監督の作品を引き合いに出すのは気が引けるが)
明確に不純な動機を持ったキャラが圧倒的なコミュ力で気弱な登場人物たちにつけこみ、服従支配するといった構図は容易に想像しやすい。
今作は序盤~ラスト手前までは、上記2作から決定的な事象をカットした、ソフトなテイストで丁寧に積み上げられていく。
ただここまでは服従支配は表向きには行われない。しかし、ステルスに確実に服従支配は浸透している。何か悪いことが起きる予感はビンビンしているのに、何が起きるかは絶妙にわからなくされている。この80分がなかなかむず痒く、良い「タメ」になっている。
そこから最悪のラストへと弾けていく。最悪なのに爽快感も同時に覚える。が、その爽快感ものちに自身への嫌悪感へと変容する。
件のラストは、鬼畜の所業に向かうわけだが、本当にどれだけ考えてもこのオランダ人夫婦の動機がわからないのである。人身売買が目的でもなさそうだし、人んちの子をさらって、飽きたらとっかえひっかえペット感覚で飼いたい(育てたいでは決してない)ぐらいにしか思えない。
なんなら、アーベルを殺す直前ぐらいまで、アウネスに「ブッこむ」かどうかは明確に決めてなかった可能性すら感じる。あえて嫌われる行動をわざわざとったり、逃げられるポイントをいくつも用意して「ヌケ感」を演出するあたり、こいつら全然いけるわぐらいのイヤな余裕=この世に全く必要のない圧倒的な自信が読み取れる。なんならそれを楽しんでいるようにも映る。
そして表向きの目的である、子どもをさらって自分たちのものにする、を遂行したあとの手際の良さとあの淡々とした感じ。この間、必要なこと(要は死ぬ準備しとけや)以外は全く喋らない。
待てと!ほしたら原題のSpeak No Evil(=悪口は言うな)やなくて、Evil No Speak(=悪は語らない)やないかと。これこそが一番の恐怖だと思った。
車のヘッドライトを浴びながら、ビャアン夫婦が服を脱がされるシーン、個人的にあれが一番最悪だった。(しかも無修正)
完全に生きる気力を奪われ、茫然自失、思考停止し、屈辱を感じる余力もなく、殺されることをあっさり受け入れるさまを観るのはいくらフィクションでも十分すぎるぐらいキツい体験だった。演技を超えた観てはいけない一瞬を観てしまった感覚。
その後の投石ももちろん最悪なんだけど。笑(←いやほんと笑えないって!)


まとめ

とにかく、悪はこの世に存在するぞっ!というのが本作のメインメッセージとしか思えない。
社会規範や法や倫理なんぞ、あっさりひとまたぎする「悪」というのは必ず存在する。
これは戦争・略奪の歴史が長年続いた西洋に通底するマインドセットなのだろう。特に北欧ならなおさらだ。海に囲まれ、侵略・宗教伝播が良くも悪くも制約され、農耕ムラ社会の時代が比較的長かった日本では、真に理解するのは難しい。普段目にしなくても、こんな人間がいるかもしれないと思う事前の心構えが必要なのかもしれません。
こんな悪に目をつけられたら最後。ビャアン家のような普通の人々はひれ伏すしかない。

ひとまたぎしていいのは甲子園のライトスタンドだけだ!

阪神タイガース 金本知憲選手 初代ヒッティングマーチ

「ハッチング-孵化-」「イノセンツ」「枯れ葉」「胸騒ぎ」と良作・話題作だけ輸入されているのは理解しても、このところの北欧映画はすさまじい。能動的な作り手の社会批判が存分に含まれている印象だ。
北欧=幸福度ランキング上位常連のイメージだが、風景は無機質だし、足るを知るが徹底されているイメージで実はそんなに幸福じゃないんじゃないか、そう思わされているだけなのでは、と感じるぐらい、攻撃的な映画が続いている。
イチ国民が社会や政府に文句垂れられる日本の環境って、実は自由で幸福なんじゃないかと逆説的に感じてしまった。


最後に

「悪は存在しない」が公開されている裏で、そのタイトルに反するメッセージを込めた力作がこの「胸騒ぎ」。
ますます「悪は存在しない」を観たくなった。また一つ、楽しみが増えた。
映画批評は簡単な内容にする投稿方針だったけど、長くなってしまったな。
初回サービスということで、次回はここまで期待しないでください。笑
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ご拝読、ありがとうございました。

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