【映画批評】#32「憐れみの3章」どう思えと?(ニンマリ)
「女王陛下のお気に入り」「哀れなるものたち」に続いてヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組み、愛と支配をめぐる3つの物語で構成したアンソロジー「憐れみの3章」を徹底批評!
デタラメな人物たちのデタラメな話3連発!!なのになぜか彼らに親しみを感じてしまう不思議。
鑑賞メモ
タイトル
憐れみの3章(165分)
鑑賞日
10月12日(土)9:45
映画館
TOHOシネマズ セブンパーク天美(松原)
鑑賞料金
実質0円(ムビチケエポスポイント購入)
事前準備
予告視聴
体調
すこぶる良し
点数(100点満点)& X短評
80点
あらすじ
「憐れみの3章」公式HP
https://www.searchlightpictures.jp/movies/kindsofkindness
ネタバレあり感想&考察
邦題がよくない
自分が邦題をつけるなら…
わけわかんないけど、面白かった。楽しい!
ただ「憐れみの3章」という邦題はカッコいいし、「哀れなるものたち」と連関してて気が利いてるのは認めるけど、ちょっとエラそうなんだよな。
憐れむような俯瞰した視点で観ちゃうと遠い話に感じたり、自分事として受け入れにくくなりやすい気がしてちょっと良くない。カッコいいけどね。
原題は「KINDS OF KINDNESS」。
訳すと、やさしさの種類、ある種のやさしさ、多様なやさしさ…だろうか。自分がタイトルをつけるなら「この世には色々なやさしさがあって…」みたいなタイトルにすると思う。常人では理解しがたい"やさしさ"が必要な人もいるんだよってのが伝わりやすいと思うんだけど、どうでしょう?
本作は突き放した目線もあるけど、こっちの目線も感じる。だから憐れむような態度をハナから促す感じはねぇ、ちょっと受け入れがたい。
後述するが、本作は支配⇔被支配をおもしろおかしく可視化した一例だと考えている。(三例かw)
あくまで支配⇔服従ではない。人間だれしも支配と被支配なくして、生きていけないと考えているからだ。ただ服従にしてしまうとそこに歪さが出る。本作の登場人物たちの関係性は歪だが、極端な例であって普遍性を含んでいる。作り手・観客を含む我々の話だから、憐れむ感覚はやっぱり良くない。これはのちほど考察したい。
※毎度申し訳ないが、考察というレベルのものを出せている感覚はないw
すいやせん
本作自体は本当にトリッキーな構成。
第1章「R.M.F.の死」
第2章「R.M.F.は飛ぶ」
第3章「R.M.F.サンドウィッチを食べる」
それぞれ、話も登場人物も個別の物語なんだけどメインどころを演じる役者陣は全章同じという混乱しやすい座組ではある。
一番混乱するのはタイトルにあるR.M.F.という謎のおっさん。全章同じ名前、同じ役者で出てくるのでややこしい。しかも1章で死ぬし、3章では蘇るし!このおっさんのせいで、絶妙につながっているのかつながっていないのか、わからないまま映画が終わるので困惑した。
観てない人は何書いてるかよくわからないと思うが、ホントにこんな感じである。監督自身は特に意味を持たせず作っているのだろうけど、意味を探してしまう感じ。だから細かい事象についての考察は必要なさそう。なんかやるだけ野暮になる。ただ3章通じてのテーマはある。そこを重点的に振り返りたい。
支配と被支配の話を3つ
エクストリームすぎて笑っちゃう
1章はジェシープレモンス演じるエリートサラリーマン然とした男が会社のお偉いさんに私生活含めた何から何まで細かく指示を受け、それに従って生きてきたけど…という話。
どんな人生やねん!って話なんだが、話が進めば進むほどどんだけ異常な支配を受けているのかが明らかになっていく。車でR.M.F.なるおっさんを轢き殺すことを命じられ、初めて反旗を翻す。するとウィレム・デフォー演じる会社のお偉いさんがかまわんよってことで、ジェシープレモンスを突き放し自由を与えたものの、ジェシーは生きる指針を奪われたかがごとく、無気力になり、またお偉いさんとの関係を求めるようになり、ある行動を起こしてラスト。
これは結構わかりやすい話で、個人的にはこの男が教育虐待を受け、目線だけが上がってしまったマジメな男の子のような存在に映った。仕事も勉強もそうだが、それだけしていればいいと言われ、その他のことを全て他人がしてくれたり、教えてくれるような環境って実は生きる力を奪われてるんですよね。
この手厚い施しを受け続けることは外側からみるとよく映るけど、実態はそうでもないってのがよくわかって面白い。明らかに普通の感覚ではイヤなことも多く含まれる関係性なので、羨ましくないのは当然なのだが、外から見たらそれはわからない。だから成功者を羨ましがるのって本当にムダな情動なんですよね。ハッキリ言ってどうでもいい。成功者だって結構めんどくさいことも多いと思う。しょうもない逆恨みも買いやすいし。
通俗的な成功をするにしても、こんな自由を奪われてでもしたいか?と考えたときに、案外こういう人間はいるよっていうのが人間の不思議なところ。自分はカネもらってもイヤだけど。
ここまでの例はともかく、こういう他人から指針を与えられないとどう生きたらいいかわからない人って結構いる。いいとこの子に多いイメージ。自分のような実家シャー芯勢(細い×折れやすい)からしたら羨ましくもあり、哀れにも思える。本当に身の回りのこともろくにできない実家太いやつ結構いるんで。笑
常に世間や社会からどう思われるかをものさしにして生きているとどっかでパンクするので気をつけましょう。ただそれが幸せな人もいるので、非難してもいけない。自分も含めてですが、世間はそんなにあなたに興味ないです。自分はテキトーに生きます。みんなどうせ死ぬんで。
2章は過剰な支配による被支配側の行きつく先を描いている。
ジェシープレモンスが支配的な夫、エマストーンが彼に服従する妻。
長期の不在期間から帰還した妻が変わってしまい、偽物ではないかと疑心暗鬼になった夫による妻への支配と要求がエスカレートしていく様子を描く。
これは1章と明らかに違うのは支配側が被支配側に対して、①被支配側(相手)のためにやっているか、②支配側(自分)のためにやっているか、である。今回のケースは②である。言いがかりとしか言いようのない夫のふるまいと要求であったが、献身が目的になっている妻は全ての要求を飲み、死ぬことになる。
結果を言うと「お前の肝臓を取り出して俺に食わせろ」という要求を飲んで、本当に肝臓を取り出して妻は死んでしまうが、その後ろで同タイミングで同じエマストーンの見た目をした新しい女性と夫が家に入っていくところで終わる。
どうしようもないやつの支配に応えた行きつく先は【破滅】あるいは【死】であることを可視化しただけで、この章が実はシンプルで一番わかりやすいと思う。最後に出てきたエマストーンはなに!?ってなって戸惑うのはわかるが、これはあくまで抽象表現。見た目は関係ない。
こういう勝手な野郎は罪の意識なんてないから同じことを繰り返す。死んだエマストーン妻ではなく、代わりの女がまた現れるだけだよってことを表している。ただこのエマストーン妻もしたくてやっていることだから否定しているようにも映らない。2章が実は作り手のやさしさを感じられたという捉え方も可能だ。筆者はそう受け取った。あなたの犬になりますってことで、犬ちゃんたちによって構成される世界をエンドロールに持ってきたのも爆笑ポイント。
3章は謎のカルト宗教にのめり込んだエマストーンが教祖に代わる超能力の持ち主を探して奔走する物語。その超能力は死んだ人を蘇らせる能力である。家庭を捨ててカルト宗教に入信したものの、娘へ誕生日プレゼントを買って家に置いて帰ったり、完全にはカルトにのめり込んでいない様子もうかがえた。しかし、現在別居中の夫にレイプされたことでカルトから「不純だ」ということでカルトから追い出され、狼狽える。
抜け出したい様子も見せていた彼女が追い出されると狼狽える様子は、不思議ながらも何となく理解できるような気がした。普段は良い印象を持っていない相手や環境であっても、受け入れられない事実を突きつけられると人間はダメージを負うものだという教訓を感じた。
能力者の捜索をメインに話が進んでいくが、その能力者もなんか条件が付けられていて、女性の双子で片方が能力ありでもう片方が亡くなっていることが条件だったと思う。そんな都合のいい奴おるか!って話なんだけど、うちの双子の姉が多分そうだよーとか言って近づいてきた女の子から、その姉の存在を知り、てんやわんやあって動物病院にいるその双子の姉を誘拐し、死体を生き返らせる超能力を確認。
ここで歓喜の舞い!笑
スポーツカーで爆走し、カルト宗教の拠点に戻る道中に事故ってその能力者だけ死んじゃったという何ともなラストで終了。
その後生き返ったR.M.F.が飲食店でサンドウィッチを食べるんだけど、ケチャップがシャツに飛び散ってしまう。それを見た店員がハンカチを渡しR.M.F.がそれを拭くんだけど、ケチャップの汚れを拡げるだけというところで映画が終わる。
なんかこの良かれと思ってやってるのに、全然良い方に作用していかないことをこういうくだらないことで示唆して終わるってなかなか意地悪だけど、洒落てるなぁとも思ったり。あー人間してるなぁって感じの着地でめちゃくちゃ気持ちよかった。どう思ってどう解釈したらいいかわからないし、正解もないけど、観て気持ちいい!となる不思議な魅力にあふれた映画だった。
この章は本当に人間、人生のくだらなさが詰まっていた。ストレートに物語だったなと思ったから、観て楽しめばいいと思う。新興宗教と信者というわかりやすい支配⇔被支配だったし、それにわかりやすく翻弄されるさまもバカバカしくて好き。こういうコメディは本人たちがいたってマジメだとなおさら映える。ここらへんの塩梅はベストだった。秘孔を突かれているような感覚に陥る。
ヨルゴス・ランティモス監督、「哀れなるものたち」で初めてその沼の魅力に憑りつかれたけど、これはもうやめられませんな。
次作も過去作も全部観たいと思います。面白かった!!
まとめ
オープニングにかかるこの曲「Sweet Dreams」もカッコいいかったです。
全然知らなかったんですけど、名曲らしいですね。通勤時にめちゃくちゃ聴いてます!歩が進むゴキゲンなナンバーですな!
最後に
最近の大阪の良い居酒屋を教えてくれる優良チャンネル。
激おススメです!大阪住んでる人も来る人も参考になると思います。
隣人とももにはぜひM-1決勝に行っていただきたい!
※隣人のKOC決勝面白かったよ!!