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【映画批評】#12「密輸1970」70's海女ケイパー直情派

リュ・スンワン監督最新作「密輸1970」を徹底批評!
海女が密輸の下請けに!?
海底に眠る金品強奪をめぐるだまし合い、化かし合い、出し抜き合いの群像劇は巨大サメまで巻き込む大スペクタクル。


鑑賞メモ

タイトル
 密輸1970(129分)

鑑賞日
 7月14日(日)8:10
映画館
 なんばパークスシネマ(なんば)
鑑賞料金
 1,400円(パークスシネマメンバーズ次回割引クーポン)
事前準備
 TBSラジオ「たまむすび」町山智浩氏の映画紹介視聴
体調
 自転車移動→立ちそば食後、すこぶる良し


点数(100点満点)& X短評

85点

田舎の海女、半グレ、税関職員と密輸王が織りなすイケイケ犯罪群像劇。
70'sの韓国歌謡を爆音で終始楽しめるゴキゲンなケイパーもの。楽しすぎるぐらい、楽しい!


あらすじ

1970年代半ば、韓国の漁村クンチョン。海が化学工場の廃棄物で汚され、地元の海女さんチームが失職の危機に直面する。
リーダーのジンスクは仲間の生活を守るため、海底から密輸品を引き上げる仕事を請け負うことに。
ところが作業中に税関の摘発に遭い、ジンスクは刑務所送りとなり、彼女の親友チュンジャだけが現場から逃亡した。
その2年後、ソウルからクンチョンに舞い戻ってきたチュンジャは、出所したジンスクに新たな密輸のもうけ話を持ちかけるが、ジンスクはチュンジャへの不信感を拭えない。
密輸王クォン、チンピラのドリ、税関のジャンチュンの思惑が絡むなか、苦境に陥った海女さんチームは人生の再起を懸けた大勝負に身を投じていくのだった……。

「密輸1970」HPより引用

ネタバレあり感想&考察

黄金を抱いて翔べ!?いや、潜れ!
オモシロ海女ケイパー映画爆誕!

いやぁ~面白かった!楽しかった!直情的に楽しめ!それだけだ!
リュ・スンワンだし間違いないだろうとは思っていたが、想像以上の楽しさだった。

正直言って娯楽作として指摘することがないぐらい、まごうことなき痛快娯楽作である。自分にとって韓国映画の痛快娯楽作は「エクストリームジョブ」が圧倒的だが、それに匹敵するレベルの作品だと思う。アホさがちょっと足りないだけで、娯楽作としての出来はトップレベル。

こういう強盗や盗みのジャンルを【ケイパーもの】というらしい。
代表的なところでいうと、「現金に体を張れ」や「俺たちに明日はない」だ。個人的にこのジャンルで一番好きな映画はベン・スティラー主演の「ペントハウス」。(おそらく史上最も豪快な強盗が観れます)
邦画ではなかなか作られないジャンルで近年では2012年公開の「黄金を抱いて翔べ」が思い出される。(うちの近所がロケ地!)
格差の煽りを受ける善良な小市民が富める者からカネを奪う。
わかりやすく痛快で楽しいジャンルなのは間違いない。

本作は急速な工業化による環境破壊で、本業に大打撃を受け困窮した海女さんが密輸に巻き込まれながらも富の再分配を自ら仕掛けるリベンジ映画だ。
詳細は省くが、ラストは海女さんグループ、地元の反社グループ、密輸王グループ、税関(国家権力)、サメ、の五つ巴の海中ハードコアイリミネーションマッチが繰り広げられる。
道中サメ以外の四つ巴で展開される、だまし合い、化かし合い、出し抜き合いは笑うポイントも用意しながらかなり秀逸。税関係長の腐敗具合がめちゃくちゃムカつく仕様なのも超良い。
反社と密輸王の抗争は、狭い舞台設定を活かした本格アクションで、ラストまでの見どころも確実に用意されており、非常に丁寧に作られている。

ラストの海中アクションはそれまでほぼ一方的に虐げられてきた海女さんたちの活躍をより引き立たせている。結構この状況詰んでないか?と思いながら観ていたので、ラストの海中アクションは本当に痛快であった。客演のサメちゃんも素晴らしい。
大枠のお話の作りとしては順当すぎるぐらい順当なのに、痛快さを際立たせるための工夫に抜かりがない、映画としての強度が圧倒的に強い一作。

韓国版「黄金を抱いて翔べ」ならぬ「黄金を抱いて潜れ」(アクションもあるよ!)の爆誕だ。もう間違いないので、観に行ってください。

最高の夏休み映画です!

登場人物全員切れ者
ギャグ先行でも緊張感は持続する

本作はケイパー(金品強奪)ものの魅力が一番だが、道中の会話劇も十分に魅力ある作品だ。

キム・ヘス氏はサイコーである

特にダブル主演のうちのひとり、キム・ヘスはMVPといっていいだろう。
韓国を代表する美人女優なのに、ミラクルひかるがやる誇張した浅野温子モノマネみたいな一見アホでケバいキャラを演じている。

もちろんそれは、作品内でそういうキャラを演じて油断させる切れ者であることはわかるが、実に面白い演技であった。あとで気づいたが「国家が破産する日」のあの人!?となったぐらいギャップがあった。やっぱり役者はすごい。こういう演技幅の広さは本人のパーソナリティを知る機会が少ない分、韓国の俳優の方がそれを感じやすい。韓国映画の魅力の一つだ。

前段で四つ巴のだまし合い、化かし合い、出し抜き合いが秀逸と書いたが、これは役者陣の演技合戦によるノリの良い会話劇があってこそだ。

コ・ミンシの活躍光る

海女さんたちを圧倒的なベビー本隊チームとして率いたヨン・ジョンア
ボンクラ要素は残しつつ粗暴な半グレと化す弟のパク・ジョンミン
マジで憎たらしい腐敗した国家権力の象徴、税関係長のキム・ジョンス
ベトナム帰還兵、文字通り最強の密輸王、チョ・インソン(手下の眼帯男もナイス!)、
ハニトラ上等で半グレ、税関両方から情報を聞き出すコ・ミンシ
こうやって文字に起こすだけでも楽しいぐらい、役者陣のアンサンブルが凄まじい。

脇を固めた役者陣含め、コマ使いされているキャラが一人もいない素晴らしいキャスティングだ。(ルックバックくん、聞いてる?)

このだまし合い、化かし合い、出し抜き合いはギャグ要素ややりとりの軽さもあって楽しく進む。しかし、都度その発覚によって引き起こされる暴力が空気を締め、真実がうまく隠されているので、不思議と緊張感が持続する仕組みとなっている。このあたりからもストーリー構築と脚本がものすごく練られていることがうかがえる。

「YOLO 百元の恋」に続き、本当に隙のないエンタメ映画でした。
重ね重ね観に行ってください!

アナログで粗野な70年代描写と
多用される歌謡曲にある日本人監督を連想する

ここからは完全に余談。勝手な推察をする。
1970とタイトルにあるように70年代の雰囲気を的確に描写しており、エモさを増幅させている。ファッションや振る舞い、現代と比較して明らかに粗野な雰囲気、当時のアナログな製品、置物などもこの映画の補強材料。そして終始、徹底して歌謡曲を挟み込むスタイルはリュ監督の過去作イメージから想像しにくく、また新たな一面をみれた気がして嬉しかった。

過去の描写と歌謡曲の多用、この雰囲気どっかで観た気がしないだろうか?
そう、それこそ「黄金を抱いて翔べ」の井筒和幸監督の作品たちだ。

昭和の粗野な日本社会を描いた「パッチギ」「無頼」、歌謡曲を印象的に使用した「岸和田少年愚連隊」「ヒーローショー」など、井筒監督の要素を多分に感じられる演出が詰め込まれてるのが本作。おそらくたまたまだと思うが、リュ・スンワンから井筒監督みを覚えるとはかなり意外だった。

観たのは硬派な「ベルリンファイル」と、エンタメに徹した「ベテラン」、今回「密輸1970」で引き出しが大幅に増えた印象。リュ・スンワン監督、割と本気で映画監督として完成の域に達しているなと。
しかも井筒監督と違ってハズレはない。笑
※井筒監督は当たりはドデカいゾ!

本作で2回かかる印象的な歌謡曲「身を寄せるところはどこかわからないけれど」は今年お気に入りの曲になった。もう何回も聴いている。(英題は「Even If I Don't Know Where You Are」)
韓国映画について「身を寄せるところはリュ・スンワン」に決まりでしょう!

とにかく観て!!!オモロイから!!!これマジ!!!


まとめ

2024年の映画たち、引き続き好調です。
(「ルックバック」はなかったことにしますw)

「YOLO百元の恋」→「ルックバック」→「密輸1970」という順番で観ましたが、本当に物語の登場人物全員にちゃんと命が吹き込まれているというのは大事なことだと改めて気づけた気がします。

これは人間が演じているから、アニメだからということではなく、制作側が架空とはいえひとつひとつの作品の登場人物をお話に合わせて都合よく使うことなく、愛を持って設定されているかというのは自分にとって重要な要素だと思いました。この3作の中では「ルックバック」は決定的にそれが欠けていると思います。これについては絶対に譲れないなというポリシーみたいなものに気づかされました。

以降もこの視点を大事に批評を続けていきたいと思います。


最後に

「ベイビーわるきゅーれ」シリーズ、「最強殺し屋伝説国岡」でおなじみ阪元監督が本作を激賞しています。本当にこういう映画を観るために映画館に行っているというのは完全同意です。阪元監督のファンは押さえておくべき一本かも!

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ご拝読、ありがとうございました。


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