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中国語の船内アナウンスが気になって中国留学してみた。

ある日私はとある船内で聞いた中国語のアナウンスが猛烈に気になった。
気になったものの理解できず、結局気にし続けること一年。
中国語ができる人にニュアンスで聞いても当然伝わらず。
だったらもう中国に留学して自分で聞き取れるようになれば良い、と
中国に留学することにした。


皆さんは中国語に対してどのようなイメージをお持ちだろうか。
独特の発音と抑揚感を持つあの言語。
数多くの芸人さんがお笑いネタの中で真似したり
時として私も真似したり。

一体なにがどうなってあのような発音になるのか
舌の動きはどうなっているのだろうか。

気になる。

何より中国語を話している中国人を見ていると
なぜ常に喧嘩腰で怒っているように見えるのか。

気になる。

話していて疲れはしないのだろうか。
中国人は一体なんて言っているのであろうか。
全力で

「今日はいい天気だわよ!!!!!!!!」


とでも言っているのだろうか。
それともやはり喧嘩腰で

「うっせぇんだよ、くそババァ!!!!」

とでも言っているのだろうか。
やっぱり

気になる。

ただ
気にはなるけど
中国語を勉強するなら
英語を勉強したい。
そう思って私は生きていた。

しかし
私はいよいよ寝ても覚めても中国語にまみれる日を迎えることになった。
世界一周のスタートの地を中国にしたのである。

日本の神戸港から中国の上海まで「新鑑真号」という船に乗り
2泊3日の船旅から私の世界一周はスタート。

中国語が飛び交う船内。
日本人はゴクわずかで、ほとんどの乗客が中国人。
私は4人部屋で、他の3人全員日本語が話せない中国人女性。
窓の向こうは神戸港。
ガッツリ日本語圏なのに
なぜか私は今、中国語圏にいる。


そしていよいよ感動の出航!!

したのも束の間。

暇である。
これから2泊3日
とにかく暇である。
暇なのでとりあえず自分のベッドでしばしぼーっとしてみる。
やはり暇である。
あまりに暇すぎて
どこか船内探検でもしようかと思っていた時
突然船内アナウンスが中国語で流れた。

その時、私の中で突然ビリビリっと何かが走った。
でもそのビリビリが何だったのかわからず、しばし放心。
そしてその後に英語、日本語でアナウンスが続く。

それからしばらくするとまた船内アナウンス。
その時も先ほどと同じように中国語のアナウンスの時だけ
ビリビリっと何かを感じる。

何なのかさっぱり分からぬまま、一日過ごし
翌朝、目覚ましがわりの謎の爆音曲と共に船内アナウンスが流れる。
それを寝ぼけながら聞いて思った。

「あぁ、中国語、いい」

・・・・?
私は中国語の美しさに衝撃を受けたのか?
今まで何度も中国語を聞いてきた。
しかし一度も感動したことはない。
現に今も目の前で中国人たちが中国語を
寝起きすぐにものすごい気合いと剣幕で喋っているが
やはり彼らの中国語に感動はない。
のに
中国語の船内アナウンスだけがビビッとくる。

それから何度かアナウンスを聞いてみると
どうやら冒頭の一言目がとても気になる。
その部分、他の言語のアナウンスだと

「Ladies and Gentlemen」
「ご乗船のお客さま」

誰かに確認したいが
アナウンスが流れるタイミングで聞ける人がいない。

気になる。
ものすんごく気になる。

結局その謎は解明することができぬまま2泊3日の船旅は終わり
上海へとたどり着いた。

そして中国入国して驚く。
今度は中国がものすごく気になる。
世界一周出発直前まで
特別中国に興味はなかったのに
中国本土に一歩足を踏み入れた瞬間から
私は中国のあれやこれやに圧倒され
何から何まで気になっていた。

「あの漢字は何て読むんだ?」

「烏龍茶はなんて発音するんだ?」

「あの人が食べてるのは何だ?」

「初対面同士でも、なぜ知り合いのように喋ってるんだ?」


気になる。

何もかもが気になる。

それから約一年間
世界各国周ったが
その間ずっと中国のことが気になっていた。
もちろんあの船内アナウンスも。

旅の途中、英語が話せる中国人に
「Ladies and Gentlemen」
とは中国語で何というのか質問するも
私の好きな「あの」フレーズではない。

中国の全てが気になりすぎた私は
世界一周を終え
南米チリから帰国の途につくときも
日本上空を通過し
まさかの中国上海に戻り
再び中国を割とガッツリ旅をしてから
「新鑑真号」にて大阪まで帰国した。

お久しぶりの船。
約一年ぶりに聞くアナウンス。

「そうそうそうそう、これこれこれこれ!!!」

でも
なんて言ってんのかワカラナイ。
その船でもその謎を解明することはできなかった。

しかし。
私はその時既に決意していた。
この船内アナウンスが聞き取れるようになるため
中国へ語学留学に行くことを。

新鑑真号の船内アナウンスのみならず
世界一周スタート時に中国を2ヶ月ほど旅をして
すっかり中国と中国人と中国語に魅了された私。
日本で抱いていた中国へのイメージと
実際の中国のギャップにガッツリ心掴まれ
今まで私は65カ国旅をしてきたが
ぶっちぎり一番大好きな国となった。

そして私は世界一周後にオーストラリアで一年間ワーホリする予定を大幅に変え
中国語学留学のためにオーストラリアへ3ヶ月だけ出稼ぎに行き
できる限りの資金を調達し
そそくさと帰国し
3度目の新鑑真号に揺られ
船内アナウンスに魅了され
次この船に乗るときは絶対理解してやる!!
と超絶気合い満々点で
上海の大学に入学したのである。

と、簡単に大学に入学できた感満載で書いているが
中国入国してから大学入学するまでの1週間
私は公安(警察)と大学と入国管理局を
永遠にたらい回しにされた。
なぜならば
99.9999%の留学生が
入国前に中国で住む家
ないしは大学の学生寮をきちんと契約して入国している。

当然である。
当然なのか?

当然か分からないが
私も一応、出国前に中国での家を見つけていた。
しかし
出発3日前に
いきなりの
ドタキャン。。
これは中国不動産あるある。

よって、致し方なく家なしのまま入国し
ホテル生活を送りながら大学へ手続きに行くも
家がないと学生ビザがおりません、とな。。
そしてチラッと私のパスポートの中国入国スタンプをみた大学職員は

「家なしで留学に来た人、あなたが初めてだけど
船で中国に来た人も初めて見たわ」

と大学職員一同爆笑。

笑っていただけて光栄です。
以前、中国からベトナムに陸路越えする時も
私の入国スタンプを見た出国手続きの中国人職員に
「船女」と言われ爆笑されたので
再びこんなにも笑っていただけて嬉しい限り。

そんなことより
ビザ取得。
たらい回しの日々が続く。
私はその度に中国語がわからず
イライラする
かと思いきや
中国語が話せるようになりたくてなりたくて
うずうず
テンション上がる。

そして1週間かけて
さまざまな奇跡を巻き起こし
無事に家を見つけ
無事に学生ビザもゲットし
無事に大学への入学許可がおりたのである。
入学の前日に。

ちなみに
私以外のクラスメイトは
大学の学生寮か
通学20分圏内の家に住んでいた。

私が奇跡的に見つけた家は
大学から1時間ほどの
地元中国人しか住んでいない
どローカルにもほどがある
広大な敷地の
団地。
見渡す限り
お年寄りオンリー。

言うまでもなく
そんなところに住んでいる留学生はおらず
クラスメイトに失笑されたわけだが
「近い」「遠い」
という表現を学ぶときの例文で
必ず私の家を「遠い家」として用いられたので
大いに役立てて何よりである。

大学に入学してから
毎日中国語を学べる日々が
ただただ楽しくて楽しくて
一日も早く中国語を話せるようになりたくて
船内アナウンスを聞き取れるようになりたくて
学校後には用もないのに店や銀行などに行き
中国人警備員のおじさんや
可愛いお姉さんなどに話しかけまくっては
通じたー!!と感動する日々。

こうして毎日大満足の日々を過ごし
大学入学して5ヶ月が経った頃
突如、運命の時は訪れた。

いつも通り学校へ行き
授業で教科書の旅行シーンでの会話のやり取りを先生が読んでくれた時のこと。

「各位旅客」

!!??

「今なんつった!?」と先生に質問。

先生が「各位旅客、、のこと?どうかした?」と。


キターーーーーーーーーー!!!!!!!

コレダーーーーーーーーー!!!!!!!


初めて船内アナウンス聞いてから1年8ヶ月。。。
この一言が知りたいがために私は中国へ来たのだ。
やっっっっっと謎が解けた。

おめでとう。
ありがとう。

「各位旅客」と先生が言っただけで突然大興奮する生徒一名。
一人で興奮する私を「またアイツだ」という顔で
ポカーンと口を開けて見ているクラスメイトと先生。
私のこの熱い想いをぜひとも皆に伝えたく
喜びの理由を説明。
すると先生に

「船で中国入国した留学生を初めて聞いたけど、そんな目的で留学しに来た人も初めて聞いた」

と言われ、クラス大爆笑。
一体、新鑑真号という船はどれだけ笑われるのだろうか。

しかし
そんなことよりも
私は興奮大絶頂で授業中ずっと

「各位旅客、、、各位旅客、、」

と呟いていた。

因みに
こちら
日本語で訳しますと
新鑑真号の日本語アナウンスとほぼ同じ

「ご乗客の皆様」

です。
ただそれだけです。
ただこれだけの一言を理解したくて
遥々留学いたしました。

この一言に出会ってなければ
中国語が気になることはなかった。
この一言に出会えたからこそ
私は中国語を勉強し
中国を大好きになれた。

人生どこにきっかけがあるのかわからない。
どこかに転がるきっかけをこれからも見逃さずに生きていきたい。


しかし
すごい剣幕と気合いで喋っている巷の中国人の会話の内容は
まさかの


「今日もいい天気だぁね!!!あんたどこの人!?飯食ったの!!?」





「こんんのくっそババァ、2度と来んなよ!!!」


だったので
これは中国語を学んでなくても
想像と大概合っていたので
わざわざ中国語を学んだ意味はない。



中国留学で
最大限に得たものは
超絶人見知りの私が
その中国人たちの会話になんのためらいもなく
参加する「度胸」がついたことである。

「今日いい天気だね!あんたどっから来たの!?」

「日本だよ!おばちゃんは?お腹すいたね!!」

「おお!日本人か!お腹すいたならこれ食べな!うまいよ!!!」



あぁ、中国、最高。



#やってみた大賞  

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