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勇者と魔王と聖女は生きたい【14】|連載小説

僕とマオが旅に必要な必需品を買い揃えた頃には、もうすっかり日が暮れていた。
薄暗くなり、少しずつ光の魔素を使った街灯の光が灯る。いつもなら人がまだらになってもおかしくない時間帯だったが、一向に人が減る様子がない。
魔王討伐を祝ったお祭り騒ぎは、まだまだ終わりそうになかった。

「遅くなっちゃったね」

「うむ。思った以上に人がいるのう」

途中で買った、犬耳の形に見える帽子をかぶったマオが、りんご飴を舐めながら頷いた。
買うものが多かったのもあるが、人が多くて思うように進めないのも、遅くなった理由の一つだ。ようやくたどり着いた宿屋に入ると、カウンターにも厨房にも人の姿がなかった。みんな、外に出ているようだった。

「屋台の食べ物を買ってきて正解だったな」

「そうだけど……りんご飴は違うと思う」

「何を言う。ミーティアはきっと喜ぶぞ」

「そうかなぁ」

未開封のりんご飴を片手に、マオが階段を上っていく。僕はその後ろを、大きなリュックを背負って付いて行った。

「ミーティア、お土産を買ってきてやったぞ!」

「ただいま、すごい人だったからミーティアは待っていて正解だったよ」

階段を上ってすぐの部屋の扉を開く。
そこで待っているはずのミーティアに声を掛けながら、部屋の中に入った。

「……ミーティア?」

けども、どこにも彼女の姿はなかった。
争った形跡もなく、ただ彼女だけが忽然と消えてしまった。




ウィル様とマオ様を見送ってから少しして。
私は、黒装束の男たちに手で口を塞がれ、ナイフを向けられ、従うように脅されて宿屋から連れ出された。
今は、街の外れの地面に座らされている。何もできない無力な少女と思われたらしく、縛られたりはされなかった。

「いつも通り、すぐに殺さないのか?」

「ああ、彼女はとある御方が直接手を下さないといけないらしく、教会に連れて戻るよう指令が下っている」

「珍しいな」

「ああ、だが俺たちは責務を全うするだけだ」

黒装束の男が3人で、話し合っているのが聞こえる。

「今回の指令が終われば、俺たちを"人間"に戻してくれるんだ」

私からは、"人間に見える"のに。
おかしなことを言う彼らに笑えて、心に余裕が生まれた。
それに、マオ様の殺意に比べたら、今の状況なんてかわいいものな気がして、体が動いた。

「あ?」

立ち上がり、街の光に向かって駆け出す。
口は塞がれなかったのは、幸いだったのかもしれない。マオ様に貰った犬の形を模した笛を口に加えた。

息を大きく吸って、吐き出す。

「…………?」

音が、ならなかった。

「きゃ!」

背中に大きな衝撃があり、地面に倒れ伏した。
そして、背中に重い何かが乗って押さえつけてくる。

「おい、何、逃してんだ」

「わ、悪い……」

もう一人、黒装束の男がいたらしい。私を踏みつけて、他の三人の男たちに文句を言っている。それから何かを話しているが、私の頭には入ってこなかった。

どうして。

どうして笛が鳴らないのだろう。ちゃんと私は息を吐いたのに。
最悪な考えが頭に浮かび、血の気が引いた。
マオ様に、音が鳴らない笛を渡された?

「さっさと連れて行くぞ」

「痛っ」

腕を強く掴まれ、無理矢理立たされる。
ああ、またあの死を待つだけの教会に戻るのか。いや、死を待つだけの教会ではない。教会に着いたらすぐさま殺されるのだろう。
今度は逃げ出さないように縛るため、縄を持った男が近づいてくるのをぼんやりと見上げる。

「…………」

……死にたくない。

自分が殺されることが女神の預言で分かってから、ずっとそう願っていた。

けれど、それは私が殺される日が近づいて来たころには失くなっていた。

本当はもう諦めていた。
殺されることを受け入れていた。
せめて痛くしないで欲しいな、なんて考えてもいた。

そんな私の目の前に、私が死の預言を詠んだ、勇者様と魔王様が現れた。
こんなことってある?
最初は頭が真っ白になった。けれど、その白から光が見えた気がした。

ニンマリと太々しく笑う魔王様。
暗いお顔をしているけれど、何とか笑顔を見せる勇者様。

私も。

魔王様と勇者様に向かって、手を伸ばした。
諦めていた願いが、また蘇る。

私も、彼らと同じように……。

「っ……たく、ない」

「あ?」

「死にたくない!私は、死にたくない!」

掴まれていない方の手で、笛を口に持って行く。
何度も、何度も何度も、鳴らない笛に息を吹きかけた。

「おい、いい加減に……」

「うるさいのぅ」

唐突に、場違いな少女の声がした。
私の腕を掴んでいた男は、いつの間にか消えていた。下を見ると地面に倒れてる。

「そう何度も笛を吹かんでも聞こえておるわ」

「ど、どうして……」

倒れた男の背中の上。
犬耳の形に見える帽子をかぶった、黒髪に褐色の肌の少女が仁王立ちになっていた。

「マオ様!」

「私の連れが世話になったようだなぁ」

ニンマリと太々しく笑う。

「お礼をしないとのぅ」

赤色の瞳が煌めいた。



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