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OODAループで加速する自由進度学習

片田舎で5年生の担任をしているわいです。

前回の記事で、子ども達に学びの支えになる「思考の型」のようなものを手渡したいという考えを書きました。

そこで私が注目したのがOODA(ウーダ)ループという思考のフレームワークです。
今回はOODAループと自由進度学習と組み合わせた実践について書いていきます。


はじめに:OODAループとは

OODA(ウーダ)ループとは、迅速な意思決定と行動を実現するための思考のフレームワークです。Observe(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意思決定)、Act(実行)の4つのステップを高速で繰り返すことで、変化に対応しやすくなります。

OODAループは、元々は空中戦の戦略として考案されましたが、現在ではビジネスやスポーツなど様々な分野で応用されています。OODAループの特徴は、PDCAサイクルとは異なり、必要に応じて途中で前の段階に戻ってループを再開したり、状況に応じて任意の段階からループをリスタートしたりできることです。これにより、意思決定の自由度や柔軟性が高くなります。OODAループを上手く活用することで、競争力を持った意思決定と行動ができるとされており、企業単位で導入されている例もあります。

以下のサイトや書籍に詳しいです。

そして個人的に重要だと思っているのが、OODAループ自体は「ごく一般的な思考のプロセスである」ということです。OODAループは何か特別な思考ではなく、我々が普段行っている思考を言語化したものであると思っても良いかもしれません。
いつもは無意識に行なっていることをあえて意識的にすることで、自分の状況を俯瞰し、意思決定や行動に良い影響が出てくるのだと思います。

OODAループの教育現場での活用事例

OODAループが教育現場で活用されている例については、あるにはあるのですが非常に少ないようでした。私が参考にした資料の一部を紹介します。

文部科学省委託事業「これからの時代に求められる資質・能 力を育むためのカリキュラム・マネジメントの在り方に関する調査研究」(令和元年度 ・令和2年度)の研究成果として信州大学が発行したハンドブックでは、PDCAサイクルとOODAループの組み合わせの必要性が指摘されています。

また、PDCA サイクルと対比させながら OODA ループの有用性について論じた論文もありました。こちらはOODAループにD(デザイン)を足した、D-OODA(ドゥーダ)ループによる実践です。

OODAループという思考のフレームワークが、私が子ども達に手渡したかった「思考の型」になり得るのではないかと考え、教室で行なっている自由進度学習と組み合わせた実践を行いました。

OODAループを教室に持ち込んでみた

OODAループを子ども達に手渡そうと思っても、いきなり「OODAループ」などと言い出しても子ども達にとっては意味不明です。何なら大人が初めて「OODAループ」と言われてもよくわからないでしょう。「PDCAサイクル」ほど知名度がある言葉でもないからです。普段情報交換を行なっている先生に「OODAループ」の話をしてみてもあまりピンときていないようでした。わかりやすい導入に加え、なにかとっつきやすい言葉に変換しておく必要があると感じました。

そこで、下記のような図を作成しました。

子ども達に示したOODAループの図
  • Observe(観察)→かんさつ

  • Orient(状況判断)→りかい

  • Decide(意思決定)→けってい

  • Act(実行)→こうどう

  • ループ→ふり返り

子ども達に馴染みのある5つの言葉に整理し直してオリエンテーションを行いました。子ども達はこの頭文字をとって「かりけこ学習」なんて呼んだりしています。
「願い」の部分にはクラスの全員にわかっていて欲しいこと、クラスの文化のような文言が入ることになります。今年度のクラスの場合は「全員達成を諦めない」という願いが入りました。この願いがOODAループを繰り返す中での「基準」になります。

実際の授業での活用

実際の授業の様子について書いてみます。
まず私の学級では自由進度学習を行なっています。学習カードをもとにして、子ども達自身がその日やる範囲や、学習方法を自分で考え、学んでいきます。これに関して詳しく説明してしまうと、本論から逸れるのでまた別の機会に。とにかく、自由進度学習にOODAループを持ち込んだというイメージを持っていただければ十分です。

参考までに、3学期に向けて作成している学習進度表(まだ未完成)を載せておきます。
正直まだまだ改善の余地ありです。

授業を「デザイン」する時間(OOD「かんさつ」「りかい」「けってい」)

授業が始まると、子ども達はその日の授業の「デザイン」を行います。

「デザイン」の時間に見せているスライド

今の自分の状況を「ありのまま」に書き、それに照らし合わせて自分の今日の学習方法の見通しを立てます。そして、35分後に到達しておくべき自分の「ゴール」を決めます。行動する時間がなくならないよう、5分以内に決めて書き上げるように子ども達には話しています。
また、ここで「デザイン」した内容は授業の途中に修正することも可能です。その時その時の自分の状況を観察して、必要であれば変更を加える。ノートに記述が残るわけではありませんが、これも「観察」「理解」「決定」のプロセスを経ての「行動」です。そうやって自分の学びを調節していきます。

子ども達は修正が必要と感じたらいつでも「デザイン」を変更できる

35分間各々の方法で学ぶ(A「こうどう」)

自分の「デザイン」をもとに、子ども達はそれぞれのペースで学び始めます。タブレットで調べ物をする子、教科書を読み込む子、机をくっつけて話し合う子、じっくり考えるために図書室へ向かう子とさまざまです。
その間私は何をしているかというと、とにかく子ども達の学ぶ姿を観察し、価値づけます。
例えば算数「図形の面積」の時間こんな子ども達のやりとりがありました。

A「ねぇねぇ、教えてほしいんだけど…」
B「どうした?」
A「三角形の面積ってどうやって出すの?」
B「えっとね…。まずさ、平行四辺形の面積ってどうやって考えた?」
A「長方形に変形して考えた」
B「うん。じゃあさ、三角形でも同じことできそうじゃない?」
A「…あ、そっか。ありがと!」
B「がんばって!」

こういった姿を自由進度学習中に絶対に見落としてはいけないと思うのです。もしここでB君が「底辺×高さ÷2だよ」と答えていたら「どうしてその式で出るんだろうね?」と一言声をかけていたと思います。しかし、B君は「三角形を長方形として見る」という、数学的な見方・考え方を働かせてアドバイスしました。こういった姿は必ず全体にも広げます。すぐさま伝える時もあれば、次の時間の初めに話すこともあります。
教科の見方・考え方を働かせている子や、それにつながる行動をとにかくよく観察し、見つけ、広げていく。これが自由進度学習中の授業者の主な動きだと思っています。
軌道に乗るまではぼんやり子ども達を眺めている暇なんかありません。授業者はとにかく忙しいです。

ふり返りの時間(ループ)

授業終了10分前になったら、区切りの良いところで「ふり返り」を行うように促します。
ふり返りでは「自分のデザインした35分はどうだったか」「交流した人とのやりとり」「その授業の内容について」「次の時間に向けて」の4つのパーツで書くように伝えています。

導入初期はスライドで説明しながら書き方を伝える

ここで自分が書いたふり返りを、次の時間にの「デザイン」の材料にしていきます。「ふり返り」を「観察」して現状を掴むというイメージです。そうすることで、毎時間の授業がぶつ切りにならず、子ども達一人一人がスムーズに学習に向かうことができるようになりました。

テストとか大丈夫なの?

こういった実践を行っていると必ずといって良いほど聞かれるのが「そんなに子ども達に任せて、テストの点とか大丈夫なの?」といったことです。実感としては「上がることはあっても下がることはない」です。
実際に一番実施期間の長い社会科で、単元ごとの平均得点を算出し比較してみました。さすがに詳しい点数は公開できないのですが、実践導入後は8.5~9割近くの点数でずっと推移していました。点数が全てではありませんが、学校の単元テストで点数を取れないような実践ではまずいと思います。その点に関してはクリアできているようです。

子ども達はこの学習スタイルについてどう感じているか

2学期の終わりに子ども達にアンケートを取ってみました。
3学期以降の実践に繋げていくためのアンケート…という位置付けだったのですが、思いの外子ども達は好意的に受け止めてくれていました。

自由記述の内容については「周りに合わせる必要がなくて良い」「友達との関わりが以前より良くなった」「普段話せないけれど、授業でなら話す人が増えた」「自分の学習をコントロールしやすい」といった回答がありました。(子ども達の記述そのままは載せられませんでした。ゴメンナサイ…)
自分で自分の学習を調整していくための「思考の型」として、OODAループは一定の成果を上げていると感じています。

おわりに:「失敗」の価値

OODAループという思考のフレームワークは、自由進度学習との相性がかなり良いと実感しています。
授業が始まったらまず「デザイン」。そしてその「デザイン」のための材料として「前回のふり返り」と「学習進度表」がある。そして学び方は自分で選び取っていく…。
突き詰めれば「デザイン」→「行動」→「ふり返り」という3ステップを、OODAループを使いながら繰り返していくわけです。構造としてはシンプルなので子ども達も迷いません。そして子ども達は見通しが甘かったり、やり方が良くなかったりと、たくさん失敗します。この失敗こそ次の「デザイン」の糧になります。子ども達が自らの学びを調整する力を身につけるには、とにかく失敗と修正をたくさん経験させる必要があります。「行動」した者勝ちです。

今後に可能性を感じる実践となりました。まだまだ考えて続けていきたいと思います。

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