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今、配給者がミニシアターで出来ること。

首都圏のミニシアターの多くが営業再開をした6月1日、向かったのは横浜シネマジャック&ベティだった。久しぶりに電車に乗ったことに緊張感があったが、ジャック&ベティに着くと、なんだかホッとした。透明シートに覆われた劇場窓口や一つおきの座席に貼り紙がしてあるのは、もちろんこれまでと違ったが、スクリーンに向かって座るといつもと同じ光景が広がっている。でも、これが当たり前じゃないことはこの2ヶ月の間、身にしみた。


上映後、支配人の梶原さんにHelp! プロジェクトで、配給作品の上映に合わせたオンライントークイベントをやりたいとご相談した。すぐにご快諾頂いて、本当に嬉しかったが、年350本上映している劇場で急にイベントをやりたいと言っても実施には時間がかかるだろうと思っていた。それもいつでもよい訳ではなく、プロジェクトメンバーの配給作品がある時という縛りもある。すると「ザジフィルムズさんの特集上映には40分くらいの休憩時間が取れる日がありますよ。来週ですから、すぐですけどね」と奇跡的な展開。さすが映画の日には神がいるのかなぁ。これはザジさんにお願いするしかない!と、すぐに代表の志村さんにメールした。実は志村さんにはリアルにお会いしたことがない。プロジェクトのオンライン会議でお会いしたのが初めてだった。業界の大先輩なので、こちらはもちろん知っていたし、去年劇場で観た作品を配給会社別にするとザジフィルムズ配給が恐らく一番多かったと思う。無理なお願いできるほどの関係性が作れていないのはわかっていたが、ここはとにかくお願いしてみるしかなかった。志村さんからはすぐに「面白そうな企画ですね」と返信があった。日程を調整すると、実施日はちょうど1週間後の一択だけ。ホントに無茶ぶりですみません!しかなかったが、快く引き受けてくださった。ただただ有難かった。


なぜ私が誰にも頼まれてもいないのにこんなことをするかというと、この2ヶ月の間、色んなことを考え、同業者と話し合いを重ねていくなかで、配給者にとって劇場上映こそが存在意義だと改めて気づかされたからだった。配給者が配給する上で大切にしていること、楽しくて仕方がないことは全て劇場での上映のうえに成り立っているといっても過言ではない(これについては、また改めてゆっくり書くことにする)。だからこそ、これからは、配給者は映画を劇場に供給するだけではなく、共にこの難局を乗り越えていくための新たな関係を劇場と築いていくべきだと思っている。


ジャック&ベティの梶原さんもその1人だが、ミニシアターにはそれぞれ「顔」がある。ミニシアターの名前を聞いて思い出すのは、劇場そのものよりも、いつもお世話になっているあの人の「顔」だ。ミニシアターの常連のお客様も、きっとその「顔」に会いにきているのだろう。残念ながら配給者の「顔」は一般的には知られていない。今まではそれでも生きていくことが出来たが、withコロナの時代にそのままでは生き残っていけないのではないだろうか。そして、ミニシアターの「顔」の力を借りながら、ミニシアターという場で配給者が「顔」を見せていくことは、配給におけるパラダイムシフトにつながっていく。今回のオンライントークイベントに熱いお客様の反応があったことで、それを実感することができた。一歩ずつ、出来ることから、進んでいかなきゃね。どこに行くかはまだ全然わからないけど。


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