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ヴァーチャルカンヌ、ありがとう!

あっという間に今年も半分が終わったが、上半期最後はヴァーチャルカンヌに参加した。完全オンラインで開催された今回は、もちろん映画を観ることもできるが、映画祭というよりマーケット。いつも華やかな映画祭の裏で繰り広げられている映画の売買マーケットのためのプラットフォームを用意したということだ。いくつかのシステムの組み合わせなので、最初はよく使い方がわからなかったが、慣れてくるとよく出来たシステムだと感心した。上映の時間もそれぞれが登録したタイムゾーンで告知してくれる。ちゃんとした(笑)配給会社の皆さんはきっとミーティングをたくさんやってるんだろうなぁと思いつつ(しかし、オンラインのミーティングだったらカンヌ期間中じゃなくても出来るよね)、弱小フリーランスは、マイペースに探していくしかない。気になる作品はチェックして、試写がなかったらオンラインで観られるスクリーナーを依頼して、いくつか心に残る作品に出会った。色んな文化に触れて、単純だが、やはり映画っていいなぁと思い、この映画はどんな人が待っていてくれるだろうかと妄想するのが、配給者としての至福のときだ。

今回、95ユーロを払って参加した一番の目的はカンファレンスにあった。今は、コロナ禍において映画館が閉鎖となり劇場公開ができないという世界中の映画業界が危機的状況を共有するとき。こんな機会はめったにない。様々なトピックで開催されたカンファレンスは、とても有意義だった。主に配給やマーケティング、配信に関するものを見ていったが、とにかく動きが早いという印象。閉鎖されたらすぐに自社で配信を走らせた劇場やローカルの映画館をサポートできるランディングページを作った配給会社、ステイホームなオーディエンスのデジタルデータを集める新たなサービスなど、みんな探り探り動き出していたのが、正直、眩しかった。

NetflixやAmazonに呑み込まれない(オーディエンスに気づかれないという意味も含めて)ように、独立系のアート映画を守っていくためのポジティブな試行錯誤が、この数ヶ月のクラウドファンディングをメインとした日本の映画業界の動きとはかなり異なるように見えた。もちろん、私が知らない動きがあるかもしれないが、現在の日本の映画業界において新たな動きがなかなか見えてこない要因としては、2000年代以降、年間興行収入が更新されていっても、大手(主に東宝)に利益が集中するように構造化されていったことが考えられる。大手以外の独立系は少ないパイをめぐって争っている。儲からない、勢いがない業界に新たな投資は入らないし、優秀な人材も流れてこない。アップリンクのパワハラ問題も、もちろん個人の問題でもあるが、業界全体の硬直化の問題が背景にある。「生存者バイアス」という指摘が的を得すぎていて、恐ろしくなった。

しかし、出来ることはまだまだあることを教えてくれたヴァーチャルカンヌ。元気をもらった。コロナ禍前と同程度の劇場上映での収入に戻るのはいつになるか、正直わからない。それまで厳しい道のりなのは間違いない。サバイブするための試行錯誤を、恐れずにしていくしかないのだ。


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