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今週のkinologue【9/5-11】

ようやく夕方に秋の風を感じるようになった今週、2本の映画の字幕チェックや宣材物制作、劇場会議やらで目まぐるしい、、、論文も書いてるし。それでもしっかりお楽しみもあって、緩急のついた1週間だった。

先週に続いて、今週も字幕に追われる。ドキュメンタリー映画の字幕制作が佳境に入った。仮ミックスと言われる字幕初稿が載ったものを見ながら、コメントを入れていく。今回はセリフよりもナレーションが多い特殊な作品で、何種類かあるナレーションをどう区別するか、更にテロップも多いので配置はどこがベストかなど、あまり経験がないことと格闘。字幕特有の制約もあり、正解があるのかわからないまま、決断を迫られる。訳について疑問があったところに大幅な変更を提案してみたら、あっさり通ったりして、それはそれで不安にさせる。英語が得意な訳ではないし。今回の制作会社はほぼ意見を言わないようで、翻訳者のコメントを戻してくるのみ。翻訳者は色々調べて言葉を選んでいるものの、その事実確認や校正はこちらでやらねばいけない。そして、宣伝にもつながるように、観客にわかりやすいように、と考えて決めなくてはいけないことが山ほどある。今回は諸事情で、初号より前にオリジナル言語の監修を入れることが出来ず、とりあえず初号用(上映用制作のときに修正可能)として、あと3日で一旦仕上げることになっている。時間的ゴールはあるけど、ホントのゴールが見えない作業ってつらいわ〜

2年越しで念願のランチ@カメイノ食堂に癒される

・・・という日々のなか、翻訳家と校正者のトークイベントに行った。校正者の牟田郁子さんの新刊「文にあたる」を記念したイベントで、その対談相手が敬愛してやまない翻訳家の岸本佐知子さんだった。翻訳家と校正者は出版業界の「中の人」(作家や書店員等とは違って、表には見えない仕事をしている人という意味)。お二人ともコラムを書いて本を出されているので、完全に「中の人」とは言えないかもしれない。岸本さんは「岸本さんの翻訳だから」買うという人も多いので(ルシア・ベルリンはまさにそうだっだ)、ある意味、作家以上のバリューがある翻訳家だ。映画業界の「中の人」としては、この出版業界の「中の人」たちのトークには興味津々。お二人は今日が初対面(とは思えないほど打ち解けていた様子だったが)。でも岸本さんが翻訳した短編を牟田さんが校正したことがあって、原稿を通してのお付き合いはあったという。1本の原稿に対して、かける時間の長さは違うものの、翻訳と校正という仕事には共通点が多いよう。まだ辞書に載っていないイマドキな言葉をキャッチするのは、家に篭って仕事をしているお二人はtwitterと声を揃える。牟田さんは師匠から伝授されて全部を調べた上で大事なところだけを確認するようにしているとか、岸本さんは原文を音読してリズムを感じるようにしているとか、それこそ「文にあたる」ときの流儀がある。使っている道具(岸本さんはワープロ&電子辞書派)、仕事中に食べるもの(お二人とも甘いものは欠かせないらしい)にこだわりがあるのもイイ話だった。
楽しいお話を聞いていると、ボンヤリ「本って幸せモノだなぁ」と思った。原稿を生み出す作家だけでなく、本になる前の原稿の段階でこんなに真剣に向き合ってくれる人たちがいるなんて。もちろん、そこには原稿を本の形にしていく編集者もいる。映画に置き換えたとき、配給の役割は編集者に近いのかもしれないが、全く違う目で見るプロの字幕校正者はいない。配給の中でダブルチェックをしても、やはり客観性には欠ける。映画の場合は言葉だけでなく、映像という大きな要素があるので、字幕のぎこちなさをカバーしてくれることも多いと思う。しかし、本当にそれでいいのだろうか。サインを書いていただきながら、牟田さんにそんな話をしてみたら「映画の字幕に校正者はいないんだろうなぁと思ってました」と。映画を観て、きっと気になるところがたくさんあるのだろう。岸本さんを前にしたら珍しく緊張してしまい、お二人に聞いてみたいことがあったのに聞けなかった。それは「読者のことをどれくらい意識しているか」ということ。お二人とも作品とは距離を保ちながらも寄り添った仕事をされているのはお話から見えてきたが、読者に対してはどうなのだろうか。映画の場合は観客になるが、私は観客に伝わるかどうかをとても意識している。なので、ちょっと踏み込んだ訳にしてしまうときもある。これは作者(作家・監督)が本当に伝えたい言葉なのか、とのせめぎ合いがあるのはきっと同じなのだろうけど、そこのところ、聞いてみたかったと残念でならない。

信頼する友人がオススメしてくれたので、何とか時間を作って行った「工藤麻紀子展 花が咲いて存在に気が付くみたいな」@平塚市美術館。自分の中の思わぬ琴線に引っかかる作品ばかりで面白かったが、後から作品リストでタイトルを確認したら、全く違う楽しみが湧いてきて2巡め。意外性のあるタイトルが多かったが、出口近くにあったこの絵はしっくりきた。

「遠くへ行ってもいいし ここにいてもいい」

思いがけなくよく晴れた日曜日。海の近くで畑しごと、日焼けした。海の家が解体され、ほどよく秋を感じる夕暮れ。

写真を撮っている人がいっぱい


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