ボタンダウンシャツ

ボタンダウンシャツの評判が悪化している。
「失礼」「格好悪い」「だらしない」「物を知らない」
実際、なかなか売っていない。
たまにあっても、ボタンホールを違う色の糸でかがった、奇妙な物だ。

元々、普通のシャツに対して、ややスポーティーな装いという意味ではあった。
バブル時代には、ソフトスーツにもブレザーにもよく使われていた。
またビジネスの場では「自分ではヤリ手のつもり」な男に特に愛用された。

今のビジネスでは、本格的な仕立てのスーツなど、廉価帯には無い。
化繊ストレッチ素材によりサイズを減らしてコストダウン。
スーツといっても、シャツ程度の布地と仕立てになっている。
あくまでも「遠目にはスーツ風に見える化繊ジャケット」に過ぎない。

ここまでスーツが簡略化されているにもかかわらず。
ネット検索で「ボタンダウンはスーツにNG」「ボタンダウンはビジネスでは失礼」と言ってしまうのが、実はけっこう怖い。

スーツは、この4,50年で。
本格オーダー → アンコン仕立て → ソフトスーツ → 三つボタン  → 化繊ストレッチウォッシャブルリクスー と軽く柔らかく変わってきた。
バブル時代のソフトスーツと比べても、今のスーツは「黒い体操服」程度に簡略化されている。
そうした背景を抜きに、検索で得られた結果に少し誇張を足して「ボタンダウンはビジネスで失礼」まで言い切る。
自発的に規制を増やしたがり、より狭いこと言った方が物識りに見える。
そういう検索頼みの知識が、ヤバいなぁ、と思うわけです。

ビジネスマナーに限らず、交通マナーでも、学術でも、表現や創作でも、由来や調査なしに、検索で出た物に少し誇張して、新しい規制を唱える。

たとえば、街頭スナップ写真は、本来「性的姿態」「著名人の営業権」だけが禁止事項だが、今は「通行人が含まれていては不可」まで暴走している。

うちの息子「授業中にシャープペンシルで字を書いたので、教師を刺そうとしたに違いない」と親が中学に呼び出された。
「じゃどうやって字を書けば?」
「それでも刺したんです」

かつては大学1年なら成人と見なされて20歳前に酒を飲んでいたが、それが未成年飲酒禁止になって、今は学生の飲酒自体自粛へ。

「オートバイは危険」から「自転車は危険」になり、いよいよ、国民の移動の自由も無くなりそうな勢い。

なんか、国じゅうが ♪いーややいやや せーんせにゆーたーろ
が生きがいになった状態。
国民の「自発的な北朝鮮化」ってのは、世界史に残る珍事だと思う。

クールビズ・ノーネクタイ・機能性スーツ、といった軽装で「ボタンダウン禁止」だけが新規に湧いてきたのが、なかなか気持ち悪い。
服屋の倅は思うのですよ。

こうして、環境や状況を無視した禁止事項が出てくる仕組み。
検索頼みに加え、故事来歴を調べないとか、誇張を足して許容範囲を狭めたほうが偉いとか、知的な劣化が感じられて、やだねぇ。

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