分水嶺 転職のこと
僕が今の会社に十二年務めることが出来たのは、ひとえに茶師十段になるという夢があったからです。
十二年の中で「退職したい」と何度か感じましたが、結果として勤続しました。
入社試験のときに書いた作文が、もやもやと胸に留まっていたからだと思います。
「仕事をすれば思い通りになることばかりじゃないだろう。それでも自分の目標がある限り、踏みとどまることが出来るはずだ」
つまり茶師の高段位取得者になるために、歯をくいしばり、踏みとどまって働いていたという。
そんな風にして仕事を継続すると、執念とも美学ともつかない意思が生まれてくるものです。
少なくとも「この会社がいやだ」という気持ちで転職するべきじゃないと考えていました。
ではどんな時に<次の道>を検討するべきだと考えていたのか。
勝ち筋の見える新たな挑戦が見えた時か、目標を達成した時でした。
言葉を選ばず言えば「業界キャリアが十年前後になったら、いまさら引くに引けねえ、いけるところまではいく」これなのです。
それとはまったく別の文脈で、中学の先輩から「自分の右腕になって欲しい、一度真剣に考えてほしい」オファーがありました。
彼は最近会社を継いだのです。
その先輩は昔から華やかな人でした。
ヤンキーにもオタクにも分け隔てなく、嫌味なく明るく接するまれな人です。
大人になった今ならよくわかります。
根っから他者に興味がある人は稀ですよね。
情に厚く、誠意があり、素直で、明るい。
その上、面が良いんです。
当然モテていました。
ヒキが強いのは、徳が高いからでしょうか。奥さんの父親の会社を継いだというわけです。
そんな人物が、何故僕を?
しかも右腕に。
どうやら僕の<人を評価する目><理解する力><言語にする力>に魅力を感じたようでした。
・状況の適切な言語化
・人の感情の移ろいの言語化
これができると社内外問わず情報共有がスムースになるし、対策も適切なものになる。だから僕が入社することによって
① 社長の意思を反映した営業・交渉が出来ること
② 力を発揮しやすい社内人事が実現すること
これらを期待しているようでした。
経営について相談をしたいと言うじゃありませんか。
まったくの異業種なのに、僕はずいぶん高く買ってもらえました。
けれども、そもそも僕にそのような力があるのか。
そこはどうなんだ、と。
「できるな……」
直感しました。
僕は自分に自信がある性格ではありません。だから直感した後からずいぶん悩みました。
そういうことってありませんか。
刹那に直感してるのに「フラグが」「過去の失敗が」「ジンクスが」「自分の傾向が」後から別のレッテルをべたべた貼りつけて、自分のくだした評価を濁らせてしまうこと。
結局それらのレッテルを再び点検することになり、最初の直感に手応えがあると感じたのです。
できる。
なぜ出来ると思うか。それこそ言語化するのは難しいのですが、強いて言うなら、大切にしていることに共通点があると感じたから。
正直、素直、信じること。
根っから人が好き。
たぶん打算と誠意のバランスも同じ、もし違ったとしてもその割合はおそらく理解できる。
(僕はあの人ほどカリスマはないし、モテたりもしませんが)
しかし。
だからと言って転職するのか?
では、茶師十段の目標の方はどうする。
僕は三週間悩んで、転職を決意しました。
結局、自分の人生を引いて見た時の<勢>※を大切にしよう、というのが決意の理由です。
直後の茶審査技術競技大会で昇段して七段になりました。
「これでこの夢の道は終わりか」そう思ってみたものの、あまり実感はありません。
それよりも、この昇段すら自分の転職を後押ししているかのような気持ちになったのでした。
七段、個人的に茶の活動をする時に説得力がある段位。
※場の流れ、大局、趨勢
勤めている会社の社長に伝えたところ
「それ、今の会社の状況についてはさておき、ええ話っぽいな。次の会社のことはよく分からないけど、まあええ話に感じる」
なんというか、とてもポジティブな反応でした。
無理なくに自然に動いていくこの状況をみて「観方はあってるっぽい」と思いました。
<ここには書いていないこと>
いずれは書くかもしれない
・夢の共通点
・転職を勧められたこと
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