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必修科目こと、彼氏彼女の事情

 いやそんな大げさなもんじゃあないんすけど。
 男女問わず同世代のマンガ読みが異口同音におすすめしている「彼氏彼女の事情」
 有給消化を利用して読みました。21巻セットで送料込みの1,200円。
 アニメ版は視聴ズミで、気にはなっていたんです。
 ですのでストーリーラインは知っていました。僕にとって、なかなか現実感のある物語だったので、いずれ原作も読みたいなと思っていたのです。感想を聞かせてね、という声もあったのでここにまとめることにいたします。

 感想は一馬君と芝姫ちゃんのエピソード以前と以後で切らなきゃいけません。12巻ですかね。
 なのでまずは12巻まで。
 マンガの教科書に乗せたいパワフルなテンプレが複数扱われていて、どれもぐっと胸に迫ってくるので「すごい、上手いな」と思いました。
 クオリティ高い。
・仮面優等生が恋によってペルソナを剥がれていく(有馬・雪野)
・ライバル視から友情への変化(雪野・真秀・芝姫)
・幼馴染へのコンプレックスが恋心に(十波・椿)
・隣人愛(少女への情)から男女関係への昇華(真秀・貴志)
・隣人愛(義兄弟)から男女関係への昇華(一馬・芝姫)

 こんな力強いテーマは、本来ワンテーマで一作品出来るくらいです。けど彼氏彼女の事情では、一つの鍋にぶち込まれて煮込まれ、しかも味が成立しているので作者の地力がすごいんでしょう。驚きました。
 きっと当時ファンの間でも最新話がこころまちにされていたことでしょう。

 で、13巻以降。親子問題。
 親子問題と恋愛というのは相関関係である。そこんところの哲学は作者の津田先生と同意見です。いちいち「僕の場合は」なんていうのはここに書く意味もないのでやめまして、一番最後にノートの引用を添付しておくので、なんにもやることがなくなって顔の角栓を抜くくらいしかすることがなくなった時に、万が一思いだしたら読んでください。主人公の有馬君と似通った道を、辿ったっちゃあ辿った方だし?

 さて。
 幼少期に負った心の闇で、恋愛がうまくいかなくなるなんて日常茶飯事ですよね。
 ん?違う?恋愛なんて親子関係の焼き直しでしょ?
 ああ、そもそも心の闇を負う、というのが普通じゃないか。

 まあ、でも心の闇を負うこともありますよ。珍しくはない。
 人間、親子関係で測った他人との距離感を基礎として、あらゆる人間関係を築くものですよね。意識せずとも。
 不運にも親子関係でこじれたら男女関係でうまくいかないし、もし男女関係がうまくいったとしたら、まあ子ども(ができたとして)との関係がうまくいかなくなる。もしくは隣人他者との関係が変になる。 
 なぜかというと親子関係をとばしてそれをやると二人きりの世界で完結して、周囲との交流が途絶えてしまうかなって思いません?
 いや、身近な例があるもんで……

 そして「不運にも」といったけど、現代日本にはありふれていますよ。そこはやっぱり。もはや特別視するようなことじゃないしね。
 90年代に連載が開始された彼氏彼女の事情ですけど、そこがしっかり描かれていますよね。それに舌を巻きました。

 まず親子関係の回復。
 しかるべき後に、男女関係の成就。

 津田先生はそうしなければ登場人物たちが幸せにならない、といっているように見えます。それが僕の哲学と一致する。

 有馬君が立派なのは、一人目の彼女である雪野ちゃんとおつきあいしている間に母子関係・父子関係をクリアにして結婚にこぎつけたこと。尊敬します。しかも高校生で。
 妊娠を告げられた時、一瞬傾いでから心を立て直す描写なんて、リアルすぎて鳥肌がたっちゃった。おめでたいです。それに尽きる。

 僕はたしか28歳の時に今の奥さんとお付き合いを始めました。
 その時彼女は21歳の大学2年生でしたよ。
 正直「俺はいったいどの面下げて女子大生を口説いているんだろう」と思いましたもの。
 資産もない、実家もない、もちろん援助もない。
 あるのは職と返済中の奨学金だけ。
 それでよく身持ちのかたい大学生のお嬢さんを口説くな、正気かな?つってね。

 僕の手持ちは精いっぱいの誠意くらいなもんでした。
 「一応、過去の恋愛はもちろん、親子関係の清算もきちんとできている。もしよければ僕と付き合って欲しい」
 といいましたよね。
 内心では「過去の恋愛の清算はギリ分かるかもしれないけど、親子関係の清算が出来ている、は21じゃちょっとわかんねえだろうな……」って思ってました。
 いいんですよ。
 布石を打っておくことに意味があると思っての言葉だったんで。それに先にも書いたように「誠意」だけが手持ちだったんす。
 等身大で口説くわけですから、相手に伝わるかどうか勘ぐる前に、自分の最高到達地点を開示するのが誠意かと思いまして。

 後年になってインタビューしてみたら案の定「あれは意味わかんなかった」と言われましたよね。

 「だろうね、でもいまならそのすごさ、わかるでしょ」
 「まあね」

 親への感情をこじらせてないの、現代日本じゃ資産に等しい。
 最近は強くそう思います。

 どんな親であっても、感情をこじらせたままにしておくのは子どもの責任です。
 いや、まあ、責任は親にあるかもしれない。
 でもね。
 割を食うのは子ども。と、そのパートナー。
 解決しなきゃ人生がうまくいかないのは子ども。と、そのパートナー。
 そして先に死ぬのは親。責任が取れないのが親。
 だから、なんとかしなきゃいけないのは子ども。そして、パートナーには解決できない。

 彼氏彼女の事情を読んで、その思いをさらに強めました。


 以下、鼻の角栓が全部取れて、それでもやることがなくなったらよんでみてね。


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