見出し画像

多言語使用がアルツハイマー病を遅らせるのに役立つ話

こんにちは。
今回は、アルツハイマー病と多言語の関連性について記事をまとめたいと思います。

日本語でこのテーマに関する記事を探したときにあまりヒットしなかった為、自分が院で学んだことを綴っていきたいと思います。


認知症とアルツハイマー病の違い



アルツハイマー病は認知症の原因疾患の一つです。

「認知症」は病名ではなく、認識したり、記憶したり、判断したりする力が何等かの作用的障害を受け、社会生活に支障をきたす状態のこと。

そして、この状態を引き起こす一つの原因がアルツハイマー型認知症と呼ばれています。日本では認知症を引き起こす原因のうち、もっとも割合の多い疾患で、6割以上がアルツハイマー病だと言われています。



多言語使用とアルツハイマー病


アルツハイマー病が進行すると、神経細胞や神経細胞間の接続が徐々に失われていきます。このプロセスを遅らせるための方法の一つとして、脳の活動を早期に訓練することが大切で、日常的に多言語使用を使用することは、アルツハイマー病の進行を遅らせる有効な方法の一つとされています。


ミラノのサン・ラファエレ大学の研究者たちは、多言語使用がアルツハイマー病による初期の機能障害を遅らせるのに役立つという仮説を検証しました。

この研究では、アルツハイマー病のリスクを持つドイツ語・イタリア語バイリンガル45人(南チロルの人々)と単一言語話者40人の脳機能の比較しました。

長期記憶および短期記憶を確認する認知テストでは、多言語グループが顕著に優れた成績を収め、視覚・空間タスクをより速く、正確に解決することができました。

バイリンガルの被験者は、単一言語話者グループよりも平均して5歳年上で教育水準が低かったにもかかわらず、問題解決能力が高かった結果が出たのです。

また、PET (Positron Emission Tomography: 陽電子放射断層撮影)と呼ばれる研究方法で神経の代謝活動を測定したところ、バイリンガルのほうが

①脳機能が高いこと
②神経細胞がより密に接続されていること
③そして言語や記憶に重要な領域である部分により厚みがあること

を記録しました。


これらの脳を保護する3つの特徴は、生涯にわたって両方の言語を交互に話す期間が長いほど、より顕著に現れました。


従ってこの研究では、多言語の使用が神経細胞の損失を一時的に補い、機能障害を一時的に克服できる神経ネットワークを脳内に形成し、そして維持するのに役立つことが証明されました。また、バイリンガル話者のアルツハイマー病による機能障害が、単一言語話者よりも約4.5年遅く現れることがわかりました。



高齢者の多言語トレーニングや幼少期からの二言語教育は、アルツハイマー型認知症による神経機能の崩壊に役立つかもしれません。



参考文献

D. Peranie et al. (2017): The impact of bilingualism on brain reserve and metabolic connectivity in Alzheimer’s dementia. In: Proceedings of the National Academy of Science in the United States of America, Vol. 114, Nr. 7, S. 1690-1695.